韓国ドラマ『プロボノ』が問い続ける無限の可能性 リーガルものの新たな傑作に

韓国ドラマ『プロボノ』が問い続ける無限の可能性 リーガルものの新たな傑作に

2026.01.03 17:30
文=荒井南 

韓国ドラマ『プロボノ』のワンシーン

 韓国ドラマの一大得意ジャンルとして、弁護士や裁判官、検察官が主役を務める作品は数多く作られてきた。シンプルに弁護士という職業をのぞき見できるというジャンルものならではの面白さはもちろん、人間の罪と罰に向き合う任務から生み出される深いドラマとメッセージが多くの視聴者を惹きつけるのだろう。

 現在Netflixで配信中の『プロボノ:アナタの正義救います!』(以下、『プロボノ』)は、そうした傑作の多いリーガルドラマの中でも、今生まれるべき傑作となる予感がしている。

プロボノのワンシーン

 高卒から汚職捜査部門最年少の主席判事にまで上り詰めたカン・ダウィット(チョン・ギョンホ)は、出世に執着するあまり権力にすりよってばかりだった。最高判事への切符をつかみかけたある時、何者かから多額の現金を受け取る動画のせいで収賄の疑いをかけられ、失職してしまう。そんな彼に、大手弁護士事務所オ&パートナーズの代表でかつての後輩ジョンイン(ユ・イヨン)が手を差し伸べるが、そこはパク・ギプム弁護士(ソ・ジュヨン)ら公益弁護士、通称「プロボノ」の部署だった。ダウィットはお金にならない庶民からの依頼に顔をしかめ、他のメンバーもプロボノの仕事を軽んじる彼に不信感しかない。しかし、険悪だった彼らも、依頼者からの難題を解決していくうち徐々に結束を強めていく。

 本作には、ダウィットの失職のきっかけとなった収賄の証拠動画を捏造した黒幕を突き止めていく謎解きや、被告人代理人としてダウィットと対立するウ・ミョンフン弁護士(チェ・デフン)との法廷弁論バトル、チームワークで問題を解決していく痛快なバディといったエンタメ要素もふんだんにちりばめられている。第7話より本格的に登場した“ラスボス”、権力至上主義を貫くオ&パートナーズの設立者オ・ギュジャン(キム・ガプス)との全面対決も気になるところだ。だがやはり目を見張るのは、これまでも『悪魔判事』などリーガルドラマを手がけた元判事という肩書きを持つ脚本家ムン・ユソクが手がけたからこその、公益弁護士という題材で現実社会を鋭くえぐるストーリーだ。

プロボノのワンシーン

 「プロボノ」とは「公共善のために(Pro Bono Publico)」というラテン語を語源とし、専門家が仕事で培った知識やスキルを活かして行う社会貢献活動のこと。弁護士の無料法律相談が最も身近ではあるが、他にもIT、マーケティング、デザインなど様々な分野の専門家がNPOや地域団体などの課題解決を支援する取り組みを指し、ボランティアとはまた異なる活動形態と位置付けられている。

 ドラマではプロボノメンバー各々が持つ、誰にも引けを取らない深い知識が問題解決に導いていく。未だ韓国でも馴染みがあるとは言えない職業を主人公に据えたことがまず画期的だが、さらに驚くのは依頼のテーマの新鮮さだ。たとえば第3話〜第4話の車椅子の少年ガンフンが社会で冷遇されるエピソードは、ここ数年のソウル地下鉄での車椅子使用者によるデモ(※1)を強く意識しているように感じる。

 また最新エピソードに登場した“サセン”(アイドルなど芸能人の私生活を追いかける悪質なファン)と誹謗中傷を繰り返すネット配信者は、先ごろニュースになった、BTSのメンバーが悪質YouTuberを訴えた裁判(※2)を想起させる。その他にも女性の中絶の権利や在韓外国人への暴力など、韓国だけでなく世界的なホットイシューに毎回強く踏み込んでいる。社会批判をエンタメに昇華するのに長けている韓国ドラマといえども、ここまで意欲的なのは初めてなように感じる。『プロボノ』はある依頼とその裁判について2回に分けて取り上げる構成で、依頼者の登場と調査、裁判とその結末をきちんと描いているが、今なお実社会で議論の最中である題材を丁寧に見せようという思いもあるのだろう。


 『プロボノ』のもうひとつの魅力は、チームを構成するプロボノたちだ。ただ個性的というだけではなく、それぞれが背負う物語の書き込みにより、彼らや彼女たちが私たちを投影した姿となることで大衆の代弁者にもなり得ている。チャン弁護士(ユン・ナム)はあらゆる労働デモに参加した経験を持ち、投獄もされたことがある。血気盛んで悪事を絶対に許さないユ弁護士(ソ・ヘウォン)は校内暴力の被害者で、暴力が怖く人を軽視したくないから声を上げているのだった。野心家に見えるファン弁護士(カン・ヒョンソク)だが、就職浪人として苦しんだことがあった。

 そして主人公のダウィットは、貧しい母子家庭で周囲の助けを得ることができない中、実力だけでは生きていけない世間でのし上がるためにいつしか初心を忘れてしまっている。ダウィットは依頼人を無条件に信頼するパク弁護士が理解できず「何不自由なく育って苦労していないからだ」と口走ったり、彼女の大きな身振り手振りについても、心の中で「うるさいな」と疎ましがる。実は彼女はCODA(ろう者・難聴者の両親を持つ聴者の子ども)で、大きなジェスチャーは両親とのコミュニケーションのためだった。そして両親は以前、信じていた人に裏切られた経験があった。偶然にも仲間たちでパク弁護士の実家へ行き、事実を知ったダウィットが自身の浅薄さに気まずそうにする姿が印象的だ。ダウィットのような人物を主人公に据えることによって、人間とは理解や判断が常に正しいわけではないことや、「もしかしたら自分もこういうことを考えてしまうかもしれない」「気づかないうちに口に出しているのでは」という自身の差別や偏見、価値観の狭さに立ち止まる時間を視聴者にもたらしている。

プロボノのワンシーン

 また、ドラマの中には私たちの偏見や無理解をあぶり出すポイントが巧みに仕掛けられている。劇中、障がい者や移民への施策に反対する人たちの多くが「私たちも大変」「みんな生活が苦しい」という言葉を口にする。「私たち」「みんな」という言葉は一見フェアかもしれないが、そもそも現在の社会制度で、マイノリティはマジョリティが使う「みんな」と同じスタートラインに立つことができていない。

 また、第5話で描かれた移民女性カヤ(チョン・フェリン)からの離婚調停依頼では、彼女が過去の出産を隠して嫁いだことがダウィットたちの不利となってしまう。幼少期の誘拐と韓国への移住婚の両方で性加害を受け、さらに幼くして出産を余儀なくされる考えられないほどむごたらしい人生を送ってきたカヤを救える法律は、あらゆる法というものが常識や社会通念で形成されてきたがゆえに存在しない。こうして「差別をなくそう」「平等な社会に」と言っていた人々も、「それなら、仕方ない」「みんな大変だから、我慢してもらうしかないよね」と考えることを止めてしまう。だからこそダウィットが言い放った「カヤさんのように常識で考えられない酷い目に遭った人のことを、常識は取りこぼしてしまう」というセリフには、この社会がそもそも平等ではないこと、そしてそんな社会の不寛容に目を瞑らない彼の姿勢が鮮やかに現れていて、実に忘れがたい。

プロボノのワンシーン

 もちろん、『プロボノ』の展開や結末が解決策のすべてではなく、このドラマこそが正解だとも最適解だとも言いたいわけではない。車椅子少年ガンフンの裁判のとき、理解のない判事と被告側のウ弁護人が車椅子生活を実際に体感する場面がある。意義深い行動である一方、健常者にとってはたった一度の“体験”でしかない。これで障がい者の苦痛を知った気になるのは間違いなわけで、マジョリティの自己満足の域を出ない演出という批判も当然あるだろう。だから、本作を観た方はぜひ「私ならこうする」というふうに自分ごととして考えてみてほしい。答えを出すことだけが正しいのではない。あなたならどうやって、この社会に確かにある誰かの苦痛や困難を分かち合うのか。その問いを提示し続けている『プロボノ』には、無限の可能性と価値を感じるのだ。

参照
※1. https://jp.yna.co.kr/view/PYH20250421024900882
※2. https://kstyle.com/article.ksn?articleNo=2256063


■配信情報


『プロボノ:アナタの正義救います!』
Netflixにて配信中
出演:チョン・ギョンホ、ソ・ジュヨン、イ・ユヨン、ユン・ナムほか
(写真はtvN公式サイトより)


荒井南
フリーライター/韓国映画とドラマをメインに、コラムやインタビューなどいろいろ書いています。永遠の推し俳優はソル・ギョング。普段は都内の某名画座に出勤しています。

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