
3月中旬、大阪市浪速区のライブハウスで開かれた音楽イベント「Grooving Night」。聴覚や視覚に障害のある計6人が一般客に交じり、大阪出身のアーティスト・SIRUPさんらのライブで盛り上がっていた。
聴覚障害者は、視界に歌詞などの字幕が浮かぶ特殊な眼鏡を装着。MC(曲間のトーク)を専門スタッフが即座に字幕化し、リズムや音の大きさを示す波形も映し出された。弱視の人は、配布されたタブレット端末に映るステージ映像を見ながら鑑賞。映像は指で拡大でき、アーティストの表情なども楽しんだ。

聴覚障害のある堺市の参加者(22)は「周りのお客さんと同じタイミングで音楽に乗れ、MCで笑えた。こんなこと初めて」と目を輝かせた。
鑑賞支援は、ライブを主催した読売テレビが試験的に実施。担当者は「すべての方々が平等に楽しめるコンテンツ制作を目指していきたい」とし、支援を進める方針だ。
改正法では、費用面などで「過重な負担」とならない範囲で、障害者への「合理的配慮」を民間事業者にも求めている。
舞台芸術の分野で取り組みが進んでいるのが、演劇界だ。宝塚歌劇は希望者にセリフなどが表示される小型端末を提供。東京芸術劇場は視覚障害者らに向けて、舞台セットや登場人物のいでたちなどについて事前に説明する会を開いている。京都市に拠点を置く劇団「ヨーロッパ企画」も多くの公演で、手元のタブレットにセリフなどを字幕で表示している。
一方、音楽ライブは即興性が高く、事前の説明や字幕対応が難しい面があった。今回のライブに協力したイベント制作会社・リアライズ(大阪市)の南部充央さん(48)は20年以上前から障害者の芸術鑑賞支援に携わるが、同規模の支援は音楽ライブでは数えるほどしか例がないという。
南部さんは「主催者の多くはいまだ、視聴覚障害者がライブを訪れているという認識がない」と指摘する。
舞台芸術に限らず「合理的配慮」が何を指すのか分からないという声は少なくない。このため内閣府は取り組み事例をオンラインで公開。障害者団体でつくる「DPI日本会議」も、障害者が実際に受けた合理的配慮の事例を集め、昨年から紹介している。
一方、タブレット端末の配備や通信環境の整備など鑑賞支援にかかるコストは様々。セリフなどの字幕化は、人工知能(AI)で自動的にできるものもあるが、時間差があったり、ト書き部分に対応できなかったりし、人の手に頼ることになる。人件費は重く、「過重な負担」と感じる事業者は多い。
音楽ライブの主催者らでつくる「コンサートプロモーターズ協会」は会員各社に対し、合理的配慮の取り組み状況に関するアンケートを実施予定で、担当者は「実例を積み重ねながら、できることを増やす努力をしていきたい」としている。
◆障害者差別解消法= 2016年施行。障害を理由とした差別を禁じる。障害のある人が社会的障壁を取り除くよう求めた場合、負担が過重にならない範囲で合理的な配慮をするよう行政機関に義務づけた。民間事業者は努力義務だったが、改正法で義務化された。
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