日本テレビ放送網
2026年3月8日 13:03

聴力に問題ないものの、脳の情報処理に問題が起きて聞き取りにくくなる「聞き取り困難症」。周囲の理解や協力が欠かせませんが、診断できる医療機関は少なく、症状は広く知られているとは言えません。10歳の当事者を支える家族や交流の場を取材しました。
■日常会話は「文字」でやりとり

取材班を元気に出迎えてくれたのは、10歳のみなとくん(仮名)。聴力には問題がないのに言葉を聞き取ることが難しくなる、「聞き取り困難症(LiD)」を抱えています。
母
「はい、時間」
「はい、2階で寝ますか?」
みなとくん
「ううん」
家では日常会話を文字にして、みなとくんに伝えています。母親は「耳からの情報は受け取りにくくて。声だと消えてしまうので、“お話メモ”を使ったり」と言います。
■大切にしている「情報の視覚化」

工作が得意なみなとくん。「脚は全部動く。これも動く。羽とか」。木で作った“カブトムシ”を見せてくれました。普段の生活はどんな様子なのでしょうか。
母親が「書いたりしてるね。こんなの使ってね」と、紙を見せてくれました。
「たとえば私だったら(吹き出しに書くのが)『母』。(もう一方の吹き出しには)彼の名前書いて、『今日帰りは5時になります』みたいな。彼は『はい』とか書くので」
みなとくんの場合、耳で聞いただけでは言葉の理解や記憶が難しいため、情報を視覚化することを大切にしています。
■聞き取り困難症はなぜ起こる?

聞き取り困難症に詳しい、医誠会国際総合病院の阪本浩一医師は「聴力検査で全部正常なんだけど、聞き取りが悪い人がいる。これが聞き取り困難症。脳の意味の理解や音の解釈、この部分に問題がある人」と説明します。
私たちは耳から入ってきた音や声に対し、必要なものに意識を集中させるといった注意機能・記憶・言語の理解など、さまざまな脳の情報処理によって意味を理解しています。
聞き取り困難症は、この時の脳の情報処理に何らかの問題が起き、聞き取りにくさが生まれると考えられています。
阪本医師が代表を務める、国の機関(日本医療研究開発機構=AMED)の研究班によって診断の手引きがおととし公表されたばかり。診断できる医療機関は少ないのが現状です。
しかしAMED研究班の疫学調査では、少なくとも100人に1人が症状を抱えている可能性があるといいます。
■7歳で…診断された当時の受け止め

もともと発達障害がある、みなとくん。聞き取り困難症と診断されたのは、7歳の時でした。
父親
「聴力的には問題ない。でもなんか上の空。なんだこれ?みたいな」
母親
「一方的にしゃべってくる。こっちからの投げかけにはあまり反応がないというか。何が何だか分からないからしんどかった。本人が一番しんどかったと思うんですけど…」
当時研究を行っていた大学や複数の病院を訪ね、聞き取り困難症と診断されました。母親は「本人は『あーそっか、だからか』みたいな。抵抗はなかったですね」と振り返ります。
■困難症の人にはどう聞こえる?

実際、聞き取り困難症の人はどのように音を認識しているのでしょうか? 例えば、にぎやかな学校の教室で先生の話を聞く時。問題がない場合は、「明日は社会科見学で消防署に行きます。8時半にバスで出発します。お弁当を忘れないでください」と聞こえます。
聞き取り困難症の場合は「明日は社会科見学で…」としか聞こえず、周囲の音と混ざって言葉が認識できないケースや、「…たは…見学で…」などと言葉が抜け落ちて部分的にしか認識できないケースもあるといいます。
■聞き取り困難症の可能性がある症状

「LiD/APD診断と支援の手引き(2024 第一版)」によると、聞き返しや聞き間違いが多い、口頭で言われたことは忘れたり理解しにくかったりする、早口や小さな声が聞こえにくいといった症状があれば、聞き取り困難症の可能性があるといいます。
■症状に合わせた生活の工夫も

みなとくんが聞き取り困難症と分かったことで、家族は症状に合わせた生活の工夫ができるようになりました。
母親
「(カレンダーに)フリースクールだったりとか、お休みの日は釣りに行きますとか書いてある。それ(目印となる枠)を毎日ずらしています」
みなとくんも毎日、その日のスケジュールを自分で書くようにしています。母親は「文字に書くと本人も整理できるみたいで。声だと消えてしまうので、やっぱり大事なんだなって」と話します。
みなとくんの場合、周囲に雑音が多い環境や複数人が話す環境での聞き取りも苦手だといいます。そのため、外出の時には補聴援助機器を使っています。送信機を通じた話し声が耳に装着した受信機に直接届くため、聞きたい人の声が聞きやすくなります。
ただ、「20万円くらいします。補助がないので、一切。(出費は)痛いけどしょうがないので」と父親は漏らします。多くの自治体では助成されないのが現状です。
■早期発見で…困難軽減の可能性も

みなとくんは学校の環境が合わず、今はフリースクールに通っています。都内にある「学び舎 みどりの木」では、スタッフがメモを手に「11時50分お迎えです」と確認しました。1日の予定は、相談しながら決めています。
2月9日は、家から持ってきたプリントに取り組んでいました。みなとくんが「壇ノ浦の戦いでいいよね?」と聞くと、スタッフは「そうだね」と答えます。周囲の協力もあり、のびのび過ごせているというみなとくん。
阪本医師によると、早期に症状を発見して支援につながれば、学習面やコミュニケーションの困難が軽減できる可能性があります。
■阪本医師「悩んだら耳鼻科に」

診断ができる病院には、子どもだけでなく大人も訪れています。大阪市にある、医誠会国際総合病院。20代の女性患者が「議事録を録画を聞きながら書いてほしいというので、人の3倍くらい時間をかけないとできない」と阪本医師に伝えました。
小学生のころから、聞き取りに違和感があったという女性。大人になってから聞き取り困難症を知り、受診しました。
精密検査では「体が弱いので鍛えています」という音声が流れ、女性は「体が弱いので…ナントカです」と聞き取れた内容を伝えました。雑音の中で話を聞き取るなど様々な検査を経て、聞き取り困難症かどうかを調べていきます。
月に100人近くの患者を診ることもあるという阪本医師は、こう話します。
「『気のせいじゃない』とはっきり分かって、仕事の時にそれを言って、配慮してもらうなどのきっかけになっている人が多い。まず悩んだら一度耳鼻科に行って、聞こえの検査をして、ちゃんと調べてもらってください」
■当事者の交流会が「助け合いの場」に

同じ症状を抱える人たちの交流も広がっています。2月8日に都内であった、LiD/APD当事者会の交流会では、話が理解しやすいように自動で文字起こしをした内容をモニターに映していました。
30代の参加者
「関西弁が慣れないし早口で聞き取れなくて、すごくパニックになってしまって…」
40代の参加者
「診断受けるにも、結局どこで診断受けたらいいのかも分からなくて…」
今まで周りに理解されなかったことも共有できる、助け合いの場になっています。
参加者からは「困っていることを相談できる場所があるのはとてもありがたいです」(30代)、「聞こえているけど理解できない人もいると、(周りの)理解は進んでほしいと思います」(20代)という声が聞かれました。
■母親「応援する環境をつくる」

週末、キッチンで魚をさばいていたみなとくん。釣りに行くのが大好きで、将来の夢は漁師だといいます。
みなとくんの聞き取り困難症を理解し、工夫を重ねることで、家族の関係性も深まったといいます。
母親
「自分の特性が悪いものだと思わないでいられる環境も、周りの大人たちがつくっていくものなんじゃないかなと思うので。私たちは応援する環境をつくる」
■周囲の人が協力できることは?

桐谷美玲キャスター
「聞き取り困難症という存在はまだ知らない方も多いでしょうから、診断されないままの人は大変でしょうし、孤独を感じるだろうなと思いました」
鈴江奈々アナウンサー
「私も今回、初めて知りました。耳にはてなマークがついているコアラのデザイン、見かけたことはあるでしょうか? 『聞き取ることが苦手です』『ゆっくりお話ししてください』と書かれています」
「これは聞き取り困難症を知ってもらおうと、ある当事者が専門家の監修のもと作ったもので、利用する方が少しずつ増えてきているそうです」
桐谷キャスター
「これを見たらすぐに周りの人が気づけますし、配慮が必要なんだなと分かっていいですね」
鈴江アナウンサー
「周囲の人ができることも、専門家に聞きました。静かな場所で話す、大きな声でゆっくり話す、そして文字でも伝える。こうしたことが有効だそうです。周囲の理解と、こうした協力も大切になりますね」
(2月26日『news every.』より)
最終更新日:2026年3月8日 13:03
リンク先は日テレNEWSというサイトの記事になります。
