補聴器にも使い方のトレーニングが必須!注目の「宇都宮方式聴覚リハビリテーション」とは?~改善できる危険因子・難聴④

補聴器にも使い方のトレーニングが必須!注目の「宇都宮方式聴覚リハビリテーション」とは?~改善できる危険因子・難聴④

済生会宇都宮病院・新田清一先生の写真
済生会宇都宮病院・新田清一先生

連載第15回(『難聴は認知機能の低下を引き起こす?~改善できる危険因子・難聴①』)から、難聴と認知症の関係について見ている。

前回(『音を聞いているのは、耳でなく脳だった!~改善できる危険因子・難聴③』)は、補聴器を使うためには適切な調整とトレーニングが必須であることについて書いた。なぜ必須なのかと言えば、私たちが音を聞いているのが「耳ではなく脳」であり、「難聴の脳」では「聴覚路」の音に対する反応が弱くなっているからだった。

今回は、補聴器の画期的なトレーニング方法「宇都宮方式聴覚リハビリテーション」を実践している医師に、聞こえを良くするためのトレーニングのコツを伺った後、補聴器が必要になった時に信頼できる窓口になるであろう場所の情報を紹介する。


効果的なトレーニングとは?

「宇都宮方式聴覚リハビリテーション」とは、済生会宇都宮病院の新田清一先生が実践している補聴器のトレーニング方法で、先生のもとで補聴器を作った患者さんたちが満足いく補聴器を手にしているだけでなく、他機関で補聴器を購入しながらもその装用効果に不満を持ち、改善する目的で全国から外来受診にやってくる患者さんたちが後を絶たない話題のものである。

済生会宇都宮病院・新田清一先生の写真
済生会宇都宮病院・新田清一先生

「宇都宮方式聴覚リハビリテーション」とは、済生会宇都宮病院の新田清一先生が実践している補聴器のトレーニング方法で、先生のもとで補聴器を作った患者さんたちが満足いく補聴器を手にしているだけでなく、他機関で補聴器を購入しながらもその装用効果に不満を持ち、改善する目的で全国から外来受診にやってくる患者さんたちが後を絶たない話題のものである。

「補聴器をきちんと使えるようになるためのトレーニングで大切なことは、二つです。一つは、補聴器を最初から長時間、朝起きてから寝るまで常に装用し続けること。もう一つは、補聴器の調整を適切に行うことです。

一つ目の装用時間ですが、『最初は短い時間装用し、慣れたら少しずつ増やしていきましょう』という指導では、難聴の脳からいろいろな音が当たり前に聞こえる脳に短時間で変化していきません。辛くても、必ず最初から長時間装用し、脳を変えていくのが大事です。

また、補聴器の音量をどのレベルにするかも重要です。補聴器をつけて聞こえを良くできる音量でありながらも、音に慣れていない耳でも我慢できる大きさの“最適値”をきちんと決められるか否か。それが、トレーニングのもう一つの要です」(新田先生、以下同)
 
調整をどのように行うかは本当に大切で、新田先生のところでは、最初、「補聴器をつけて目標とする音量(=聞こえの力を最大限に引き出す音量)」の7割にするという

補聴器装用時と非装用時のオージオグラム
補聴器をつけた時とつけてない時の「聴力検査結果」例。初回の調整では、補聴器をつけた時の「聞こえ」の7割を音量の目安にする。(資料提供:“聞こえる”プロジェクト

「補聴器をつけた状態でも聴力を測定し、足りない音がないか、聞こえ過ぎる音がないかなどをしっかりと確認します。そして、補聴器をつけていない時の聞こえのレベルと補聴器をつけた時の聞こえのレベルの検査結果(上図参照)を参考に、その後の調整を進めていきます。最終的な目標は、補聴器をつけたときの聞こえのレベル(▲)が、補聴器をつけていないとき(△)の半分ぐらいの数値になることですが、初回はその7割程度にするのが調整の目安です」

新田先生は、言語聴覚士ともチームを組んでおり、「言葉の聞き取り」をいかにアップさせていくかに注力して、調整とトレーニングを行っている。

言語聴覚士の鈴木大介さんの写真
言語聴覚士の鈴木大介さん。調整では言葉を捉えられるようになることを重視する

ちなみに「7割聞こえる」音量でもたいていの難聴患者は不快に感じてしまうとか。しかし一方で、補聴器をつけていない状態よりは明らかに聞き取りは良くなっていき、次第に食器がガチャガチャいう「高音域の音」や車の騒音「低音域の音」にも慣れるようになっていくという。

補聴器を調整するソフトの写真
デジタル補聴器の調整は、その補聴器に対応するソフトで行う

「3カ月程度あれば、たいていの患者さんの聞き取りに改善が見られます。ですので、私たちのところでは、3か月間をトレーニング期間と決めて、患者さんに頑張っていただくことにしています。そしてその間は補聴器を貸出しており、販売することはしません」

 お話を伺って、補聴器を使えるものにするかを左右しているのは、適切な調整と、最終的に「聞こえること」が担保されているかどうか(という信頼感があるか)なのだと強く思わされた。


不適合の補聴器が売られている

最初にご紹介した通り、新田先生のところには、補聴器を買ったにもかかわらず「使えない」状態の患者さんたちも多く訪れているわけだが、その233例について先生のグループが2010年4月~16年1月までに行った調査では、1例を除く232例(99.6%)が、実際に「適合不十分」だったという(→注1)。

円グラフ「故障、器種選択の誤り、調整の不適」
「他機関で購入された補聴器の検討~補聴器適合検査の指針(2010)に準じた適合判定~」(Audiology Japan 61, 216~221, 2018)より引用(→注1)

「内訳は,器種選択の誤りが129例(55%)、調整の不適が85例(37%)、故障18例(8%)でした。それらの原因に応じて当科補聴器の貸出や調整などの対処を行った結果,持参補聴器の使用継続を選択した28例を除いた204例(88%)が適合となりました」
 
つまり、間違った補聴器を選んだり、しっかり調整できていない補聴器を使ってしまうことが、満足いく「聞こえ」の実現を妨げているということだ。

沢山の補聴器の写真
済生会宇都宮病院では、日本で流通している全メーカーの補聴器を置いている

「このうちの器種選択の誤りというのは、中等度以上の難聴患者に対して、軽度難聴用の補聴器など器種の適応聴力範囲が患者の聴力レベルと合致していない補聴器が販売されている例が多数でした。また調整の不適では、装用効果よりも装用下での不快感を避けることを優先した調整が行われていた可能性が示唆されます」


不快感を除く調整

どういうことなのだろうか。

「難聴の耳に聞き取りが改善するレベルの音を入れると、静かな環境に慣れてきた『難聴の脳』に最初はとても不快に感じます。特に食器や紙のこすれる高音域の音や、換気線や車のエンジン音など低音域が気になるという声が多いのですが、使用者の訴え通りに高音域と低音域の音量を下げると、聞き取りは悪くなっていきます。そこで、『聞こえない』と言われると、今度は人の話し声が多い『中音域』をアップさせたりする。その結果、中音部だけわずかに聞こえが良くなった補聴器が出来ますが、それは聞こえないよりはマシと言う程度のもので、十分に聞こえが良くなったといえるものではありません。

実際の生活では、いろんな音の中から会話を『聞き出していく』わけですから、不快に感じる音がある程度聞こえてくることは仕方ありません。環境としていろんな音がある中から必要な音を聞き出せるようにするのが、トレーニングの肝なのです」

では、どうして間違った調整が行われてしまうかと言うと、「適切な調整のための一定レベルの知識や技能を持ち合わせていない調整者・販売者が存在するからではないか」と新田先生。

しかしそうなると、補聴器の知識や技術を持つ調整者や販売者たちをどう探せばいいのだろうか?

新田先生のご著書『難聴・耳鳴りの9割はよくなる』の表紙画像
トレーニングについて詳しくは、新田先生のご著書『難聴・耳鳴りの9割はよくなる』にも書かれている、→「聞こえるプロジェクト


補聴器相談医とは?

聞こえについて相談したい場合、まずは耳鼻咽喉科を受診すべきだとこれまでに何度か書いてきたが、補聴器の相談をしたい場合には、「補聴器相談医」を探すとよりいいだろう。
補聴器相談医とは、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会から委託された「補聴器を用いた医療に関わる医師」のことで、聞こえに不安を感じるようになった人に対して診断と治療を行い、必要に応じて販売店を紹介するだけでなく、補聴器購入後も補聴器の専門家である「認定補聴器技能者」(後述参照)と連携し、経過観察と適切な使い方の指導を行う。

2024年5月現在、補聴器相談医は全国に約5,300人おり(日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会調べ)、その名簿は日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のHPで公開されている。
 
補聴器相談医名簿

また、医療機関の中には「補聴器外来」を設けているところもあるのだが、こちらは名簿として公開されているものがないので、補聴器外来が自宅近くにあるかはご自身で検索するといいだろう。


認定補聴器技能者制度

続いて、補聴器をどこで買うかという話だが、連載第16回で、日本では補聴器を扱う人に国家資格がいらないと書いた。しかし、民間の「認定補聴器技能者制度」というものが、その代替を担おうとしている。

公益財団法人テクノエイド協会では、1993年より「認定補聴器技能者」を養成しており、2024年6月現在、全国に4836人の認定補聴器技能者がいる。

認定補聴器技能者になるためには、4年間の講習期間を経たのちに資格試験に合格する必要があり、一定水準以上の知識と技能を有することが保証されている。補聴器販売従事者に対するこの資格制度は、難聴者への補聴器の適切な供給に役立つことを目的としているだけでなく、補聴器相談医との連携も行っているので(=受験資格に補聴器相談医からの連携証明が必要)、補聴器を買う場合には、認定補聴器技能者を探すといいだろう。
 
また、認定補聴器技能者が在籍し、補聴器の調整・選定に必要な種々の測定機器や設備について公益財団法人テクノエイド協会の認定審査基準をクリアした店には、「認定補聴器専門店」の資格が与えられている。5年ごとに認定時と同様の厳正な更新審査を受けることが義務付けられており、2024年6月現在、全国に1004店ある。

認定補聴器技能者と認定補聴器専門店の名簿はテクノエイド協会のHPで公開されているので、お住まいの近くをチェックすることをお勧めする。

認定補聴器技能者検索

認定補聴器専門店検索

最後に、大切な情報を書いておく。

補聴器相談医を受診して、「補聴器適合に関する診療情報提供書」に記入してもらってから補聴器を購入すると、医療費控除の対象になる。知っておくといいだろう。
(国税庁)補聴器の購入費用に係る医療費控除の取扱いについて

お金の話が出たところで、次回は助成金について書く。(続く)


注1:「他機関で購入された補聴器の検討~補聴器適合検査の指針(2010)に準じた適合判定~」(Audiology Japan 61, 216~221,2018)上野真史、新田清一、鈴木大介、藤田航、中山梨絵、 鈴木成尚、坂本耕二、草野真理、大石直樹、小川 郁、済生会宇都宮病院耳鼻咽喉科、慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科学教室


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