聴覚に障害あっても「音楽」に触れて見る…振動伝える風船を手に、高低伝える波形グラフで鑑賞「楽しめた」

聴覚に障害あっても「音楽」に触れて見る…振動伝える風船を手に、高低伝える波形グラフで鑑賞「楽しめた」

2025/01/28 14:41

風船を使ってピアノの音の振動を感じる参加者たち(23日、福岡市南区の九州大大橋キャンパスで)=秋月正樹撮影

風船を使ってピアノの音の振動を感じる参加者たち(23日、福岡市南区の九州大大橋キャンパスで)=秋月正樹撮影

 聴覚障害を持った人にも音楽を楽しんでもらおうという研究が九州大学で進んでいる。今月下旬には大学院生と聴覚障害のある若者が一緒に企画したコンサートも開かれた。風船を使い音の振動を楽しんだり、音を表す波形のグラフで音を視覚化したりする試みで、障害の有無にかかわらない芸術鑑賞のあり方が注目を集めている。(後田ひろえ)

 現代音楽を奏でるピアノの音に合わせて、奏者の手元を映したライブカメラや音の高さ・大きさを伝える波形のグラフが聴衆の前のスクリーンに映し出された。今月23日、同大大橋キャンパス(福岡市)多次元デザイン実験棟で公開されたコンサート「見える音楽? だれもが楽しめる音楽を目指して」には、聴覚障害を持つ人たちを含む124人が訪れた。聴衆は音の振動を伝える風船を手に、スクリーンを見ながら、高音から低音までダイナミックに音が変化していく曲を鑑賞した。

スクリーンに映し出されたピアノの音の波形(23日、福岡市南区の九州大大橋キャンパスで)=秋月正樹撮影

スクリーンに映し出されたピアノの音の波形(23日、福岡市南区の九州大大橋キャンパスで)=秋月正樹撮影


 2歳の頃に病気で難聴になり、今はほとんど聞こえないという女性(30)は「振動や視覚で音楽を楽しめた。こうした取り組みをきっかけに社会の中で聞こえる人と聞こえない人のコミュニケーションが進むとうれしい」と笑顔を見せた。この日は、4曲が演奏され、ほかにも▽聴衆が演奏中の奏者や楽器に触る▽楽器ごとに色分けしたライトを点滅させ、さらに演舞でも音のイメージを伝える――などの方法で音楽が表現された。

 企画したのは、同大大学院芸術工学府の尾本章教授と長津結一郎准教授が指導する授業で福祉に配慮したコンサートのあり方を学ぶ大学院生12人。さらに、若手の聴覚障害者でつくる福岡県聴覚障害者協会青年部のメンバー6人と奏者として参加した福岡県糸島市のピアニスト、河合拓始さん(61)らも意見を出し合った。授業では、2022年から青年部と聴覚障害者も楽しめる音楽表現を研究しており、今回初めて実証実験としてコンサートをすることになった。

 色分けしたライトを使う表現方法では、点滅させるだけでは単調なため、曲調に合わせてライトを手に持って回したり、曲のイメージである火と水を表現した赤と青のライトを持った学生が演舞を披露したりと、青年部の助言を取り入れながら検討を進めた。同大学院修士1年の女性(24)は「リズムや振動の感じ方など当事者にしかわからないことを聞きながら考えたのは大きな経験になった」と語る。披露したうち3曲を作曲した河合さんは「音楽は、聴覚以外の感覚で味わうこともあり、ダンスなどの身体表現とも深く結びついた芸術。そういった意味では、障害があってもなくても楽しめるもので、どんな曲を演奏するのか考えるのは、音楽を問い直すことにもなった」と話す。

 ただ、障害者の芸術鑑賞に向けた取り組みは道半ばで課題も多い。今回は、音を伝えるグラフといった工学技術と人が演舞をするといった表現を組み合わせて試行錯誤したが、聴衆からは「振動を感じることができても、どんな音なのかの説明がないと楽しめない」といった意見も寄せられた。文化政策学が専門の長津准教授は「音楽表現の意味そのものを問うような課題だが、表現する人と技術の融合が大切で、コンサートを機にさらに研究を深めていきたい」と話している。


俳優の動き、視覚障害者へ音声ガイド


 2018年に施行された障害者文化芸術活動推進法は、障害者が文化芸術を楽しめるよう国や自治体に対応を求めており、各地で取り組みが進んでいる。

 福岡市のアクロス福岡では21年から、様々な障害を持つ人を対象にした劇場体験プログラムを行っており、字幕や手話を使ったり視覚的に楽しめる曲を演奏したりして音楽鑑賞の機会を設けている。

 東京芸術劇場では、視覚障害者のために上演中に俳優の動きや場面転換を説明する音声ガイド、聴覚障害者のためにセリフや効果音を説明するポータブルの字幕機など鑑賞サポート付きの公演がある。また、東京都などは手話通訳や音声ガイドといった鑑賞サポートを実施する民間の芸術団体などへの助成も行っている。

 

リンク先は讀賣新聞オンラインというサイトの記事になります。


 

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