(下)思春期に聴覚を失い、人とのつながりを失う喪失体験。大学で恩師と出会い、ユニバーサルデザインの考え方を学ぶ
2025.01.24
松森果林
「ダイバーシティ」や「共生社会」という言葉が日常的に使われるようになりました。多くの親世代にとって、これらの概念は自分たちが育つ過程で意識する機会が少なかったため、子育ての中でどう取り入れていくべきか、戸惑うこともあるかもしれません。中途失聴者の松森果林さんは、聞こえる世界と、聞こえない世界の両方を知る立場から、両者をつなぐ活動や、ユニバーサルデザインを広める活動をしています。下編では高校生の時に聴覚を失った松森さんが歩んだ道や、ユニバーサルデザインアドバイザーとしての活動について聞きます。
(上)子育て世代が「聞こえない」世界に関心 手話の輪広がった訳は
(下)聴覚障害者もディズニーランドを楽しむ方法は… 入社して提案 ←今回はココ
聴力を失い、人とのつながりまで失ったような気持ちに
松森果林さんは声を出して話すことはできますが、相手の意図を知るときには手話や筆談、読唇、音声認識のアプリなどでコミュニケーションを取っています。小学校4年生のとき右耳が聞こえなくなり、高校生の時に左耳の聴力も失った松森さん。思春期のさなか、徐々に聴力が失われていく過程で「生活の中のバリアーが次第に増えていくのを感じていた」と振り返ります。
「少しずつ聞こえなくなっていく中で先生や友達とコミュニケーションが取れなくなり、日常生活にさまざまな困難が生じました。テレビを見ても内容が理解できません。学校でも先生が言っていることが理解できなければ、勉強が困難になります。こうしたバリアーがあっても『聞こえない自分が悪い』と思い込んでいました」
みんなと一緒にいるのに自分だけがちがう世界にいるような孤独感だったと言います。
「聴覚を失うということは、ただ単に音が聞こえなくなるだけでなく、人とのつながりを失う喪失体験でもありました。コミュニケーションが取れないことで、家族や友だち、社会とのつながりまですべて断たれたように感じたのです。心と身体がバラバラになるような気がして、当時はこの孤独感を『冷たい湖の底に沈むような冷たさ』と表現していました」
どうすれば自分の身体と心をつなぎとめることができるのか、どうすれば人とつながることができるのか。松森さんは苦しみや悲しみを言語化し、表現する方法を模索するために、日記帳に自分の思いを書き記し始めました。
「中学生のころは、担任の先生との連絡ノートに手紙を書くような感覚で気持ちを伝えていました。書くことで相手との気持ちがつながることを実感し、自分自身の内面を見つめ直すきっかけにもなったのです」
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