今秋には東京でデフリンピック、2026年には名古屋でアジアパラ大会が開催
2025.4.15(火)
田中 圭太郎

日本では2025年から国際的なスポーツ大会が続く。東京では9月に世界陸上が、11月に聴覚障害者による国際総合スポーツ競技大会のデフリンピックが開催される。2026年9月から10月にかけては愛知・名古屋アジア競技大会とアジアパラ競技大会が開かれるほか、海外では2026年2月にミラノ・コルティナ冬季オリンピック、3月にパラリンピックが予定されている。
アスリートや関係者以外で大会に関わる方法の一つが、ボランティアでの参加だ。特に国際的なパラスポーツ大会では、圧倒的な多様性を感じることができる。自らの可能性に挑戦する選手たちに共感し、大会を支えていくことにやりがいを感じるボランティアは多い。
ただ、愛知・名古屋アジア競技大会とアジアパラ競技大会で名古屋市は1万人を目標にボランティアを募集しているものの応募が集まらず、締切を1月末から4月末に延長したが、現時点で応募者数は目標に届いていない。まだまだ日本では経験した人が少ないのも事実だ。
2021年の東京オリンピックとパラリンピックで初めてボランティアを経験したことをきっかけに、2024年のパリパラリンピックにも参加した日本人ボランティア4人に、パラスポーツのボランティアに携わる魅力について聞いた。
(田中 圭太郎:ジャーナリスト)
パリパラリンピックのボランティア、100人以上の日本人が参加
2024年のパリパラリンピックは、オリンピックが閉幕した17日後の8月28日から9月8日までの日程で開催された。販売されたチケットは250万枚を超え、2012年のロンドン大会に次ぎ、史上2番目に多い観客動員数を記録した。

陸上競技と閉会式が行われたStade de France

パリパラリンピックを取材した筆者にとって印象的だったのは、選手たちのパフォーマンスはもちろん、ボランティアの姿だった。
ボランティアはそれぞれの持ち場で仕事をしながら、その会場での試合が全て終わると、観客を賑やかに見送る。観客とハイタッチをする人、手でアーチを作る人など、笑顔で観客とコミュニケーションをとっていた。あいにくと雨となった閉会式でも、会場の中を縦横無尽に駆け巡るなど、最後まで大会を盛り上げていたのがボランティアだった。

水泳の会場で観客を見送るボランティアたち
パリ大会では、オリンピックに約3万人、パラリンピックに約1万5000人のボランティアが世界中から参加した。日本からは、東京2020大会でボランティアをした人のうち、少なくとも約150人がオリンピックのボランティアに参加して、さらにそのうちの60人近くの人がパラリンピックにも参加した。現地に住んでいる人などを合わせると、パラリンピックには100人を超える人がボランティアとして活動したとみられている。
東京大会でボランティアを経験して、パリ大会にも参加
最初に話を聞いたのは、辰巳美鶴さんと奥居民生さん。2人とも東京2020大会ではオリンピックとパラリンピック両方でボランティアを経験し、パリ大会にも参加した。
辰巳さんはフランス語を話せることもあって、オリンピックでは観客の誘導を、パラリンピックでは大会関係者のIDカードを発行する部門にいた。ボランティアに参加した理由を次のように話した。

辰巳美鶴さん(写真右)
「長く勉強してきたフランス語を使う絶好の機会だったことと、ずっと専業主婦だったので、世界とつながりたい、社会に貢献したいと思って来ました。ボランティアには車いすユーザーもいて、一緒に仕事をしています。その人に合った役割があるので、障害のあるなしは関係ないですね」
奥居さんは、宇宙関係の技術者ということもあり、パリ大会では報道関係の技術業務を担当したほか、観客業務を手伝うこともあった。東京大会でパラリンピックのボランティアを経験したことが、パリ大会への参加につながった。

奥居民生さん
「東京大会でパラリンピックのボランティアをした際に、競技を見て感動しました。事前に研修などを受けてわかっていたつもりでも、見る前はそれほどとは思っていませんでした。今回パラアーチェリーを担当しましたが、両腕がない選手が足で弓を引いて金メダルを獲得する姿を見て驚きました」
東京大会は無観客だったため、選手は静かな会場で粛々と競技をするだけだった。パリ大会で初めて観客が入ったパラリンピックを見た印象を、奥居さんは次のように表現した。
「観客がいるのといないのでは、大きな違いですよね。パラリンピックでも、予選のときからお客さんが非常に盛り上がっていました。大きな声で応援する人、国旗を掲げる人など、盛り上がり方がオリンピックとパラリンピックと一緒なのがいいですね。パラアーチェリーでも、的の距離は健常者の場合と同じで成功率も変わらないので、健常者と互角に競技ができる姿も見てみたいと思いました」
辰巳さんも、オリンピックとパラリンピックに分ける必要はないのではないかと感じたと話す。
「パラアスリートを見ていると、オリンピックと何が違うのだろうと思いました。どちらもすごいアスリートです。何で分けているのだろうと疑問を感じます。どうせならオリンピックとパラリンピックを一緒に開催すれば、もっとパラアスリートも見てもらえるのではないでしょうか」
パリ大会と東京大会のボランティアの違い
東京大会とパリ大会では、ボランティアの仕事の割り振りや、待遇などに違いがあった。東京大会では英語ができる男性の多くは、選手や関係者の移動に使う車のドライバーに振り分けられたほかは、機械的に担当が割り振られていた。
それに対し、パリ大会のボランティアには適性検査が行われた。80項目に及ぶ質問に答えると、回答をAIを使って分析し、職場を決める参考にしていた。さらに、希望する職場がある場合は、その思いやこれまでの経験などを記載しておけば、全てではないが希望が考慮された。
選手を支援する職場を希望した結果、ボッチャのアスリートサービスのボランティアを担当できたのが山田香代さんだ。東京大会では、コロナ禍に開催されたことで、ボランティアとして残念な思いをしたという。

山田香代さん
「東京大会では不完全燃焼だったので、パリ大会にも申し込みました」
普段からユネスコなどのボランティア活動に取り組んでいた山田さんは、東京大会では各国のパラリンピック委員会理事のアテンド係を担当。そこからパラスポーツに関わるようになった。
「東京大会が終わってからも、日本でゴールボールやボッチャのお手伝いをしたほか、審判の資格を取る勉強もしてきました。パリ大会ではぜひ選手の近くで仕事をしたいと希望して、アスリートサービスのボランティアに選ばれました」
もう一人、パリ大会で選手に関わる仕事をしていたのが秋葉和男さん。東京大会では移動車のドライバーを担当した。

秋葉和男さん
山田さんと同じように東京大会後にスポーツボランティアを始め、パリ大会ではオリンピックとパラリンピックともに運よく選手村とメインスタジアムのStade de Franceでのドーピング検査のサポートに配置された。
「選手村では、オリンピックは選手の人数も多く、肌や髪の色、言葉が違う人々が、平和にスポーツを楽しんでいる姿を感じました。それがパラリンピックになると、多様性がさらに増しました。車いすの形や大きさ、どこに障害があるのかもみんな違っています。おそらく、世界で一番多様な人たちが集まった、究極の多様性の場がパラリンピックの選手村でしょう」
もちろん、ボランティアの仕事は楽ではない。競技日程にもよるが、2交代制の場合が多い。ある会場では、前半は7時半頃から15時頃まで、後半は15時から23時半までが基本で、片付けにもっと時間がかかる場合もある。仕事の報酬もなければ、日本からの現地までの交通費や、期間中の宿泊費も自分持ちだ。
パラスポーツでボランティアの楽しさを知ってほしい
今回紹介した4人全員が同じように抱くのが、パラリンピックへの理解が広がることと、国際パラスポーツのボランティアに日本からもっと参加してほしいという思いだ。奥居さんは、日本人はシニア層が中心だが、アジアの他の国からは若い世代の参加が多いと指摘する。
「パリ大会なので、フランス人は若い人もシニア層も同じくらい多いものの、中国、韓国、タイなどから若い人が多く来ている印象です。しかも、パラリンピックのボランティアをしたいというモチベーションを持って参加しています。
これに対して、日本人はほとんどがシニア層です。もちろんフランス語か英語は必要ですが、日本の若者は興味がないのか、もしくは参加しづらいのかもしれません。
でも、パラリンピックは参加して初めてわかる楽しさがとても大きいですし、若い人にとっては大変良い国際経験になります。その経験が、社会で広く評価されるようになるといいですね」
ボランティア文化が育っていない日本
山田さんは、日本のボランティア文化自体がまだまだ育っていないと感じている。
「東京大会によって、日本でボランティア文化が広まればいいなと思っていましたが、コロナ禍だったこともあり、広まる状況にはなりませんでした。今でもボランティアの意識は低いですよね。
今回のパリ大会でも、オリンピックのボランティアの中には、参加はしたけどやる気がない人も一定程度いました。けれども、パラリンピックのボランティアは自分でやりたいと思った人が集まっています。パラリンピックやパラスポーツだからこそのボランティアの楽しさを、多くの人に知ってほしいですね」
4人はそれぞれ、国際スポーツ大会のボランティアを今後も続けていくことにしている。同時に、多様性を感じることができるパラスポーツやボランティアの魅力を、周囲に広めていきたいと話していた。まずは参加してみることで、視野が広がるのではないだろうか。

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