
耳が不自由な友人と、手話を使ってもっと話したい――。そんな思いから、鹿児島国際大(鹿児島市)の学生たちが、会員ゼロで活動を休止していた手話同好会を昨春、復活させた。今年4月には新入生らも加わり、サークルに昇格。メンバーたちは手話の上達を目指して日々の練習に励み、学外の聴覚障害者とも交流を深めるなど活動の幅を広げている。(井芹大貴)
11月27日午後5時過ぎ。同大のサークル棟の一角で、学生たちが車座になり、表情や身ぶりをつけながら手話の練習に励んでいた。手話サークル「ユートピア」のメンバーだ。1~3年生の計28人で、毎週水曜日の夕方に1~2時間ほど活動している。
「縦の糸はあなた、横の糸は私」。この日は、聴覚に障害がある福祉社会学部3年の松野下凌平さん(20)を中心に、メンバー約15人が歌手・中島みゆきさんの「糸」の歌詞を口ずさみながら手話を付ける練習や、指文字を使ったしりとりに取り組んだ。松野下さんは「同世代の友人たちが手話に関心を持ってくれていることがうれしい」と笑顔を見せた。
同大によると、前身の手話同好会は2021年に会員がゼロになり、活動を休止した。それまでも会員が少なく、ほとんど活動できない状況が続いていたという。
復活したきっかけは、現在、サークルの部長を務める経済学部2年の 修行しゅうぎょう ひかるさん(21)と、生まれつき耳が聞こえない国際文化学部2年の島倉杏奈さん(20)の出会いだった。
2人は昨春、共通の友人を通じて知り合い、当初は修行さんが筆談やスマートフォンのメモ機能などを通じて島倉さんとコミュニケーションを取っていた。このため、やりとりがいつもワンテンポ遅れ、スムーズに会話ができないことが悩みだった。修行さんは、手話を勉強して会話を増やし、もっと仲良くなりたいと考え、島倉さんや友人を誘って同好会の復活に向けて動き出した。
同好会は昨年5月頃から11人で活動を再開した。誰もが手話を当たり前のように使いこなせる社会になるように、魅力を広めたいとの思いから「ユートピア」(理想郷)と名付けた。
今年度は1年生9人や、活動を知った松野下さんらも加わった。サークルに昇格し、大学から活動費の支援を受けられるようになった。大半が手話を学ぶのは初めてで、その一人、国際文化学部1年の尾曲 碧彩あおい さん(18)は「和気あいあいとした雰囲気で自然と身に付いている」と手応えを語る。
メンバーたちは、鹿児島市内にある聴覚障害者の福祉作業所を訪れて手話を交えながら作業を手伝ったり、鹿児島県聴覚障害者協会の担当者を招いて手話の歴史やポイントを学んだりしている。「手話通訳者」の資格取得を目指して勉強中のメンバーもいるという。
修行さんは「学内外での活動をもっと増やし、一緒に手話を勉強してくれる仲間や、手話に関心を持ってくれる人が増えたらうれしい」と意気込んでいる。
「手話通訳士」新たな担い手確保が課題
手話をテーマにしたテレビドラマなどの影響もあり、手話通訳への関心は高まっている。
手話通訳には、主に日常生活で通訳にあたる「手話通訳者」と、政見放送や裁判など高度な専門用語にも対応する「手話通訳士」があり、資格を取得するにはそれぞれ専門の試験に合格しなければならない。
全国手話研修センター(京都)によると、昨年の手話通訳者の受験者数は1万324人(前年比2232人増)で、3年連続で増加。合格率は91・7%だった。都市部では受験の受け付け開始後、すぐに定員に達する会場もあるという。
一方、聴力障害者情報文化センター(東京)によると、手話通訳士は全国で4198人(10月時点)。60歳以上の割合は2009年に11・4%だったのが、19年は39・7%まで上昇し、新たな担い手の確保が課題となっている。公益支援部門の石原茂樹部長は「地域や大学のサークルなどを入り口に関心を持つ人が増えてほしい」としている。
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