難聴の人の抱える「口元と資料を同時に見られない」問題解消、指でなぞると話し言葉が地図にわき出すアプリ…万博で大活躍

難聴の人の抱える「口元と資料を同時に見られない」問題解消、指でなぞると話し言葉が地図にわき出すアプリ…万博で大活躍

2025/08/15 20:00

 大阪・関西万博では、タブレット画面の地図をなぞる自分の指先から、話した言葉が文字になって軌跡のように表示される「しゃべり描きアプリ」が、耳の不自由な人への道案内に役立っている。(上万俊弥)

話した言葉が指でなぞった跡にそって表示される「しゃべり描きアプリ」

話した言葉が指でなぞった跡にそって表示される「しゃべり描きアプリ」


 「東ゲートはこちらです」。そう話してタブレットに映し出した地図をなぞると、指先から文字がわき出るように画面上に表示された。


 耳の不自由な人が、相手の口の動きから言葉を読み取ろうとすると、その度に手元の地図から目が離れてしまう。三菱電機の「しゃべり描きアプリ」はそんな不自由を解消してくれる。

「しゃべり描きアプリ」を開発した平井さん(左)と今石さん(大阪市此花区で)=原田拓未撮影

「しゃべり描きアプリ」を開発した平井さん(左)と今石さん(大阪市此花区で)=原田拓未撮影


 開発に携わったのは、三菱電機のデザイナー、平井正人さん(56)と、今石晶子さん(34)。アイデアがひらめいたきっかけは、平井さんと、感音性難聴を持つ今石さんの2人の会話がかみ合わなかったことだった。

 平井さんは2013年、スケッチを手に、インターンの学生だった今石さんにデザインの指導をした際、自分の考えが正しく伝わっていないと感じた。これまでのやりとりに支障はなく、理由は分からずじまいだったが、その後、入社した今石さんと会話する中で気付いた。「相手の口元と、手元のスケッチを同時に見ることができなかったからではないか」

 今石さんは、補聴器に加え、唇の動きから言葉を理解していた。手元のスケッチに注目していたため、平井さんの話したいことが正しく伝わっていなかった。

 一方、今石さんは、これまで同様の場面で相手の伝えたいことを理解できなかった経験が何度もあったが、「障害者だから仕方がない」と思い込んでいたという。

 平井さんは、今石さんらとともに、そんな不便を解消するアプリの開発チームを結成。なぞった指先の画面に話した言葉を表示させることで、口元と手元で目線を往復させずに済むアプリを1年がかりで製作し、16年に発表した。

 社内の報告会では、「当たり前だと思っていた壁が、本当は乗り越えていいものだと教えてくれました」と振り返る今石さんの傍らで、平井さんは涙が止まらなかったという。

 

 万博は、障害などの有無に関係なく誰もが輝ける社会の実現を目指しており、三菱電機は「道案内に役立ててほしい」と万博のスタッフらに600人分のアカウントを提供した。聴覚障害者のほか、外国人への案内にも利用されている。

 4月に会場でアプリを体験した聴覚障害者でユニバーサルデザインアドバイザーの松森果林さん(50)は「コミュニケーションそのものを楽しめるアプリだと思う。多様な聴覚障害者の意見を反映させ、社会インフラの一つにすることまで考えてほしい」と期待を寄せた。


リンク先は讀賣新聞オンラインというサイトの記事になります。


 

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