2025.12.06
「帯状疱疹ワクチン」が認知症のリスクを下げる
ある日突然、激痛の帯状疱疹に苦しまないようにと、ワクチン接種が始まった。今年度の対象者は2026年3月31日まで公費負担で受けられるのだが、その「意外な効果」も注目されている。
日本人の9割はウイルスに感染済み
「帯状疱疹は80歳までに日本人の3人に1人、85歳までに2人に1人が発症するほど身近な病です。
水ぼうそうを起こす水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が原因となりますが、日本人の9割はすでにVZVに感染済み。つまり、ほぼ誰もが帯状疱疹に苦しむ可能性があるのです」(『知識ゼロからわかる帯状疱疹の不安を解消する!』の著者で、元東京慈恵会医科大学大学院教授の本田まりこ氏)
水痘、いわゆる水ぼうそうにかかった人の体内を走る神経には、帯状疱疹ウイルスが潜伏し続けている。潜伏期間中は何の症状も出ないが、数十年後、加齢やストレスによって免疫が低下しウイルスが再び活性化すると、帯状疱疹を発症するというわけだ。
発症者の激増を受け、厚生労働省は今年4月から、主に65歳以上の人を対象に、帯状疱疹ワクチンの定期接種を始めた。接種を促すテレビCMを目にすることも多い。

しかし、コロナワクチンを接種して激しい副反応に苦しみ、「ワクチンはもうこりごり……」という人もいるだろう。打つかどうか迷っている人のために、帯状疱疹ワクチンの効用と実情をお伝えしよう。
そもそも、帯状疱疹を患うと、どんな症状が現れるのか。帯状疱疹診療の第一人者である、愛知医科大学教授の渡辺大輔氏が解説する。
「ある日突然、皮膚の違和感やかゆみが出て、数日後に発疹と水ぶくれが帯状に出てきます。ピリピリ、ズキズキと夜も眠れないほど激しい痛みが生じ、日常生活に支障をきたす場合もあります」
皮膚症状は3週間前後で収まるが、その後で帯状疱疹後神経痛と呼ばれる「後遺症」が残る人も1~2割ほどいる。神経が損傷したことで、服がこすれただけでも焼けるような痛みが続くのだ。
難聴、失明、腸閉塞……
それだけではない。帯状疱疹が発症しやすい部位は上肢から胸や背にかけて(割合は31・2%)が最も多いが、腹部や背中(同19・6%)、頭部や顔面(同17・6%)にも生じる。部位によって、次のような合併症が起きる可能性もあるのだ。
・耳の近くに発症→めまいや耳鳴り、難聴、顔面神経麻痺、味覚障害
・目の周りに発症→結膜炎や角膜炎、視力低下や失明
・腹周りに発症→腸閉塞
「ごくまれですが、ウイルスが脳まで到達すると、血管障害を起こして命に関わる帯状疱疹脳炎に至ることもあります」(前出の本田氏)
つまり帯状疱疹は単なる皮膚病ではなく、日常生活に大きな支障が生じて、死に至る恐れもある大病ということ。事前に予防しておくに越したことはない。
そこで最も有効なのが、帯状疱疹を予防するワクチンの接種というわけである。
現在、日本で打てるワクチンは2種類。ウイルスの病原性を低下させてつくった生ワクチン(販売名:ビケン)と、病原性がないウイルスの一部を用いてつくられた不活化ワクチン(販売名:シングリックス)だ。
「ビケンは1回の接種で効果は5年程度続き、予防効果は約50%と言われています。代表的な副反応は接種後の発熱です。他方のシングリックスは、注射部位の痛みやだるさなどの副反応の頻度はビケンに比してやや多い印象ですが、2回の接種で予防率は90%。効果は少なくとも9年持続するとされます。
私のクリニックでは9割以上の方がシングリックスを希望していますが、どちらを打つべきかは医師とよく相談しましょう」(いしいクリニック築地院長の石井康多氏)

近年、帯状疱疹ワクチンには意外な効用もあることが示されている。
今年4月、『Nature』に掲載された米・スタンフォード大学医学部の研究によると、帯状疱疹ワクチンを接種した高齢者は、摂取しなかった高齢者に比べて認知症の発症リスクが2割ほど低下した。ワクチンが免疫システム全体を強化し、脳をウイルスから守ることが認知症予防につながっているのではないかと推測している。
「一部のワクチンには免疫力をさらに強めるため、アジュバントと呼ばれる物質が含まれています。シングリックスに含まれるアジュバントは神経の炎症を抑制する作用があり、脳神経の保護、ひいては認知症予防に繫がっているのではないかと考えられます」(産婦人科クリニックさくら院長の桜井明弘氏)
後編記事→だるさと筋肉痛が続く、半額以下で接種できる……心臓病や脳卒中のリスクも下げる「帯状疱疹ワクチン」の副作用とお値段は?へ続く。
「週刊現代」2025年12月8日号より
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