『パーセント』が切り取ったあまりに尊い“物語”との出会い 誰もが“壁”と向き合うために

『パーセント』が切り取ったあまりに尊い“物語”との出会い 誰もが“壁”と向き合うために

土曜ドラマ『パーセント』の主人公ハルと車いすに座る女の子の写真

土曜ドラマ『パーセント』(NHK総合)が6月1日に最終回を迎える。ローカルテレビ局「Pテレ」を舞台にした本作は、若手プロデューサーの吉澤未来(伊藤万理華)が初めて任されたドラマ『%』の制作を通じて、制作者として、人間として成長していく姿を描く。そしてこのドラマは、「真のバリアフリーとは何か」「ものづくりとは何か」という命題に真正面から向き合っている。

未来は、自分が出した学園ドラマの企画が通って喜ぶが、局が打ち出した「多様性月間」の一環で、障害のある俳優をキャスティングするという条件、そして「ジェンダーバランスを考慮して」自分が女性だからプロデューサーに抜擢されたことを知らされて戸惑う。未来はシナリオハンティングのために訪ねた高校で、車椅子に乗った宮島ハル(和合由依)と出会い、その存在感に一目惚れして、自分が作るドラマに主演してほしいと口説く。ハルは「障害を利用されるのは嫌や」と一度は断るが、「自分が所属する劇団『S』の俳優仲間も一緒に出演するなら」という条件で主演を引き受ける。

ハルを演じる和合由依は、東京2020パラリンピック開会式で「片翼の小さな飛行機」を演じたことで知られる。台詞のある演技にはこのドラマで初挑戦だというが、その圧倒的な存在感と、繊細に変化する表情に魅せられる。

ハルをはじめ、障害のある登場人物は当事者の俳優が演じており、彼らは全てオーディションによって選出された。「障害のある俳優」という募集要項のもと行われたオーディションには全国から100名を超える俳優の応募があったという。スタッフは応募者全員と対面して話し、その中から10名以上の俳優が起用された。

ハルが車いすの女の子と道を歩く写真

このドラマのエピソードや台詞は地に足がついていて、説得力がある。ハルをはじめ障害のある登場人物たちについては、オーディションを経てから、脚本の大池容子氏とスタッフで、各俳優にフィットする人物造形を練り上げていったのだという。つまり、障害のある役のエピソードや発する台詞には「障害者の生の声」が反映されているということだ。

たとえば、劇団「S」の団員で聴覚障害のある由里子を演じる水口ミライがオーディションの際、「普段、家族とは手話に声も加えて会話している」と話したことから、いったんは由里子の会話スタイルも同じ設定となった。しかし水口は、リハーサルの途中で違和感を覚える。彼女が声を加えて会話をするのはあくまでも家族間だけであって、ドラマの現場では手話通訳を介して会話をしている。だから、由里子の設定もそれと同じようにしなければ不自然さが出てしまうのではないか、と主張したのだ。こうして由里子は「手話通訳を介して会話をする」という設定に変更され、実際に現場で水口の通訳をつとめる男性が急遽「手話通訳」の役で出演することとなった(5月16日放送 Eテレ『バリバラ ドラマ「パーセント」の前代未聞!』より)。

右のこめかみに手を当てるハルの写真

このように『パーセント』は、スタッフと演者たちが積み重ねてきた綿密なコミュニケーションと「対話」から出来たドラマだ。さらに評価すべきは、このドラマが現在のテレビを含めるメディアへの批評でありながら、強い痛みを伴う自己言及になっていることである。「多様性の重視」や「ダイバーシティの推進」などと叫ばれて久しいが、「はたして皆、本当の意味がわかっているのだろうか」「言葉だけが一人歩きして、形骸化してはいないだろうか」という問いかけが、作品のそこここに置かれている。

第3話で劇中ドラマ『%』の撮影が始まり、スタッフ間の打合せで「ハル以外の劇団『S』のメンバーの出番があまりにも少ない」と訴える未来に対し、監督の羽座丘(小松利昌)がつい口走ってしまった「(シーン内に障害者が多数映ることで)余計な情報はノイズになるやんか」という一言が、観ているこちらの胸にグサリと突き刺さる。

この「つい口走ってしまった」というところが恐ろしいのだ。どんなに理解のあるような顔をしていても、いくら「自分の中にそんなものはない」と否定しても、ふとしたときにこぼれてしまう差別心。このドラマは、そんなところまで斬り込んでくる。

そして、羽座丘の言った「ノイズ」という言葉が、未来の胸にも突き刺さる。かつて未来がバラエティ番組のスタッフとして、グルメレポートのためにカフェを撮影したときの記憶が記憶が蘇る。右手に欠損がある女性店員がスイーツを出そうとしていたところ、未来は彼女に「こっちの(逆の)手で出してもらって、あとは撮り方とか編集とかで映らないようにするんで」と言ってしまったのだ。自分も、女性店員の手を「ノイズ」として排除してしまっていた。主人公の偽善さえも炙り出してくる作劇だ。

薄暗い部屋で一点を見つめる車いすの女の子の写真

「スケジュールと作品の本質とのたたかい」という、ものづくりの現場が必ずぶち当たる問題が赤裸々に描かれる。撮影の進行が遅れて詰まってきて、やむを得ず効率化をはかるために劇団「S」のメンバーの出番はおろか、主役を演じるハルさえも、後ろ姿は「吹き替え」で撮ろうという流れに。未来と同棲している恋人で、脚本協力としてスタッフに入っていた町田(岡山天音)が、このままだと目的達成のために「やっつけ」で障害者を利用しているだけになってしまうのではないかと、異を唱える。「私はそんなふうに思ってない」と否定する未来に返した町田の言葉が、またも突き刺さった。

「思ってるか思ってないかじゃなくて、どう見えるかちゃう? それって未来がいちばん気にせなあかんことちゃうの?」

これは、今エンターテインメントやメディアに携わる全ての人が、心に刻まねばならない言葉ではないだろうか。物書きの端くれである筆者も、常にこの言葉を指針にしたいと心に決めた。「一人も傷つけない表現」というのはもちろん実現不可能だ。けれども、だからこそ、「発信」をする人は常に、自分の表現が無自覚に誰かを傷つける可能性がある、ということを絶対に忘れてはならない。

『パーセント』の作り手は、身を挺してドラマの中でそれを自戒し、自問し続けている。制作者として未熟な未来は、チーフプロデューサーの植草(山中崇)や、編成部長の長谷部(水野美紀)から、何度も何度も企画書のダメ出しを食らうのだが、その「ダメ出し台詞」には、本作の制作陣が考えては気づき、気づいては考えてきた過程がそのまま反映されているようだ。

「当事者を起用するってこと、相当厳しいと思うで」
「ごちゃごちゃともっともらしい理由をつけたって、こんな企画書じゃ話になりません。根本的に『人間を描く』という意識が欠如しています」
「彼女たちの体や生き様に、そんなペラッペラな物語を貼り付けるのは失礼です」
「誰もがマイノリティでありマジョリティでもある。気がつかないうちに自分も誰かを排除している可能性がある。それを突きつけるようなものに、化けさせてほしいんです。あなたが腹くくらなくてどうするんですか?」
「現実が全く見えてへん。お前の人生を投影するつもりで、もっと自分事として捉えてみてくれへんか」
「頭でっかち。あなた、このドラマ観たいと思いますか?」

そうした過程を経て、このドラマは「障害者をかわいそうがる」という「上から目線」も「説教臭さ」も一切排除して、上質なエンターテインメントとして成立させている。なおかつ、長谷部の指摘にあった、誰しもの心の中にある差別心や色眼鏡を「突きつける」作品になっている。

車椅子に乗ったハルは、「障害者=かわいそう」というイメージを払拭する、勝ち気でちょっと口の悪い、自立心に富んだ性格だ。未来は、劇中ドラマ『%』でハルに当て書きする主人公を通じて「カッコいいハルちゃんが観たい」と望む。車椅子に乗った高校生の主人公は、それまでの設定をひっくりかえして、自立心旺盛で誰もが憧れる「カッコいい女の子」に変更された。

しゃがみ込んで車いすの女の子に話しかけるハルの写真

ハルも未来も、そして劇団「S」の面々も、「障害者だから」「女性だから」という、社会から押しつけられるカテゴライズやラベリングに悩み、葛藤し、ぶつかりながら、「私らしい生き方、在り方」を探していく。第3話まで観たところで筆者は、気づけばもう彼女ら・彼らのことが大好きになってしまっている。それはこのドラマの作り手が、障害のあるなしに関係なく、属性に関係なく、一人も「モブ」にすることなく、どの人物についても「人間を描く」ことを丁寧に実践してきたからに他ならない。

結局は「人間」なのだ、という結論にたどりつく。『パーセント』の世界の中で生きる人たちも、テレビの前の私たちも、みんな道の途中。「壁」は自分と他者との間の前に、まず自分自身の中にある。

「わからない。でも。あきらめない。」という番組キャッチコピーが語りかけてくる。人はそれぞれ違う苦しみや痛みを抱えていて、それはその人自身にしかわからない。だから、わかった気になってはならない。でも、あきらめずに対話を続けていくことが大切なのではないか。

最終回では、どんなエンディングを見せてくれるのだろうか。筆者は予告でハルが未来に言っていた「人の気持ちなんか簡単にわからへんから、わかりたくてドラマ作ってるんちゃうの?」という台詞に、胸が熱くなってしまった。

「陰キャ」で冴えない高校時代を送っていた未来を変えた『学園サンデー』。ハルが俳優を志すきっかけとなった『銀河鉄道の夜』。誰しも、自分を救ったり、鼓舞したり、踏み出すきっかけを与えてくれる「物語」に出会う瞬間がある。『パーセント』もきっと、誰かにとってそんな物語になることだろう。

■放送情報
土曜ドラマ『パーセント』
NHK総合にて、毎週土曜22:00〜放送
※翌週火曜24:35~再放送
BSP4Kにて、毎週土曜9:25〜放送
出演:伊藤万理華、和合由依、結木滉星、菅生新樹、小松利昌、山下桐里、成木冬威、水口ミライ、河合美智子、岡山天音、菊池亜希子、山中崇、橋本さとし、余貴美子、水野美紀 ほか
作:大池容子
音楽:池永正二
主題歌:インナージャーニー「きらめき」
制作統括:櫻井賢、安達もじり
プロデューサー:南野彩子、葛西勇也
演出:大嶋慧介、押田友太
写真提供=NHK

佐野華英
ライター/編集者/タンブリング・ダイス代表。エンタメ全般。『ぼくらが愛した「カーネーション」』(高文研)、『連続テレビ小説読本』(洋泉社)など、朝ドラ関連の本も多く手がける。
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