Mybestpro Interview
“聞こえ”を整え“つながり”を取り戻す補聴器の専門家
平野幸生

平野幸生
#chapter1
日常生活に即した補聴器選びからアフターメンテナンスまで一貫してサポート
荻窪駅南口から徒歩6分。東京都杉並区で補聴器専門店「耳のそうだん室JINO」を運営する平野幸生さんは、認定補聴器技能者として、聞こえに悩む人とその家族を支えることを軸に活動しています。目標は「聞こえの課題をゼロにする」。
「聞こえないことで人とのつながりが減り、孤独や疎外感を感じる方が多い反面、聞こえを取り戻して涙を流して喜ばれる方もいらっしゃいます。補聴器は、単に“聞こえるようにする道具”ではありません。人との会話や社会とのつながりを再構築するための支えになるインターフェースです」
同店では、補聴器の販売を“ゴール”にしない姿勢を徹底しています。最初に行うのは、補聴器が本当に必要か、改善効果があるかの丁寧な確認。聞こえの状態や生活環境をヒアリングした上で、時間をかけて適した機種を提案します。
「補聴器を使いこなすには時間がかかります。毎日少しずつ装着時間を延ばしていき、最終的には、補聴器をつけている状態が日常になるように習慣づけます。必要があれば言葉の聞き取り練習や、状況に応じた聞こえ方の調整なども行います。このような慣らし期間を経て、使用感に納得した上で補聴器をご購入いただきますが、その後も定期的な点検や調整、聞こえの状態の確認など、継続的にサポートしていきます」
「メーカーごとに製品の特徴がありますが、一番重要なのは“合うかどうか”」と平野さん。JINOでは、世界の6大補聴器メーカーの製品を取り扱っており、特定のメーカーに偏らないことが、顧客本位の選定を可能にしています。

#chapter2
“売るための補聴器”に違和感。現場経験を生かして起業し、出版も
平野さんは大学卒業後、補聴器販売店に10年間勤務。選定・調整・アフターフォローで顧客と関わる現場に、強いやりがいを感じていました。その後、専門性を深めるべく補聴器メーカーへ転職。16年間、市場分析や販売戦略立案、プロダクトマネージャーとしての製品導入計画など、より広い視野で業界に携わりました。
そんな中、補聴器の調整の場面に立ち会ったある親子との出会いが、平野さんの価値観を揺さぶります。
重度の先天性難聴を抱える子どもと、その親。補聴器を利用する子どもは言葉を聞き取れない様子である上、口語も手話もままならない。親子のコミュニケーションは筆談のみでした。平野さんは愕然とします。
「補聴器は聴力を“治す”ものではなく、聞き取りを補い、音に慣れる力を育てるもの。補聴器の限界を見極め、必要なサポートを示すという販売者の責任が果たせていない状況がありました。これでいいのか?と自問自答しました」
導き出した答えは、「販売現場とマーケットの両方を知った自分が、本当に必要な補聴器を、必要な人に、信頼される形で届けたい」
その思いは2020年2月、新規開業という形で結実。コロナ禍が直撃し顧客ゼロの日々が続く中でも発信を続け、出版のオファーを引き寄せます。そして2021年、初の著書『50歳を過ぎたら要注意! 「聞こえづらい」をほっとかない ~認知症予防のカギは聴力にある!』(産業能率大学出版)を出版。相談者も着実に増えていきました。

#chapter3
「聞こえ」に配慮できる社会へ。育成と啓発で未来をひらく
「日本の補聴器ユーザーの満足度は50%程度で、欧州諸国の70〜80%台と比べて著しく低い」と平野さん。制度的なギャップが一因だと指摘します。
「補聴器の選定や調整には、音響学や耳の解剖学、構造、効果測定、法規など幅広い知識が必要で、海外では専門教育を受けた有資格者のみが担うのが一般的。対して日本では、資格がなくても販売できる。販売者の知識・経験・意識のレベルに差があるのに、ユーザーにはそれを知るすべがないのが現状です」
そこで平野さんは、人材育成に注力。日本補聴器技能者協会の理事として、業界全体の育成体制や啓発活動に関わる一方、自らも公益財団法人テクノエイド協会主催の講習会で講師を務め、これまでに2,500人以上の技能者を指導してきました。
「補聴器販売は、人と人の繋がりの再構築を助けられる職業。目の前のお客さまの役に立てる喜びと誇りを伝えたい」
さらに目指すのは、聞こえに困っている人が自然に配慮される社会です。
「背の低い人が前に立つように、聞こえにくい人がいれば、周囲がさりげなく助ける。そんな空気を育てていきたいんです」
その実現のためには専門職だけでなく、一般の人々の理解も欠かせません。平野さんは講演会やメディア、著書を通じて、「聞こえの大切さ」を社会に伝え続けています。
「まずは信頼される人になること。それが結果につながる」
新卒で業界に入った頃に先輩からかけられた言葉が、多彩な活動の原点。平野さんはこれからも、“補聴器の専門家”として聞こえの支援を広げていきます。
(取材年月:2025年6月)
Profile
専門家プロフィール

聞こえ”を整え“つながり”を取り戻す補聴器の専門家
平野幸生プロ
補聴器技能者
JINO株式会社
メーカー・販売現場双方の経験を持つ補聴器技能者として、一人一人に合わせ補聴器をフィッティングする力に強み。深い専門知識と人への思いを両立した対応で聞こえに悩む人や家族を支え、技能者育成・啓発にも尽力。
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