重度難聴の少女を魅了した「デフバスケ」ユース世代キャンプ参加、日本代表の夢

重度難聴の少女を魅了した「デフバスケ」ユース世代キャンプ参加、日本代表の夢

古川 諭香
2025.06.28(Sat)

2024年7月に開幕したパリオリンピックで、バスケットボール男子日本代表チーム「AKATSUKI JAPAN」の躍進が大きな話題を呼んだことにより、いま日本のプロバスケットボールリーグ「Bリーグ」は大いに盛り上がっている。

そんな“バスケ熱”が高まっているいま注目したいのが、聴覚障害者による「デフバスケットボール」だ。

中学3年生の榎本愛美さん(14)(@manami_deaf_basketball)は生まれた時から、内耳や聴神経に異常が起き、周囲の音が聞こえにくい「感音性難聴」。現在は、デフバスケの日本代表選手を目指して日々、練習に励んでいる。


兄の影響で“バスケの世界”に興味を持って


愛美さんの聴力は、90~100dbだ。日本聴覚医学会による「難聴(聴覚障害)の程度分類」にれば、平均聴力レベルが90dB以上の場合は重度難聴であるという。

重度難聴の愛美さんは普段、補聴器を装着して生活している。補聴器を外すと、周囲の音はほぼ聞こえない。

1/8幼少期の愛美さん。補聴器をつけて間もない頃

幼少期の愛美さん。補聴器をつけて間もない頃


「補聴器をつけると、聴力は40~60dbくらいになります。車やテレビの音、少し離れた人の声も聞こえるようになりますが、何を言っているかまでは分かりません」

健聴者とのコミュニケーションは1対1であれば、口の動きから相手の言葉を読み取ることができる。だが、グループで会話をする時は誰が何を言っているのか分からず、仲間はずれのような気持ちになるという。

現在、愛美さんは国内で唯一の国立聴覚特別支援学校に通っている。もともとバスケには興味がなく、触れたこともなかったが、小2の時、転機が。バスケをしていた3歳上の兄から勧められて市が開催するバスケ体験に参加してみたところ、心が弾んだ。

そこで、小3の時、小学生を対象とする健聴者のミニバスケットボールクラブに入部。

ミニバスに参加していた小6の頃

ミニバスに参加していた小6の頃


「ミニバスに入ったばかりの頃、チームメイトが名前を書いたシールを胸に貼ってくれて嬉しかったです」

中学入学後は、中学クラブチームに所属。入部当初、チームメイトたちは名前を書いたシールを胸に張ってくれ、ミニバス時代のチームメイトと同様、積極的に手話を覚えてくれたという。

中学クラブチームでのプレー中

中学クラブチームでのプレー中


「お店で一緒に買い物する時には口元が見やすいようにマスクを外してくれたり、大きな声でゆっくり話してくれたりもして嬉しかったです」

だが、プレー中には歯がゆさを感じることもあった。コーチの指示やチームメイトの声が聞こえず、コミュニケーションの壁にぶつかったのだ。

それでも、愛美さんは努力した。「自分から積極的に聞きにいこう」という両親のアドバイスを実行したり、疑問に思うことはプレー後に聞きに行ったりしながら練習に励んだ。


デフバスケとの出会いで「大きな夢」ができた


そんな愛美さんに「デフバスケ」の存在を教えてくれたのは、中学クラブチームのコーチだった。興味を持った愛美さんはコーチを通して、デフバスケの関係者と連絡を取ったそう。

すると、日本代表候補が集まる合宿があることを知り、愛美さんも参加することに。合宿を通し、愛美さんはデフバスケの面白さを知り、日本代表選手になりたいと思うようになる。

合宿中には仲間と笑い合う場面も

合宿中には仲間と笑い合う場面も


デフバスケはプレー中、補聴器を外すのがルールだ。選手は、手話やアイコンタクトなどのサインでコミュニケーションを取る。

「例えば、後ろから呼ぶ時は足で床を叩いたり体にタッチしたりします。サインは、フォーメーションごとに決めています」

プレー中は手話でのコミュニケーションが必須。そのため、愛美さんはデフバスケを始めたことで、手話がスラスラできるようになったという。

デフバスケでのプレー中

デフバスケでのプレー中


PGの愛美さんはディフェンスにボールがカットされないよう、常に考えながらパスを出す。

愛美さんいわく、デフバスケの運営スタッフやコーチは理解できるまで丁寧に手話で指導してくれるという。そのため、愛美さんはバスケの知識が増え、よりバスケを好きになれたそうだ。

「知らない手話を仲間に教えてもらって、みんなで話せるのが楽しい。コミュニケーションがしやすいので安心してプレーができます」


難聴者でも楽しめるバスケがあることを知ってほしい


実は愛美さん、去年に大阪で開催された「U18世界デフユースキャンプ」に参加。様々な国の選手たちと10日間、合宿試合を行った。合宿中、選手たちとは国際手話という世界共通の手話で交流。

U18世界デフユースキャンプの時

U18世界デフユースキャンプの時


「私も初めての国際手話でしたが、みんなとコミュニケーションを取る中で、少しずつ覚えることができました。英語ができなくても、国際手話で世界中の人たちとコミュニケーションが取れることに感動しました」

愛美さんは合宿でディフェンスとオフェンス両方の上手さが認められ、MVP選手に選ばれたが、フィジカルが強い外国人選手たちとのプレーで、自身の弱点を痛感。彼女たちと渡り合える日本代表になりたいと思い、今は体幹を鍛える筋トレなどに励んでいる。

U18世界デフユースキャンプでの試合時

U18世界デフユースキャンプでの試合時


そんな愛美さんが憧れているのは、2025年11月に開幕する「東京2025デフリンピック」の日本代表に選出された若松優津選手と丸山香織選手だ。

「かっこよくてかわいいし、とにかくバスケットが上手。私も2人のようになりたいです。KちゃんとしてYouTubeでも活躍している満生小珀選手にも憧れています」

そう話す愛美さんの願いは、デフバスケの魅力がより多くの人に知られること

新幹線の前でピース

大きな夢の実現に向けて日々、練習


「補聴器や人工内耳をつけているからバスケができないと思っている難聴の方は、多いはず。でも、デフバスケなら難聴でも楽しくバスケができる。そう伝えるためにも、世界で活躍できる代表選手になりたいです」

夢に向かって突き進む、愛美さんの若き情熱は尊い。彼女の活躍を通して、デフバスケという競技がより多くの人に認知され、業界全体が盛り上がっていくことを願う


リンク先はまいどなニュースというサイトの記事になります。


 

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