専門医が教える、60代後半で3人に1人がかかる「加齢性難聴」を予防する方法

専門医が教える、60代後半で3人に1人がかかる「加齢性難聴」を予防する方法

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健康
書評 難聴
2024/8/25

文/鈴木拓也

耳に手を当てる男性の耳元
画像はイメージです。

シニアの年代に入ると、難聴を自覚する人が増える。

難聴の原因はさまざまであるが、この年代で最も多いのが加齢性難聴だ。これは、加齢によって耳の聞こえが次第に悪くなっていくというもの。60代後半では3人に1人、75歳以上になると3人に2人がかかるという。

その原因は、耳の奥の内耳にある、音(空気の振動)をキャッチして脳に情報を伝える有毛細胞の衰え。一旦衰えると元に戻らないので、難聴は年齢とともに進んでいくことになる。


軽度の難聴でも発症リスクは倍増

「年をとって、多少耳が悪くなるのは仕方ない」と、鷹揚にかまえている人もいるかもしれない。

しかし、実は「難聴は認知症の最も危険なリスク因子」でもある。

そう指摘するのは、JCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長の石井正則医師だ。

石井医師は著書『70歳から難聴・耳鳴り・認知症を防ぐ対処法』(さくら舎 http://sakurasha.com/2024/04/70歳から難聴・耳鳴り・認知症を防ぐ対処法)のなかで、軽度の難聴でも、認知症発症リスクは難聴でない人の2倍に高まるとし、理由を次のように記す。

”難聴になると、音の情報自体が入ってこなくなるため、それだけ聴覚のネットワークも使われなくなります。しかも、難聴によって会話が聞き取れなくなって人とのコミュニケーションが減ると、音のほかにもさまざまな脳への刺激や情報量が激減し、いろいろなネットワーク機能が弱くなったり、使われない細胞が脱落して脳が萎縮したりします。(本書150pより)”

こうして脳の活動が全体的に低下し、認知機能が弱まって、認知症の発症につながる。また、相手の話が聞こえにくくなって、人とのコミュニケーションが億劫になり、社会的孤立になるリスクもある。

「たかが、耳がちょっと悪いだけ」とは侮れないのだ。


余分な内臓脂肪が加齢性難聴のリスクに

加齢性難聴は、年をとれば誰でも起きる可能性があるが、そのリスクを減らすことは可能だと、石井医師は説く。

1つは、余分な内臓脂肪を減らす。

内臓脂肪が多いと動脈硬化になりやすく、血液の循環が悪くなる。そのため、耳に十分な血液が行き届かなくなり、その働きは低下していく。

また、高血圧症や糖尿病といった生活習慣病も、動脈硬化のリスクを高め、結果として耳が悪くなる。

その対策として石井医師が挙げる1つが、食生活の改善。

例えば、十分な量のマグネシウムをとる。

マグネシウムは日本人が不足しがちなミネラルだという。これが不足すると、ブドウ糖の代謝が悪くなって、中性脂肪として蓄積されやすくなる。また、糖尿病などの生活習慣のリスクも高める。

そこで、そば、バナナ、のり、ひじき、豆といった、マグネシウムを多く含む食材を、普段の食事に加える。また、マグネシウムとペアになって働くカルシウム、くわえてビタミンDや亜鉛も積極的にとることがすすめられている。


「壁ヨガ」で加齢性難聴を予防

さらに、食生活とは別に推奨されているのが有酸素運動だ。

なかでもヨガが「とくに優秀」だという。石井医師は本書で次のように説明する。

”ヨガには、脂肪を燃焼させる効果のほかにも、ストレス緩和や自律神経をコントロールする効果もあります。まさに、耳の健康を守るのに、最適な有酸素運動といえます。
しかも、ヨガには認知機能改善の効果も期待できます。70代からの人生を健康で楽しく過ごすために、ぜひ取り入れたい運動です。(本書75pより)”

ひと口にヨガといってもさまざまだが、高齢者でも簡単にできる「壁ヨガ」が、何種類か紹介されている。

その1つ、「吸って吐いてだけバージョン」は次の要領で行う。

1. ストレッチをして身体をほぐしておく。
2. 左右の足を肩幅に開き、壁に向かって立つ。足と壁の距離は、腕の長さより1歩か2歩遠い位置に。両腕を肩の位置でまっすぐ伸ばし壁につく。このとき、身体は壁に対してやや斜めの状態(80~70度)になる。可能なら足裏を床につける。
3. いったん息を吸って、吐きながら、肘(ひじ)をしめるようにゆっくりと曲げ、胸を壁に近づけていく。
4. 壁につかない程度まで近づけたら、息を少し止める。
5. 息を吐きながら、壁を押してゆっくりともとの状態に身体を戻していく。
6. 3~5の一連の動きを10~20回繰り返す。
7. 慣れてきたら、壁から足の距離を少し離す。

壁ヨガ「吸って吐いてだけバージョン」(本書170pより)
壁ヨガ「吸って吐いてだけバージョン」(本書170pより)
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本書は、こうした加齢性難聴の対策にとどまらず、耳鳴りやめまいを含む、耳の諸症状に関する情報・セルフケアが多数盛り込まれている。耳に気になる不調があったら、読んでみることをすすめたい。


【今日の健康に良い1冊】
『70歳から難聴・耳鳴り・認知症を防ぐ対処法』

書籍の表紙『70歳から難聴・耳鳴り・認知症を防ぐ対処法』

石井正則著
定価1760円
さくら舎


文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。


リンク先はサライというサイトの記事になります。
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