2024.10.25 テクノロジー
#澤田真一
チャットツールや各種メッセンジャーアプリが乱立している今、それでも手話は重要な言語として活用されている。
そう、手話は言語なのだ。ニュージーランドでは手話は公用語に指定されている。そして最近では、「手話をAIが解析・翻訳するプラットフォーム」というものが国内外で続々開発されるようになった。
今回は日本から一例、海外から一例を取り上げて、それぞれ解説したい。
手話を文字にするビデオ通話プラットフォーム『SureTalk』
SureTalkは、ソフトバンクが提供するビデオ通話プラットフォームである。
我々の生活において、オンラインを介したビデオ通話は珍しいものではなくなった。ZoomやMicrosoft Teamsは、筆者も頻繁に利用している。しかしSureTalkは、それら2大巨頭にはない「手話をテキスト変換する」という機能が備わっているのだ。
ビデオ通話とは、当然ながらPCに内蔵のカメラがユーザーの姿を捉えてその様子を他のユーザーにも伝える。その際、ユーザーが手話を行なったらAIがそれを認識・解析してチャット上に文章出力する。これにより、手話を知らない健常者ともシームレスなチャット会話ができるという仕組みだ。
このSureTalkは、「手話に対する興味」を健常者に持たせる効果も見込めるのではないか。
これは外国語でもそうだが、当初は未知の言葉でもその人とAI翻訳機能を介した会話をするうちに「この単語はこれを意味するのか」ということが分かってくる。手話もそれに漏れず、「この動作の時はこのような意味合いがある」という理解が徐々に進んでいくはずだ。
最終的に健常者の側がAIを使わず手話を理解できるようになれば、それはSureTalkにとっての「目標達成」ではないか。
AIアバターが重要情報を手話通訳する『Signapse』
次に、海外の事例をご紹介しよう。
イギリスの企業Signapse AIは、アバターによる手話通訳プラットフォーム『Signapse』を開発している。これは個人向けのサービス展開ではなく、駅や空港などの公共施設での活用を前提にしている。
頻繁に海外渡航する筆者にとってはよくあることだが、空港でチェックインしたあとの急なフライト時刻変更は誰にとっても一大事である。この場合、ゲートが変更される可能性も少なくない。しかし、聴覚障害を持つ乗客がその情報を見落としてしまったら?
それを防ぐため、掲示板にも手話通訳者を表示しなければならない。
この掲示板の管理者は、手話通訳ソフトウェア「Signapse」を使って伝えるべき内容を文字入力する。すると、その内容をAIアバターが手話に訳してくれるのだ。
今のところの対応手話は、英BSLと米ASL。アメリカのシンシナティ・ノーザンケンタッキー国際空港やジェラルド R. フォード国際空港では、既にSignapseを組み込んだ掲示板が稼働している。
このSignapse AIの公式サイトを、読者の皆様にもぜひ確認していただきたいと筆者は考えている。
文章毎にAIアバターが手話通話する機能が実装されていて、Signapse AIのプラットフォームの一機能をここで体験できる仕組みになっている。AIテクノロジーはここまで進化したのか!?と思わずにはいられない。
いずれは「全世界の手話翻訳」も可能になるか
さて、手話というものはそれ自体がたったひとつの言語として成立している……というわけでは全くない。
上述のようにイギリスではBSL、アメリカではASLという全く異なる手話が使われている。日本の場合はJSLだ。従って、日本国内の国際空港の掲示板でAIアバターにJSL通訳を実行させたとしても、ASL話者には当然通じない。
このあたり、今現在の手話翻訳プラットフォームの欠点とも言える。が、同時にAIの進化は著しいという点も考慮するべきである。
データさえ集めることができれば、世界各国の手話言語を翻訳できるプラットフォームは確立可能のはず。Google翻訳やDeepLのように、手話同士を相互翻訳してくれる便利なアプリも出てきそうだ。それが実現した場合、オンラインで「国際手話会議」ということもできるかもしれない。
人間のようなAIアバター
また、ここではAIアバターにも注目する必要がある。
今一度、Signapseが生成したAIアバターを見ていただきたい。アニメーションや雑なCGなどではなく、「ほぼ人間」という見た目である。知らない人が見れば、本物の人間と間違えてしまうであろうクオリティーだ。
人間そっくりのAIアバターが入力された文章を読み上げたり、何かしらの動作をさせたりといった技術は既に確立されている。様々な言語を、ネイティブ並みのイントネーションで朗読するAIアバターを作成できるプラットフォームというのもこの世に存在している。
その流れを見ると、「次は手話ではないか」と考えるのは至って自然ではないか。
【参考】
SureTalk
Signapse AI
文/澤田真一
リンク先は@DIMEというサイトの記事になります。