
巨大スクリーンに表示
「僕はみんなと必ず甲子園に行く!」
4月25日、坊っちゃん劇場で上演されたミュージカル「KANO~1931甲子園まで2000キロ~」の1シーン。舞台上の俳優が大きな身ぶりとともにセリフを発すると、ほぼ同時に日本語字幕が巨大スクリーンに表示された。字幕はミュージカルの特徴ともいえる俳優が歌う劇中歌の歌詞やナレーションも表示され、観客は舞台と字幕を交互に見ながら観劇を楽しんだ。
同校高等部2年の芝野聡汰さん(16)は「以前見た舞台は字幕がなかったけれど、今日はストーリーがよく分かり、想像の10倍以上すごかった」と興奮気味に話した。

同劇場は昨年8月、台湾からの団体客受け入れに合わせて機器を導入、事前予約制で外国語の字幕表示を開始した。今回の聴覚障害者向けについては、県内の障害者支援団体から助言を得て、音声や音楽、背景の環境音なども文字で表示するようにした。オペレーターが舞台の進行に合わせてその都度、表示を更新していくことで、役者の演技とのズレを防いでいるという。
劇場の越智陽一代表理事は「ゆくゆくは定期的に字幕表示の日を設けるなど、障害のある方も気兼ねなく観劇を楽しめるバリアフリーな劇場にしていきたい」と話す。
全国で導入広がる
字幕表示など聴覚障害者向けの観劇サポートは近年、さまざまな劇場で導入が進んでいる。
聴覚障害者対応の舞台情報を発信するNPO法人「シアター・アクセシビリティ・ネットワーク」(TA―net)によると、運営サイトに掲載の字幕・手話通訳対応の演劇は令和5年で127件。平成30年の74件から5年間で1・7倍に増加した。

ほかにも、新国立劇場では30年から障害者向け観劇サポート公演を定期的に実施しており、当日はセリフなどを閲覧できるタブレット端末を貸し出す。宝塚歌劇を運営する阪急電鉄も、一部公演でタブレット端末の貸し出しを行っている。
こうした広がりの背景には30年の「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」の施行がある。
同法では、障害者の個性と能力の発揮および社会参加などを目的に、文化芸術を鑑賞、参加、創造できるよう障害者の文化芸術活動を幅広く推進すると定められている。これを受け、文化庁は民間の先進的な取り組みを支援する補助制度を実施、厚生労働省は各地域に障害者芸術文化活動支援センターの設置を進めている。
安心して劇場へ
自身も聴覚障害を持つTA―netの廣川麻子理事長は、障害者の観劇環境について「字幕や手話といった障害者への『観劇サポート』という概念がなかった10年前と比べると、少しずつ環境は整ってきている」と評価する。
実際にTA―netには各劇場から字幕や手話などの観劇サポートの導入の進め方や観客対応の研修依頼なども増加しており、「サポートの存在で観劇をあきらめていた人が劇場に足を運ぶようになって、劇場側に字幕などを要望するようになってきたのではないか」と分析する。
その上で「公的補助も大切だが、例えば耳の遠い高齢者も字幕があれば安心して劇場に通える。そのように、業界全体が観劇サポートを増やすことで顧客の掘り起こしにつながるという発想になっていけばいい」と期待を込めた。(前川康二)
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