田嶋香苗助教
掲載日:2026.10.01

学生時代の福祉との出会い
私は高校生の時「青少年赤十字部」で活動していました。献血ルームでのボランティア、毎週末の児童養護施設への訪問、手話や点字の学習、年に数回の養護学校(現在の特別支援学校)との交流会など、多くの活動を行っていましたが、この時はまだ「困っている人を手伝うこと」が福祉だと考えていました。
その後、大学で社会福祉学部に進み、「聴覚障害者問題研究会」というサークルに入りました。サークルには多くの聴覚障害学生が所属しており、部室ではいつだれが来ても会話に入れるよう、常時手話を使い話していました。またこのサークルでは手話の学習を行うだけではなく、聴覚障害者が生活する上で何が困難なのか、どうすれば学内や地域で過ごしやすくなるのかなどを、当事者の意見を聞きながら共に考え、学内教員に聴覚障害学生の情報保障に関するアンケートを行ったりしていました。こうした経験を通じて、福祉には「人を取り巻く環境」を整えていくことが不可欠であると考えるようになったのです。
阪神・淡路大震災を経験して
大学卒業後、市役所に就職して福祉事務所で高齢者福祉行政に携わる中、入職3年目の冬に阪神・淡路大震災が起こりました。私がワーカーとして担当していた方々の多くが亡くなり、何とか無事だった方も長年暮らした自宅から遠く離れた仮設住宅での生活を余儀なくされました。高齢者にとって急な環境の変化、特になじみのない地域でこれまで知らなかった人とご近所づきあいをすることは極めて大きな負担になったようでした。震災前は元気に地域活動をされていた方が、最低限の外出しかしないようになり口数も少なくなる様子は、見ていて大変つらいものでした。さらに仮設住宅から復興住宅等へ転居した後も、新たなコミュニティが形成されるまでには長い時間を要しました。このときにも私は、福祉を考える上での「人を取り巻く環境」の重要性を再認識し、また「人と人とのつながりのある地域」を構築していくことが生活を営む上で不可欠であることに気づいたのです。
「環境の中の人」を考えられるソーシャルワーカーに
ソーシャルワーカーは、困難を抱えている「人」に働きかけて問題を解決するだけでなく、人は「環境」に囲まれて生活していることを意識し、その環境、そして環境との関わりの中に生活のしづらさを引き起こす原因があるという視点を持つ必要があります。家族や近隣住民、地域社会との関係など、その人を取り巻く環境に働きかけ、生活をしやすくするよう調整していくことが求められるのです。
私が担当している「ソーシャルワーク演習」という科目では、ソーシャルワークの知識・技術・価値を学びますが、多くの知識や優れた技術を持つことはもとより、それらを支える価値観・倫理観を備えることが何よりも重要であると考えています。知識や技術を駆使し福祉サービスを導入して問題を解決するというだけではなく、人と地域・環境との関係性に意識的に着目し、目に見えづらい人の辛さや葛藤に気づき、その思いに寄り添い尊重する姿勢を持つこともその一つです。そうしたことを大切にし続けることができるソーシャルワーカーを本学から多く輩出したいと思います。
研究内容
私の関心は、高齢者をはじめとするすべての人が住み慣れた地域でできる限り長く、自分らしい生活を続けていくために必要な制度・政策、取り組みのあり方を考えていくことにあります。その際、必要な支援を公的な制度だけで行うのではなく、地域に暮らす人同士が、地域特性に応じて互いの生活を支え合うことのできる仕組みを作る必要があると考えています。
このことに関連して、近年は「災害と福祉政策」について研究を進めています。災害が発生すると行政機関が機能しないことが多くありますので、平時から地域の住民同士が助け合う風土を醸成していく必要があります。阪神・淡路大震災発災時に行政機関の混乱を経験した者として、行政機関・地域住民が協働する重要性を強く認識しています。
記事のポイント!
田嶋香苗助教は、学生時代に聴覚障害者問題研究会で聴覚障害学生と交流し、日常的に手話を使いながら、生活上の困難や情報保障について当事者と共に考えました。その経験から、聴覚障害のある人を支えるには、本人だけでなく周囲の環境を整える視点が欠かせないと気づいた経緯が紹介されています。
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