2025年05月27日 08:00
社説

聴覚障害や手話への理解が進み、誰もが暮らしやすい社会をつくる契機としたい。
聴覚に障害のあるアスリートが競う国際スポーツ大会「デフリンピック」東京大会の開幕まで半年を切った。「ろう者の五輪」と呼ばれ、1世紀の歴史があるが日本では初開催だ。各競技で代表選手が続々と選出されている。関心の高まりが期待される。
大会の名称は、英語で「耳が聞こえない」という意味のデフと、オリンピックを組み合わせた。原則4年に1度、夏季、冬季大会がそれぞれ開かれている。東京大会は70~80の国・地域から選手、役員ら約6千人が参加し、11月15~26日の12日間、東京都を中心に19競技を繰り広げる。一部は福島、静岡県でも行われ、国内では2021年東京五輪・パラリンピック以来の大規模大会となる。
第1回は1924年にフランスのパリで開かれ、身体、視覚、知的障害の選手が参加するパラリンピックよりも歴史が長い。日本は東京五輪・パラリンピックのレガシー(遺産)を最大限に生かし、コストをかけずに共生社会の実現に取り組むなどとアピールし、招致活動を展開した。
話し声と同程度の55デシベルが聞こえない選手が出場する。健常者の競技とほぼ同じルールだが、目だけで分かるようにさまざまな工夫が取り入れられている。陸上、競泳は号砲を光で知らせ、サッカーは審判員が旗で判定を伝える。選手同士の連係も視覚に頼り、バレーボールなどの団体球技はアイコンタクトや手話でコミュニケーションを取る。
観戦に当たっては、手話を基にした日本生まれの応援スタイル「サインエール」を知っておこう。広げた両手をひらひらと動かし、顔の横から前に押し出す「行け!」をはじめ、「大丈夫 勝つ!」「日本 メダルをつかみ取れ!」の3種類がある。ろう者と聞こえる人が共同で作り、都が周知を進めている。
日本は大会に65年から参加している。前回の2022年ブラジル大会は、新型コロナウイルスの影響で途中で辞退したが、過去最多の30個のメダルを獲得した。
今大会の岡山関係はこれまでに、陸上男子走り高跳びの佐藤秀祐=平林金属、同400メートル障害の石本龍一朗=岡山大3年、バドミントン女子の片山結愛=ノートルダム清心女大4年=の3選手が日本代表に選ばれている。存分に力を発揮してほしい。
今大会は3千人のボランティアが支え、うち半数が手話を使えるという。聞こえない人も文字で会話できるよう、都内では音声を変換して表示する透明ディスプレーが競技会場となるスポーツ施設や鉄道駅に設置されるなど、デジタル技術の活用も進んでいる。ろう者を取り巻く環境に思いを巡らせ、聞こえる、聞こえないの間にあるコミュニケーションの壁を取り払っていきたい。
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