記事のバナー「「助けて」という声が、聞こえないかもしれない。二つの震災を経験した私が、命を守るIDネックレスを生み出すまで」

「助けて」という声が、聞こえないかもしれない。二つの震災を経験した私が、命を守るIDネックレスを生み出すまで

公開日:2026年9月1日 12:00更新日:2026年9月1日 12:33

記事のバナー「「助けて」という声が、聞こえないかもしれない。二つの震災を経験した私が、命を守るIDネックレスを生み出すまで」

「もし、あの時、助けを呼ぶことができていたら」

阪神・淡路大震災で感じた無力感と、東日本大震災で目にした現実が、私のものづくりの原点になりました。命を守るための備えとして"LifePendant SONA-e"を開発するまでの経緯と、多くの方々との出会いを経て、その想いを形にするまでの歩みをお話しします。

 

「助けて」という声は、きっと届かない

1995年1月17日、阪神・淡路大震災が発生しました。震災が起きたその朝、私は大阪で買えるだけの水とおにぎりをバッグに詰め、オートバイで神戸へ向かいました。神戸にいるお客様と、弊社の社員に届けるためです。神戸へ向かう道中で目にした光景は、今でも忘れることができません。道路は大きく隆起し、高速道路は倒壊していました。高速道路から今にも落ちそうになっている車や、全壊した建物も間近で目にしました。街の姿が一変していました。

その光景を見ながら、私は強く感じました。「もし、この近くで誰かが『助けて!』と叫んでいたとしても、ヘリコプターの音や周囲のさまざまな雑音にかき消され、その声はきっと届かないだろう」この時に感じたことが、後にLifePendant SONA-eを開発する原点になりました。

LifePendant SONA-e

 

東日本大震災が、思いを確信へと変えた

それから16年後、東日本大震災が発生しました。報道を通して、地震と津波による惨状を目にしました。各地で多くの方が行方不明になり、遺体が発見されても身元を特定できないという報道が続いていました。阪神・淡路大震災の現場で私が感じたことと、東日本大震災の報道を通して目にした現実。

二つの震災が、私の中で一つの問いにつながりました。

「自分のものづくりの経験を生かして、何か人の役に立つものを作れないだろうか」

考え続けた末に、私は二つの機能が必要だと考えました。一つは、助けを呼ぶための機能です。電池を使うものは、電池が切れる可能性があります。機械は、衝撃や水によって壊れるかもしれません。それでは、本当に過酷な状況で使えるとは限りません。

LifePendant SONA-eを吹く男性

では、生きていて、呼吸さえできれば音を出せるものは何か。たどり着いた答えが、金属製の笛でした。しかも、単に音が鳴ればよいわけではありません。災害現場のように周囲に大きな雑音がある状況でも、誰かの耳に届く必要があります。そこで私は、3つの異なる高さの音を同時に鳴らす構造を考えました。複数の高さの音が同時に出れば、そのうちのどれか一つでも人の耳に届く可能性が高まると考えたからです。

LifePendant SONA-e

もう一つ必要だと考えたのは、身元を証明する機能です。災害や事故では、荷物が自分の手元から離れてしまう可能性があります。財布やスマートフォンを失うこともあるでしょう。「何があっても、自分自身から離れにくいものは何だろう」そう考えた時に思い浮かんだのが、軍隊で使用されているドッグタグ、つまりIDネックレスでした。軍人が、どのような状況でも最後まで身に着けているものです。

助けを呼ぶための笛と、身元を伝えるためのIDネックレス。この二つの機能を一つにしたものを作ろう。それが、LifePendant SONA-eの出発点でした。

LifePendant SONA-eを首から下げた女性

 

最初に完成したシルバー製LifePendant SONA-e

株式会社天正堂は、1933年の創業以来、長年にわたって貴金属製品の製造に携わってきました。そのため、最初は私たちが扱い慣れていたシルバーを使って開発を始めました。

試作を重ね、3つの高さの音が出る笛と、個人情報を刻印できるドッグタグを一つにした、シルバー製のLifePendant SONA-eが完成しました。

製品として販売を始め、一定数のお客様に購入していただくこともできました。しかし、販売する中で、いくつかの問題が見えてきました。

LifePendant SONA-e

シルバー製のLifePendant SONA-eは、二つのパーツをロー付けという方法で接合していました。内部には3つの高さの音を出すための隔壁があり、複雑な構造になっています。そのため、二つの部品を正確に接合するロー付けの作業は非常に難しいものでした。

また、シルバーに対して金属アレルギーを持つ方もいらっしゃいます。私は考えました。「もっと丈夫で、長く身に着けられ、より多くの人が安心して使えるものにしたい」そこで、次の素材として選んだのがチタンでした。チタンは丈夫で錆びにくく、金属アレルギーも起こりにくいとされている素材です。命を守るために、常に身に着けてもらう製品には適した素材だと考えました。ところが、ここから本当の苦労が始まりました。

ルーペを使う男性

 

「チタンでは、その構造は作れない」

チタンは、弊社が専門的に扱ってきた素材ではありません。そこで、チタン加工ができる工場を探し始めました。多くの工場に相談しましたが、シルバー製と同じ方法では作れないことが分かりました。

私たちが考えたLifePendant SONA-eは、内部に複数の音を出すための隔壁を持つ、非常に複雑な構造です。しかも、接合部分のない一体構造で作りたいと考えていました。

相談した工場から返ってくる答えは、厳しいものばかりでした。「チタンでは、その構造は作れません」何社に相談しても、なかなか実現の可能性が見つかりません。

正直に言えば、私自身も諦めかけていました。

黒い製品のアップ写真

 

チタンに詳しい博士との出会い

そんな時、ある工場の方が、チタンに詳しい博士を紹介してくださいました。その博士にLifePendant SONA-eの構造と、私が実現したいことを説明しました。

博士は、私の話を聞いたうえで、こう提案してくださいました。「チタンの粉末積層造形であれば、作れるかもしれません」

粉末積層造形とは、金属の粉末を一層ずつ積み重ね、立体的な形を作っていく製造方法です。従来の加工方法では難しい複雑な内部構造も、一体で造形できる可能性があります。

博士から、チタンの粉末積層造形ができる工場を紹介していただき、開発を再開しました。その工場には非常に技術力の高いエンジニアがおり、ついにチタン製LifePendant SONA-eを形にすることができました。しかし、形ができたからといって、それで完成ではありませんでした。

製品の加工場面

次に立ちはだかったのが、表面の研磨という問題でした。

粉末積層造形で作られた製品の表面は、そのままでは身に着ける製品として十分な仕上がりではありません。首から下げ、肌に触れるものですから、滑らかに美しく仕上げる必要があります。

ところが、この複雑な形状のチタン製品を研磨できる工場が、なかなか見つかりませんでした。何カ月もかけて研磨を引き受けてもらえる工場を探し、ようやく製品として完成させることができました。

白いYシャツとLifePendant SONA-e

記事のポイント! 

災害現場では、助けを求める声がヘリコプターや周囲の雑音にかき消され、相手に届かない可能性があります。記事では、阪神・淡路大震災と東日本大震災の経験をきっかけに、3つの異なる高さの音を同時に鳴らす笛と、身元情報を伝えるIDネックレスを一体化した「LifePendant SONA-e」が生まれるまでを紹介しています。難聴そのものを扱った記事ではありませんが、「声や音だけに頼らず、自分の存在や情報をどう伝えるか」という視点は、聞こえに不安がある方の防災を考えるうえでも注目したいテーマです。

関連ページ  

聞こえが気になる方は、以下のページも参考にしてください。

今の聞こえの状態を簡単に確認したい方へ
▶ 聞こえづらいと感じたときのセルフチェック

難聴の原因や種類を整理したい方へ
▶ 難聴とは?(原因・症状・種類)

まず何をすればよいか知りたい方へ
▶ 聞こえづらいと感じたときの対処法

補聴器の基本を知りたい方へ
▶ 補聴器の種類と選び方

 

気になる症状がある場合は  

聞こえに不安がある場合は、早めに耳鼻咽喉科への相談をおすすめします。 


原文掲載元はこちら 

 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1914515

Back to blog

Leave a comment