速水奨の“低音ボイス”が物語に厚みを生む 『名探偵コナン』諸伏高明役で発揮した存在感

速水奨の“低音ボイス”が物語に厚みを生む 『名探偵コナン』諸伏高明役で発揮した存在感

2025.05.08 17:30
文=すなくじら

名探偵コナン 隻眼の残像のワンシーン


 低い声には、人を惹きつける力がある。

 ただ言葉を届けるだけでなく、その響きそのものが心に染み込み、余韻として深く刻まれる。そうした低音ボイスならではの深みを、長年にわたり体現してきたのが、速水奨だ。その唯一無二のバリトンボイスは、出演する作品ごとに強い印象を残し、シーンの空気を一変させるだけの存在感を持っている。

 現在公開中の劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像』では、諸伏高明役を担当。舞台となる長野県の雪山で繰り広げられる事件を通して、大和敢助の過去や長野県警の面々が描かれる本作において、諸伏もまた物語を動かすキーパーソンとして存在感を放っている。

現在公開中の劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像』

 彼の台詞には、『三国志』の教訓や中国の故事を引き合いにした含蓄のある言い回しが多く、知性の中に熱を宿す人物像が浮かび上がる。

 この“語り”の力は、『鬼滅の刃』の産屋敷耀哉の鎹鴉役や、「ヒプノシスマイク」の神宮寺寂雷役でも顕著だ。低く艶やかな声で放たれるひと言が、シーン全体の空気を一瞬で塗り替えることさえ珍しくない。そしてその表現力は、映画館という音響に優れた空間でこそ、最大限に生きてくる。

 もともと劇団四季で俳優として活動していた経験を持つ速水は、声優としてのキャリアにおいても、キャラクターソングのみならず、個人名義での音楽活動も展開するなど、“声”を媒介にジャンルを越えた表現を広げてきた。

【低音ボイス声優】一番低いのは誰!?予想を超える結果が!!


 そんな速水の声が、いかに低いかを象徴するエピソードもある。テレビ朝日のYouTube番組『動画、はじめてみました』では、声優の増元拓也・安元洋貴とともに、「もっとも低い声の周波数」を測定する企画に参加。成人男性の声が一般に150Hz前後とされる中、速水はその常識を覆す“17Hz”という驚異的な数値を記録した。

 数字だけではピンと来ないかもしれないが、これはピアノの最低音よりも低く、マイクが拾える限界に近い周波数だ。多くのテレビやスマートフォンのスピーカーでは20Hz以下の音が再生されないことを考えると、その声の深さは特筆に値する。

 「声そのもの」がコンテンツとして成立する今、低音ボイスは確かな存在感とともに、多くの人を惹きつけてやまない。実際、津田健次郎・杉田智和・武内駿輔らによるYouTubeの人気番組『低音火傷』のように、深みのある声を持つ声優にフォーカスした企画も登場している。


では、なぜ私たちはこれほどまでに低い声に惹かれるのだろうか。

 まず考えられるのが、低音がもたらす「印象形成」の効果だ。たとえば、立教大学の研究では、政治家の声の高低によって有権者の印象が変わることが示されている。声が低いほど「好感」や「信頼」を得やすく、説得力も高く感じられる傾向があるという(※1)。声というのは、言葉の内容以上に、その人の印象”を左右してしまう要素なのだ。

 また、声の専門家・山﨑広子氏は、低周波帯域を多く含む声には聴く人の精神を落ち着かせ、安心感をもたらす作用があり、脳をリラックスさせる効果があると指摘している(※2)。

 さらに山﨑氏は、この傾向がビジネスシーンにも現れていると述べている。かつてデューク大学とカリフォルニア大学が行った調査では、CEOの声が低いほど、年収や企業規模が大きく、在任期間も長くなる傾向があったという。

 「頼りがいがある」「落ち着いている」。そんな印象を与えやすい低音の声は、リーダーシップの評価にも直結するというわけだ。無意識のうちに、私たちは低音の居心地のよさに惹かれ、信頼や安心を預けているのかもしれない。

 音響の視点から見ても、低音には空間を包み込む力がある。高音がキーンと鋭く響き渡るのに対し、低音は空気を深く振動させ、聴覚だけでなく身体ごと共鳴させる。いわば、耳ではなく「肌で感じる」ことができる声。それもまた、低い声ならではの魅力のひとつだ。

 速水奨の超低音ボイスは、まさに“体感する”声だ。スクリーン越しの一声が、物語の温度を変え、こちらの感情を静かに揺さぶってくる。その深みを全身で浴びるように感じられることこそ、劇場でしか味わえない贅沢なのかもしれない。


参照


※1. file:///Users/user/Downloads/AN00026486_58_07%20.pdf
※2. https://studio.persol-group.co.jp/kininaru/230407-1


■公開情報

劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像(せきがんのフラッシュバック)』
全国東宝系にて上映中
キャスト:高山みなみ(江戸川コナン)、山崎和佳奈(毛利蘭)、小山力也(毛利小五郎)、林原めぐみ(灰原哀)、高田裕司(大和敢助)、速水奨(諸伏高明)、小清水亜美(上原由衣)、岸野幸正(黒田兵衛)、草尾毅(安室透)、飛田展男(風見裕也)、鮫谷浩二(平田広明)
原作:青山剛昌『名探偵コナン』(小学館『週刊少年サンデー』連載中)
監督:重原克也
脚本:櫻井武晴
音楽:菅野祐悟
アニメーション制作:トムス・エンタテインメント
製作:小学館/読売テレビ/日本テレビ/ShoPro/東宝/トムス・エンタテインメント
配給:東宝
©2025 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
公式サイト:https://www.conan-movie.jp


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下町育ちのエンタメライター。映画やアニメ、小説を中心に心を打つ物語を探す日々。
ダークファンタジーやゴシックなテイストの世界観を好みます。

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