日本で補聴器普及率が低い理由を考察「自己決定で聞こえる世界を選んでほしい」【専門家が教える難聴対策Vol.7】

日本で補聴器普及率が低い理由を考察「自己決定で聞こえる世界を選んでほしい」【専門家が教える難聴対策Vol.7】

2024.08.09 16:00

「日本における補聴器普及率は15%で世界に比べて低い水準です」と、認定補聴器技能者で補聴器専門店の代表を務める田中智子さんは語る。補聴器の普及率が低い理由とは? 補聴器を活用することでより良い人生の選択をするためのヒントをお伝えします!

聞こえにくそうにしている女性と男性のイラスト
聞こえにくいのに補聴器はちょっと…と感じている人も(Gugu/イメージマート)


教えてくれた人
認定補聴器技能者・田中智子さん

田中智子さん
田中智子さん

うぐいす補聴器代表。大手補聴器メーカー在籍中に経営学修士(MBA) を取得。訪問診療を行うクリニックの事務長を務めた後、主要メーカーの補聴器を試せる補聴器専門店・うぐいす補聴器を開業。講演会や執筆なども手がける。https://uguisu.co.jp/


監修
医師・江洲欣彦(えす・よしひこ)さん

さいたま市民医療センター 耳鼻咽喉・頭頸部外科。日本耳鼻咽喉科学会専門医・指導医、日本耳科学会認定医、補聴器相談医、身体障害者福祉法15条指定医。耳鼻咽喉科としての知見のほか、漢方など中医学にも精通し、「患者さんに寄り添い、話を聞く」ことをモットーに診療を行う。


日本の補聴器普及率は15%、世界に遅れ

 日本補聴器工業会の調査によると、日本では補聴器の普及率は15%となっています。これは、自分が難聴だと自覚している人の中で補聴器を所有している人の割合。難聴で困っている人のうち、6~7人に1人しか補聴器を使っていないということ。

 ちなみに、補聴器の普及率を世界と比べてみると、デンマーク55%、イギリス53%、フランス46%、韓国は37%と、日本は諸外国と比べてもかなり低い数値です。

※「APAC Trak JapanTrak 2022 調査報告」一般社団法人 日本補聴器工業会
https://hochouki.com/files/2023_JAPAN_Trak_2022_report.pdf

 補聴器の普及率が低い理由はどこにあるのでしょうか? 補聴器のことは知っていても、つけてもあまり意味がないと思っている人が多いのかもしれません。

 日本では昔から耳が聞こえづらくなっても、「年だからしょうがないよ」「お年寄りはそういうものだから」と難聴を放置しておくことが多かったと思います。

 前述の調査によると、難聴を自覚した場合に医師に相談する率は、日本では38%と少ない割合にとどまっていて、世界と比べて低い割合となっています。

 難聴の自覚率が低く、補聴器も普及していない。そんな状況を放置していてはいけないと、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会や補聴器業界をはじめ、さまざまな活動が始まっています。


マッチ60歳、聴力検査へ

 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会では、歌手の近藤真彦さんを起用し、聴力検査の重要性を訴えるキャンペーンを7月1日から開始しました。

 この活動を支援するACジャパンのテレビCMでは、観客の声が気き取りにくいと感じた近藤さんが、「マッチ60歳。聴力検査、デビューします」と決意する様子が描かれます。

 マッチが還暦というのも驚きなのですが、「聞きかえし、聞き間違いが多くなったら耳鼻科での聴力検査をおすすめします。聞こえにくさを放っておくと社会的孤立やうつ病、認知症につながるから」というCMのナレーションも印象的です。

※参考/「日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会」プレスリリース
https://www.jibika.or.jp/uploads/files/nichijibi_press_0625.pdf

 このCMでも描かれていますが、「聴こえにくい」と感じたら、まずは耳鼻咽喉科で聴力検査をするのが第一歩。しかし、聴力検査は受けたものの、補聴器を作るまでにもハードルがあるようです。


耳鼻科医が現場で伝えていること

「難聴の症状の患者さんの中には、困っているけど『補聴器をつけるのはちょっと』と抵抗を感じているかたも少なくないですね」

 こう語るのは、さいたま市民医療センターで耳鼻咽喉科科長を務める江洲欣彦(えす・よしひこ)さん。補聴器購入の現場や利用者さんがどんな風に活用されているのかも調査されている熱心なドクターです。

「補聴器をなかなか受け入れてくれないかたが多い」とわたしが感じている現状を聞き、江洲さんは、あるエピソードを教えてくれました。

「本当は補聴器をつけたいけど、お友達に指摘されたら恥ずかしいなど、補聴器の利用について悩んだり迷ったりされている患者さんもいらっしゃいます。

 そんなとき、私がよく患者さんにお伝えしているのが『自己決定』のお話です」(江洲さん)

「自己決定」という言葉は、医療や介護の現場でもよく使われる言葉。医師など専門家が提示した病状や状況、治療法を理解し、患者が自ら選んで決定していくこと。「自分がどうしたいのか、どう生きたいのか」が問われている。

「聞こえにくいことに気が付いて診察にいらっしゃったわけだから、今の状況をなんとかしたいという気持ちがあるんですよね。

 自分でしっかり情報を見聞きして自己決定したほうがいいですよね。そのために補聴器を使うことにしたのではないでしょうか? そんなお話をお伝えすることがあります。

 喫茶店で『コーヒーと紅茶、どちらにしますか?』と聞かれたとき、よく聞こえなくて『とりあえず、はい』と答えて、望まないほうが出てきたらがっかりしますよね。

 私たちは、生活のさまざまなシーンで人は自己決定を繰り返しているんです」(江洲さん)


喫茶店でウエイトレスさんと会話をする年配の女性のイ女性の
聞こえることで自己決定できる人生へ

***

 よく聞こえると、生活の中でさらに自己決定がしやすくなるんですね。確かに、聞こえないからどっちが来てもいいやじゃなくて、コーヒーか紅茶か、飲みたいほうを選べる人生のほうが素敵です。難聴に関しては「我慢は美徳」ではないと思います。

「難聴は放置せずなるべく早いタイミングで検査して、正しく補聴することをおすすめします。正しく補聴するには、専門家とともに各人の聴覚を活かした調整とリハビリが必要です。そのためのパートナー選びも大切です。

 寝たきりになってしまったら、いきなり走ることはできませんが、まだ歩けるうちに訓練やリハビリをすれば、また走れるようになるかもしれません。耳の健康も同様に、早めに気づいて対処することが大切です」(江洲さん)


★うぐいす智子先生のワインポイントアドバイス!

うぐいす智子先生のイラスト

生活のあらゆるシーンで「自己決定」は大切。聞き返し、聞き間違いが多くなったら、まずは耳鼻科へGO!


取材・文/立花加久 イラスト/奥川りな


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