「ちょっと耳が聞こえにくい」…それはボケる前触れかもしれません

「ちょっと耳が聞こえにくい」…それはボケる前触れかもしれません

最近ちょっと耳が聞こえにくい、耳鳴りがする、飛行機に乗ったときのようなくぐもった感じがする―。もしそうした症状が少しでもあれば、すぐに耳鼻科に行ったほうがいい。なぜなら、単に難聴へと発展してしまうだけでなく、それが原因で認知症になる可能性が高いからだ。

耳の写真

近年、難聴と認知症の強い結びつきが明らかになってきた。'17年の国際アルツハイマー病会議において、世界的な医学誌『ランセット』の国際委員会が難聴を「認知症の危険因子」の一つに挙げた。さらに、'20年には「予防可能な要因の中で、難聴は認知症の最も大きな危険因子である」とも指摘している。それほどまでに、難聴は認知症と関係が深いと考えられているのだ。

たとえ軽度の難聴であっても、早めのケアが必要だ。「軽度難聴を放置すると、脳の認知機能の衰えが7年早まるというデータもあります」と、オトクリニック東京院長で慶應義塾大学名誉教授の小川郁氏は指摘する。

難聴が認知症を招く

では、なぜ難聴になると認知症になってしまうのか。小川氏が続ける。

「脳に入る情報量だけでいうと視覚が8割、聴覚が2割と言われていますが、認知機能においては、聴覚は非常に重要な役割を担っています。

というのも、聴覚から入ってくる言葉などの情報は、脳でその内容を理解し、処理・思考したうえで、反応しなければならない。そういう意味では、聴覚は視覚に比べて能動的です。ですから、聴覚はより脳の高次機能が刺激されやすいのではないかと言われています。

耳元で話をしてもらうおばあちゃんの写真

実際、独り暮らしで会話のない高齢者は通常の生活をしている方に比べ、より認知機能が低下しやすいと報告されています。会話をすること、つまりは『言葉を聞き、言葉を返す』というコミュニケーションが、脳にとって非常によい刺激になることはデータからも明らかです」

しかし、難聴を自覚するのは案外難しい。

「テレビを見ていて聞き取りづらくなっても、ボリュームを上げればよいので困らない。子どもがたまに帰ってきて『なんでこんなにテレビの音が大きいの!?』と指摘されてようやく難聴気味であることに気づくケースもある」(小川氏、以下同)

聴覚障害は外見からはわからず、「見えない障害」とも言われている。それゆえ、会話の相手は「声をかけても返事がない」と悪感情を抱きかねない。それが積み重なると、孤立の原因にもなる。

「そうなると、これまで続けていた趣味の会合などからも足が遠のくようになっていきます。特に、口数が少ない男性は孤立する傾向にありますから、注意が必要です」

鼓膜は意外に脆い

近年、小川氏の患者のなかには、難聴でなおかつ軽度認知症の人も増えてきているという。

「いまは90歳でも元気で、全身麻酔手術ができるような方がいる。もちろん、医学も進歩しました。寿命が延び、身体的機能が良い高齢者も増えている。

しかし、一方で耳が良くなっているかというと、そうではありません。そもそも、耳は非常にシンプルな仕組みの器官。音という物理的な振動を神経の刺激に変えているにすぎません。こういうシンプルな機能というのは、寿命が延びたからといって耐久性が良くなるわけではない。

問診を受ける男性の写真

しかも、現代はイヤホンなど、耳へ与える刺激が増えています。耳は目と違って24時間働き続けていますから、昔に比べて耳が酷使される状況になっているとも言えます。こうした理由から、60~70代で聴覚が衰えやすくなっているのです」

冒頭のような難聴の予兆があれば、すぐに耳鼻科に行くのがいい。さらに多少おカネをかけてでも、良い補聴器を使うのがなにより重要だ。

「認知症になってしまうと治療は非常に難しいので、認知症になる前、あるいは軽度認知症の段階から予防することがなにより大切です。なかでも難聴は認知症の原因となり得るので、少しでも難聴の傾向があれば、補聴器で聴覚の機能を補うのが重要です」

補聴器には助成金も

補聴器に抵抗がある人もいるかもしれないが、いまの補聴器は、これまでとは別物と言えるほど進化を遂げている。

「一昔前の補聴器はアナログで、個々人の聴力にあわせた微細な調整ができず、音が大きくなりすぎることがありました。しかし、現在の補聴器はフルデジタル化されています。小さなイヤホンのような形で、中にはデジタル制御のアンプ(音を増幅する装置)が入っており、非常に細かな調整ができるようになっています。難聴にも高音域が聞き取りにくい人や、逆に低い音が聞こえにくい人もいますから、そうした微調整ができるようになっているのです」

手のひらに載せた補聴器の写真

補聴器は1台数万円で買えるものから、数十万円する高級品まで種類が多いが、最初は「耳穴タイプ」がおすすめだ。

その際に、自治体が出す補助金も調べておきたい。助成金の有無や金額は自治体ごとに異なるが、たとえば東京都目黒区、世田谷区、豊島区、板橋区、足立区などは5万円までが助成されるので、使わない手はない。

聞こえにくい―。少しでもそう思ったら、それはボケる前触れかもしれないのだ。

「週刊現代」2024年5月11日号より

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