【信州人】松本歯科大病院・歯科医 杉野凜太郎さん(29)…難聴乗り越え 歯科医に

【信州人】松本歯科大病院・歯科医 杉野凜太郎さん(29)…難聴乗り越え 歯科医に

2025/08/18 05:00

スマホなどを活用し、診療の「見える化」と「聞こえる化」を図っている

難易度が高い歯の根管治療に携わる杉野さん

スマホなどを活用し、診療の「見える化」と「聞こえる化」を図っている

スマホなどを活用し、診療の「見える化」と「聞こえる化」を図っている


 日本で初めてとされる「耳が聞こえない歯科医」として、4月から松本歯科大学病院(塩尻市)で働く。歯科医療の中で最も難易度が高いという歯の根の中(根管)の治療に携わる。スマートフォンなどを駆使して患者のさまざまな訴えや思いに向き合っている。

 医師の家系に生まれ、1歳になる前、感音性難聴と診断された。音がまったく聞こえず、小学校から高校までろう学校で学んだ。大学進学を考える際、祖母ががんになった。

 抗がん剤治療に加え、歯の治療もあって負担がかかる祖母の姿を目の当たりにし、日頃の 口腔こうくう ケアの大切さを知った。父も内科医で、姉も医学部に進んでいた。「家族で将来、歯学と医学のトータルサポート医療を提供できれば患者に役立つ」と歯学部を目指した。

 「日本に耳の聞こえない歯科医はいない」――。進学先を選ぶ際、大学側から口々にそう告げられた。生まれ育った東京の大学は軒並み、「前例がない」などとして門戸を閉ざした。唯一、松本歯科大が「一緒に頑張ろう」と受験させてくれ、2018年に合格した。

 大学では、地元の通訳者がパソコンに入力してくれた講義内容を確認しながら学習を進めた。ただ、実習は「カルチャーショックの連続だった」という。

 椅子を起こしたり倒したりする時の細やかな声掛けが、患者の安心につながっていることを知った。目をつむっている患者にバキュームの音を近づけると自然に口を開けるという光景も、難聴の自分の経験にはないものだった。

 歯科医師国家試験を受ける際は、当時歯学部長だった宇田川信之学長が厚生労働省に配慮を要望。試験開始や終了の合図、注意事項の説明は文書で伝えてもらえるようになり、不安なく試験に臨めた。

 歯科診療は、歯科衛生士や技工士との円滑なコミュニケーションが不可欠。患者やスタッフと意思疎通をどう図るか。今年3月までの1年間の臨床研修課程では、タブレットの音声表示機能やAI合成音声の機能などを使って診療の「見える化」と「聞こえる化」に注力した。先輩や同僚がさまざまなアイデアを寄せてくれたという。

 現在、「うがいをしてください」「どこが痛いですか」「カチカチしてください」「途中で痛かったら手を挙げてください」など7項目87の定型文を登録。スマホをタッチすると音声が復唱され、周りのスタッフに伝わるようになった。また、診療内容をあえて文字化することが「より確実な意思疎通になる」として、今後の治療方針などはタブレットで文字を打ち、画面をみて理解してもらっている。

 患者の中には、耳が聞こえない人に加え、さまざまな理由でコミュニケーションを図るのが難しい人もいる。「そうした方々の不安を取りのぞき、寄り添える歯科医でありたい」と話す。

(山口正雄)

  ◇すぎの・りんたろう  1995年、東京都港区生まれ。松本歯科大に入学し、2024年3月に歯科医師国家試験に合格した。趣味は、ドライブやグルメ巡り、読書。上高地や蓼科、軽井沢などによく出かける。教員や友人に支えられて大学6年間を乗り越えられたのが、「今の自信と誇りになっています」と話す。


リンク先は讀賣新聞オンラインというサイトの記事になります。


 

Back to blog

Leave a comment