樋口ミユ・森川理文・山崎皓司の視点で語る、PLAT発!市民と創造する演劇「赤鬼」舞台手話通訳付きバージョン - ステージナタリー 特集・インタビュー

樋口ミユ・森川理文・山崎皓司の視点で語る、PLAT発!市民と創造する演劇「赤鬼」舞台手話通訳付きバージョン - ステージナタリー 特集・インタビュー

静岡舞台芸術センター(SPAC)の山崎皓司、市民キャストの森川理文、舞台手話通訳付き公演を手がけた、Plant Mの樋口ミユ

愛知県の穂の国とよはし芸術劇場PLATが2014年にスタートさせた「市民と創造する演劇」は、公募で集められた市民キャストが、プロの劇作家や演出家たちと作品を立ち上げる、同劇場の人気企画だ。今回は野田秀樹の人気作「赤鬼」を、舞台手話通訳付きで上演する。演出は、同劇場で「凛然グッドバイ」や、9月に再演が決定した「楽屋-流れ去るものはやがてなつかしき-」でも舞台手話通訳付き公演を手がけた、Plant Mの樋口ミユが担当する。

ステージナタリーでは1月中旬、穂の国とよはし芸術劇場PLATで稽古中の樋口と、演出補助を務め出演もする快快 / 静岡舞台芸術センター(SPAC)の山崎皓司、市民キャストの森川理文による座談会を実施。さらに稽古場レポートや本作に参加する舞台手話通訳者たちのメッセージを紹介する。

取材・文 / 熊井玲写真提供 / 穂の国とよはし芸術劇場PLAT撮影 / 伊藤華織


樋口ミユ×森川理文×山崎皓司が語る、市民と創造する演劇「赤鬼」


“ただの市民ではない”と感じたワークショップ&ショーイング

──本公演に先立ち、昨年2月に樋口さんの演出で、公募で集められたキャストによるワークショップ&ショーイング「赤鬼」が上演されました。まずはそのお話から伺わせてください。

樋口ミユ 舞台手話通訳付き公演をいずれやる、ということはその時点ですでに決まってはいたのですが、昨年2月の時点ではそのことは意識せず、できるだけ舞台装置も何もない状態でいかにクリエーションできるかに集中して取り組みました。10日間ぐらいのワークショップを経てショーイング(発表会)を行ったのですが、“皆さん、ただの市民ではないな”と(笑)。私は、相手に合わせてやり方を使い分けるほど技術がないので、市民の人たち相手だからといって特別な意識はなく、いつも通り一生懸命やりました。

樋口ミユ

樋口ミユ

──「赤鬼」は樋口さんから出てきたアイデアですか?

樋口 いえ、PLAT職員で公演担当の吉川さんの案です。「赤鬼」って私が二十代のころ人気があり、よくやられていましたが大変そうな印象で、私は自分で戯曲も書くので、これまでやろうと思ったことはありませんでした。なので、吉川さんの提案をフラットに受け止めましたね。そもそも私は、自分以外の人に言われて初めて考えることが多いので、今回も企画の始まりからすごく演劇的だなと思っています。


──森川さんは「市民と創造する演劇」シリーズにたびたび出演されています。

森川理文 はい。僕は失語症のリハビリの一環として参加していて(編集注:森川は俳優として活動していた二十代に脳梗塞を発症した)、最初は全然しゃべれなかったんですけど、舞台をやった分だけ年々しゃべれるようになれるのが面白いなと。今回はナレーションも兼ねるような役なのですが、台本を持ちながら稽古していても、パッと言葉が出てこないときがあります。でもこれまでやったらやっただけできるようになりましたし、今回も大変ではありますが、楽しみができてうれしいです。

森川理文

森川理文


──ワークショップ&ショーイング「赤鬼」には森川さんも出演されました。お二人はどんな手応えを感じましたか?

樋口 手応えというより、驚きですね。“10日間でも作れるんだ”っていう(笑)。なので、参加者の方たちのすごさを感じました。

森川 (笑)。「これをやったらこれ、これをやったらこれ」と毎日どんどん稽古が進んで、でも次の日になると「変える!」とおっしゃって(笑)。

樋口 そうでした(笑)。だって、1個できると次の可能性が見えるから、チャレンジしたくなっちゃうんです。でも、皆さん恐ろしいことにすぐ吸収するんです!

一同 あははは!


──「市民と創造する演劇」には、毎回演出補助という形でプロの俳優が1・2名参加します。今回、快快 / SPACの山崎皓司さんが出演されることになったのは?

樋口 PLATの吉川さんはマッチングの天才で、「こういう人とこういう人を引き合わせたら面白い化学反応が起きるんじゃないか」というセンスがあり、全面的に信頼していて、山崎さんのことも吉川さんが提案してくださいました。山崎さん、すごく誠実な方で。

山崎皓司 はい。

樋口 (笑)。打ち合わせの際に「演出補助ってどんな役割でしょうか」と尋ねられたので、吉川さんが「市民キャストの方とスムーズなやり取りをする円滑油となって、市民キャストの方が困っていないかなど、気にしてもらえたら」と返答されました。そうしたら山崎さん、本当に誰よりも市民キャストに目を向けてくださって、細かなところに気づいてくださったり、年配の出演者に積極的に声をかけてくださったり、稽古場の居方がとても丁寧なんです。

山崎 (恐縮しながら)いえ、稽古場で一番自分がたどたどしくてお恥ずかしいなと思っています。僕は市民劇に関わるのが今回初めてだし、「赤鬼」自体もよく知らなかったので、何もわからないまま参加しました。でも初日から皆さんちゃんとセリフが入っていて、やる気ってすごいなあと思いました。


作品や役の奥にあるものを探っていく


──森川さんは周囲から“足りない”と言われているとんび役、山崎さんは浜に打ち上げられた異邦人の赤鬼役を演じます。作品やご自身の役について今、どのように捉えていらっしゃいますか?

森川 作品の内容は難しいなと思うところがあり、「皆さん、どういう視点から『この作品が良い』と言っているのかな」と考えていて……。もちろん、“差別はいけない、戦争はいけない”といった表層的なことはすぐわかるんだけれども、「赤鬼」にはほかにも“人間を食べる”という問題もあり、それらのテーマが頭の中でどうしても一緒にならないんですよね。ただ、絵本や童話にも実は残酷なものがありますが、子供に話すときは話し方や考え方を変えたりするように、「赤鬼」という作品に向き合いながら新しい発見をしていけたらなと思っています。

山崎 僕はこれまでの舞台、ずっと“自分”で立ってきたので、演技というものに苦手意識があり、役名が付くとそれだけでキュッとしてしまう。かつ、赤鬼は台本上「この世にない国の言葉を喋る」と書かれていて、日本語で話している俳優さんたちの中で、自分だけ違う言葉を話す点もハードルが高い。稽古では今、言いたい内容をとりあえず英訳し、それを崩す感じでしゃべっていますが、後半はしっかり英語でセリフが書かれている箇所もあり、どう整合性を取っていくかはまだわからないなと思っています。

山崎皓司

山崎皓司


──市民キャストの中で唯一のプロ俳優である山崎さんは、立場的にもほかのキャストと異なりますね。

山崎 そうですね、プロって何かと考えてしまいますが……。ただ赤鬼のセリフの中に「I have a dream.」ってセリフがあり、そのセリフを見たときに、僕が東京を離れて掛川に帰ってきたときのことを思い出しました。当時僕は「このままじゃ世界はダメだ。環境的にも自分の子供世代は楽しく生きていけないんじゃないか」という思いがあり、「そのためには世界が平和にならないといけない」と、すごく大きなことを考えていたんです。そして2019年に掛川に拠点を移して、世界平和を目指して農業や狩猟を始めました。でもこれまで活動してきて実際は自分の足元がぐらついていて、自分の生活も身の周りの人との関係も成り立たなくなっていることに気づき、「自分がやっていることで本当に世界は変わるんだろうか」と疑うようになりました。帰ってきた当初は「あの人、金髪で平日は家にいて無職だよ」「子供を畑に呼び込んでるよ」って、けっこう不審者扱いされたりもしたんですけど……。

樋口 わ、赤鬼だね(笑)。

山崎 はい。で、こちらも逆にサービスとして、顔を赤く塗って「赤鬼ですよ、畑においでよ」とやってみたら、逆に「ああ、俳優だったのね」って安心してもらえるようになりました。でも最近、「たとえば自分が舞台上で夢物語のようなことを語ることで救われる人がいるなら、それも1つの世界の変え方なんじゃないか」と思うようになって。「演劇をやる意味がある」と自分も感じられるような何かを、「赤鬼」でも考えたいと思っています。


──稽古は1月と2月の2段階で行われます。1月の第1次稽古で、樋口さんはどんな手応えを感じましたか?

樋口 第1次稽古は、音楽協力の棚川さんがいてくれはる間に全体を作らねばという思いがあって、頭から終わりまで動線と動きのダイナミズムがどうなるかを中心に作っていきました。なので、各登場人物の中身や作品の核心に関しては第2次稽古で詰めていく予定です。

「赤鬼」は赤鬼とあの女、その兄とんび、水銀の4人を中心としたお話で、その後、さまざまなバージョンが生まれる中で、浜の人たちが出てくるバージョンが誕生したのですが、実は私、“浜の人”がすごく重要だなと思っていて。必死に生きている彼らは「安心して暮らしたい」という思いを持っているんだけれども、そこに赤鬼という不安要素がぽっと放り込まれて、善良な人たちが狂気じみていく。「赤鬼」のもう1つの側面は、この集団性だと思っています。1人ひとりは何も悪くないんだけれど、何か起きたときに「あの女が悪い」という風に考えてしまって、人は鬼と化していく。集団にはその怖さがあると思うので、軸となる4人はもちろんすごく重要ですが、4人をさらに重要な存在と位置付けるには、浜の人たちをただの群衆としてではなく、1人ひとり大切に考えたいなと思っています。

左から山崎皓司、森川理文、樋口ミユ。

左から山崎皓司、森川理文、樋口ミユ。


──稽古を見学し、市民キャストの方々が演じる“浜の人たち”は、年齢も体格もバラバラで、非常に説得力があるなと思いました。

樋口 本当にそうですね。市民キャストの方たちは17歳から73歳まで年齢の幅があり、演劇ばかりしている鍛えられた俳優の身体では掴めない、ある意味社会の中で形成された“生活する人たち”の身体を持っています。クリエーションする側としては「あなたたちはもう役作りが終わっています。そのままいてくれれば、その役は大丈夫です!」と感じますし、浜の人たちの間から山崎さんがすっと立ち上がったときに、「あ、赤鬼!」と伝わってくるものがあります。


「市民と創造する演劇」シリーズは新たなステップに


──市民キャストの方には、「市民と創造する演劇」や「高校生と創る演劇」(編集注:2014年から東三河地域を中心とする高校生とプロの演出家・スタッフが一緒に舞台芸術を創造し上演する企画)など、PLATの事業を通して舞台を経験した方が多数いらっしゃいます。山崎さんは一緒に稽古する中で、どんなことを感じていますか?

山崎 とにかく吸収力がすごいなと思います。あの女役の伴(美月)ちゃんが一生懸命セリフを言ってる姿を見ると「なんて素直なんだろう」とグッときますし、ほかの方たちも「やりたい」気持ちで全力で演じている姿が本当に素敵だなと感じます。また水銀役の(北野)黎くんは、ズバッとセリフを言うので「演劇部出身なのかな?」と思ったら、実はPLATで2回舞台を経験しただけだと聞いて驚きました。

樋口 昨年2月のワークショップ&ショーイングのとき、黎くんは「いきなりこんな大きな役をもらってしまって大丈夫だろうか」と戸惑っていたけれど、この1年で、いい意味で自分に自信がついてきましたね。

山崎 皆さん、年齢に関係なくこの作品に対して一生懸命取り組んでいるのはすごいし、僕としてはいいタイミングでこの作品に関われて良かったです。

山崎皓司

山崎皓司


──森川さんはこれまで「市民と創造する演劇」シリーズにたびたび出演されていますが、市民キャストのお一人として、このシリーズの魅力をどう感じていらっしゃいますか?

森川 最初はわからなかったんですけど、「市民と創造する演劇」シリーズにはプロの作家や演出家が関わっているので、市民劇と言いつつ、ここまでハードルが高いものはなかなかないんじゃないかなと。新しいことをやっていると感じますし、長く続くと劇団のような感じもあって、ますます気持ちが良い場所になっています。

話は少し変わりますが、僕は鍼灸師で、職場にはさまざまな障がいのある人が働いています。特に多いのは目が見えない人で、スタッフ間で患者さんの症状を共有するときに、僕はパッと言われるとわからないので文字で書いてもらって理解するんだけれども、目が見えない人はそれではわかりません。また心の障がいがあるスタッフもいるので、「今日はちょっと出勤が難しいから仕事を休みたい」ということがあり、スタッフ間でそれに対応しています。

ただそういうことは普段の生活でも起こり得るわけで、本当はそれぞれに対応できるのが一番ですよね。その点でも、PLATが今、鑑賞サポートに力を入れているのは、すごくいい流れだなと思っています(編集注:PLATでは聴覚に障がいがある人のためのポータブル字幕機の貸し出しサービスや、視覚に障がいのある人のためのリアルタイム音声ガイド付き舞台説明会、託児サービスなどを積極的に行っている)。劇場の鑑賞サポートを通じて、お客さんも「あ、これが普通なんだな」という意識になっていくかもしれないし、今回舞台手話通訳付き公演に取り組むことで「市民と創造する演劇」シリーズも新しいステップに進むのではないかと思います。


──「市民と創造する演劇」シリーズについて、“劇団のような感じ”があるとおっしゃいましたが、参加者同士のネットワークのようなものはあるのでしょうか?

森川 うーん……あるような、ないような。特別「飲みに行こう!」というようなことはなく、年に1回の公演で顔を合わせて「お互い受かってよかったね、今年もお願いします」というくらいのベタベタしない関係です。でもそれはそれで楽しいなと思っています。

バナー「赤鬼」


複雑で難解な第3フェーズに入った、舞台手話通訳


──第1次稽古では、舞台手話通訳の方は見学だけでまだ一緒に動いたりはしませんでした。樋口さんの中で、舞台手話通訳付き公演に対し、普段との意識の違いはありますか?

樋口 何もないです。(舞台手話通訳が)見えやすい場所は、あらかじめ最初に確保しておいたほうがいい、ということはわかるようになりましたが、それ以外は特別変わりません。それに手話さんたちも、手話のために何かを変えてほしいとは思っていなくて、作られた舞台を自分たちが手話でどう伝えていくか、という考え方なので、私も手話さんのやりやすさを考えて演出を変えたりはせず、まずは自分たちが一生懸命作ったものを手話さんに見てもらって、それをろうの人たちにどう伝えるのが良いか、手話さんたちと一緒に考えていきたいと思っています。

それに舞台では、俳優たちは「こうしゃべってはいるけれども本心は違うところにある」といった表現をするので、手話もニュースのように全部を情報として直訳するわけではありません。そういう意味では、稽古の後半に手話通訳に関する時間がどんどん増えていくんじゃないかなと思います。ちなみに本作には3人の手話さんが出演しますが、手話さんも浜の人と同じ衣裳を着てもらう予定で、ラストの動きはキャストと一緒に手話さんにも動いてほしいという話をしています。ちょっと大変な動きになるかもしないので「無理そうだったら言ってください」とお話ししたら、「覚悟をして来てます」とおっしゃっていました(笑)。

樋口ミユ

樋口ミユ


──樋口さんはキャストやスタッフへの気遣いが細やかで、話し方も朗らかで柔らかな印象ですが、演出ではとても“攻め”の姿勢と言いますか、音楽も動きも盛りだくさんで、市民劇だからといって忖度しないところがカッコいいなと感じました。

樋口 いや、相手によって出すカードを変えるというような技術があればそうできるんですけど(笑)、私はストレートしか投げられない……それだけです。


──近年、アクセシビリティを謳う公演が増えていますが、樋口さんの舞台手話通訳付き公演では舞台手話通訳者をキャストの1人、舞台手話通訳をクリエーションの一部として取り込んでいるところが特徴的です。舞台手話通訳付き公演に樋口さんが何度も取り組まれてきたのは、どのような思いからなのでしょうか。

樋口 私が舞台手話通訳を初めて知ったのは、2020年にPLATで開かれたTA-netさんのシンポジウム(参照:シンポジウム「みんなでいっしょに舞台演劇を楽しむためには~『舞台手話通訳』など日本の現状から~」|穂の国とよはし芸術劇場プラット)で、吉川さんに「見に来ませんか」と誘っていただき、参加しました。それまで、手話は知ってはいるけれども全然詳しくなかったので、TA-netのシンポジウムで「舞台手話通訳というものがある」と映像で見せてもらい、「手話って言語なんだ!」と思ったんです。だから私は決してホスピタリティの思いからではなく、演劇の表現の1つとして舞台手話通訳に興味を持ちました。

その後、PLATで初めての舞台手話通訳付きリーディング公演の演出を頼まれて(2021年上演の舞台手話通訳付きリーディング公演「凛然グッドバイ」)、今回もご一緒する舞台手話通訳の加藤真紀子さん、高田美香さん、水野里香さん、そして手話監修の河合依子さんとそのとき初めてお会いし、その後、河合さんの劇団、岐阜ろう劇団いぶきの演出を頼まれました(2023年に上演された「ソーマトロープ」)。いぶきのクリエーションではいぶきの劇団員のろう者のお二人と一緒に滞在生活をしたのですが、それがすごく不思議な体験で。手話が全部わかるわけじゃないのに、何も不自由がなかったんです。その体験をしてから感覚が変わり、やり方次第で舞台手話通訳は表現的にすごく広がるんじゃないか、演出家であるならその面白さに絶対に気づくはずだ、と思うようになりました。

これは舞台手話通訳者さんたちとも話したことなのですが……舞台手話通訳は今、新たなフェーズに入っているんじゃないかと。まずは舞台手話通訳というものがあることを多くの人が知り、舞台手話通訳があればろうの人も一緒に舞台を観ることができるというのが第1フェーズ。ただそれは数年前に終わっていて、舞台手話通訳を観た表現者たちが、「これは面白い」と思って自分たちの公演にも取り入れていくのが第2フェーズ。でも今はもう第3フェーズに入っていて、表現者が思う面白さと、ろう者への情報保障を両立させる、複雑で難しい段階に入っているんじゃないかなと。

なので、ドライかもしれませんが、私自身はあまり“思い”ではやっていなくて、芸術性も保ちつつ情報保障も担保しながら、両方を楽しめる舞台をろう者に届けなければならないという、ある種のミッションに近い感覚で取り組んでいます。


一生懸命に生きている人たちの演劇を、観てほしい


──樋口さんのパワフルなお話しぶりに、背中を押されるような感じを受けます。演出家としての樋口さんに、お二人はどんな印象をお持ちですか?

山崎 内容に関する稽古はこれからなので、まだわからない部分はありますが、話の端々から、僕が今興味があるようなことを演出してくださる人なんだろうなと感じます。きっと、とことん付き合ってくれる人なんじゃないかなと感じるので、すごく楽しみです。

森川 海のような方です。ニコニコとしていて穏やかで……でも実は厳しいところもあります(笑)。

森川理文

森川理文


一同 あははは!


──公演はたった3回。ぜひ多くの方に、豊橋を訪れてほしいですね。

森川 3回公演で3回とも違う解釈、違う楽しみ方ができると思います。舞台手話通訳付き公演としての工夫のほか、視覚に障がいのあるお客様のための舞台説明会などもあるので、誰でも安心して観られると思います。

山崎 チケット料金が2000円と安く、市民劇だからと言ってクオリティが下がるというわけでもなく、ちゃんと生きている人たちの喜びがここにはあるし、この人たちが舞台に立っている姿にはきっと観る価値があると思います。舞台手話通訳に関しては、稽古がこれからなのでまだわからないところがありますが、舞台手話通訳者の方々が稽古を観ながらどう表現するか、真剣に頭を悩ませて考えてくださっているので、僕も期待しています。

樋口 普段の活動では、“演劇アラウンド”に悩まされている人が多いなと感じることが多くあって。たとえば「自分は次、舞台に立てるんだろうか」とか「この年齢になったけれど続けていいんだろうか」「演劇で食っていけるのだだろうか」など、クリエーションそのものにあまり関係がない“演劇アラウンド”に疲弊した人が多いなと感じるのですが、そういう人たちにとって、クリエーションそのものをひたすらやる市民キャストの姿は、やっぱりズドンとくるんじゃないかなと思います。そしてもりもり(森川)さんが言ったように、彼らはベタベタしないんですよ、だって彼らにはやるべき生活があるから。そんな、生きることに一生懸命な人たちが、その一生懸命さを作品に傾けているので、ものすごく純度が高いクリエーションの場になっているのは間違いありません。

今回市民劇に関わってわかったことは、一生懸命に生きている人は一生懸命に演劇ができるんだということ。豊橋の方は、PLATの「市民と創造する演劇」シリーズがどういうものか知っている方も多いと思いますし、このシリーズを楽しみに観に来てくれる人もいはると思いますが、その範囲から外れる人たち、つまり大阪とか東京など、豊橋から遠い方は、チケット代に交通費をプラスしてぜひ豊橋に来てください。来た甲斐はきっとある、と思います。

左から山崎皓司、森川理文、樋口ミユ。

左から山崎皓司、森川理文、樋口ミユ。



プロフィール

樋口ミユ(ヒグチミユ)


1975年、京都府生まれ。劇団Ugly ducklingを経て、2012年にPlant Mを旗揚げ。現在は大阪を拠点に必要なところに赴いて活動。1999年、2000年にOMS戯曲賞を受賞している。

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森川理文(モリカワマサフミ)

1972年、愛知県生まれ。1998年より劇団花組芝居に参加し、「怪誕身毒丸」「かぶき座の怪人」「婦系図」などの舞台に出演。2001年に脳梗塞を発症。失語症を経て、穂の国とよはし芸術劇場PLAT「市民と創造する演劇」シリーズへの参加を開始。以降、市民と共に創作を重ねながら活動している。

花組芝居 公式サイト
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山崎皓司(ヤマザキコウジ)

1982年、静岡県生まれ。快快、静岡県舞台芸術センター(SPAC)所属、山崎パラダイス代表。多田淳之介、杉原邦生、上田久美子らの演出作品に俳優として出演。また2019年から狩猟、農業、養蜂なども行っている。

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「赤鬼」稽古場レポート


ステージナタリーでは、1月中旬、第1次稽古の様子を取材した。その日はアンサンブル以外の市民キャストと山崎が参加し、作品の全体の流れを追っていく形で稽古が行われた。

アクティングエリアの床には、大きな白い円がテープで作られ、舞台の上手下手の奥には楽器が置かれている。舞台美術の模型によると、その真ん中の円は手動の“盆”舞台になるそうで、樋口とキャストはその盆を脳内でイメージしながら動線をつけていった。

市民と創造する演劇「赤鬼」舞台手話通訳付きバージョンの稽古の様子。市民と創造する演劇「赤鬼」舞台手話通訳付きバージョンの稽古の様子。

浜の人たちを演じるのは性別も年齢も体格もさまざまな10名の市民キャストたち。全員、両端に白い骨がついた紐を首から下げて、それを何かの道具に見立てたり、打ち鳴らしたりしながら役に徹した。

その日の稽古の前半は、音楽協力の棚川寛子、振付の武田幹也、演出助手の山田朋佳が中心となってシーンの大きな流れを作っていった。身体の芯に響く、シーンのイメージを膨らませるような棚川の楽曲、身振りと言葉を織り交ぜた武田の振りによって、浜の人たちの姿がセリフに描かれた以上の輪郭を持って立ち上がってくる。そこに、本作の語り部でもあるとんび(森川)、凛とした声で自分の思いを貫くあの女(伴)の兄妹と、島の人たちと反りが合わない水銀(北野)が姿を表す。変わり映えしない、そしてちょっとうんざりする日々を過ごす3人と浜の人たちの日常は、赤鬼(山崎)との遭遇によって一変し……。

市民と創造する演劇「赤鬼」舞台手話通訳付きバージョンの稽古の様子。市民と創造する演劇「赤鬼」舞台手話通訳付きバージョンの稽古の様子。市民と創造する演劇「赤鬼」舞台手話通訳付きバージョンの稽古の様子。市民と創造する演劇「赤鬼」舞台手話通訳付きバージョンの稽古の様子。

稽古の中盤まであまり言葉を発しなかった樋口だが、少しまとまったシーンが終わると、キャストの側まで行き、その人の目線の高さに合わせた姿勢で動きやタイミングについて細かなイメージを伝えていった。また時折、「手話さんに、そこに立ってもらおうと思っています」と明確な場所を指示したり、稽古を見学していた手話通訳の高田に「ここは浜を感じさせる音が入ると思うので、ビーチということがわかるようにしたいです」と伝えたりと、舞台手話通訳付き公演ならではの“楔”を作品に打ち込んでいった。

一方、高田はじっと稽古を見つめていたが、動きや音、セリフが絡み合うシーンでは「これはどうする……?」と小さく呟いて、台本にメモを書き込んだり、俳優のセリフに合わせてその場で手を動かしたりと手話のイメージを膨らませていた。

市民と創造する演劇「赤鬼」舞台手話通訳付きバージョンの稽古の様子。市民と創造する演劇「赤鬼」舞台手話通訳付きバージョンの稽古の様子。

印象的だったのは、演出助手の山田がシーンの説明を始めようとしたときのこと。ちょうど同じタイミングで、キャスト2人がある動きの確認でやり取りを始めたところ、山田と樋口は2人の話を遮らず、2人が話し終わるのを待って説明を始めた。また、浜の人たちが一斉に動くシーンでは、全員に同じ動きを求めるのではなく、それぞれのキャストが自分でできる動きを決めるまで、樋口は細やかに声をかけ続けた。稽古の時間は限られているけれど、ゆったりとした時間が流れているように感じたのは、樋口をはじめクリエーターたちが作り出す、心地よさにあるのだろう。

その日の稽古終わりには、衣裳デザインの発表もあり、帰り支度をしながらデザイン画の前に集まったキャストは「赤鬼の衣裳が素敵だね!」「○○さんと私の衣裳はちょっと似ているね」など、楽しげに語り合っていた。

市民と創造する演劇「赤鬼」舞台手話通訳付きバージョンの稽古の様子。市民と創造する演劇「赤鬼」舞台手話通訳付きバージョンの稽古の様子。市民と創造する演劇「赤鬼」舞台手話通訳付きバージョンの稽古の様子。市民と創造する演劇「赤鬼」舞台手話通訳付きバージョンの稽古の様子。



舞台手話通訳者が語る、市民と創造する演劇「赤鬼」


ここでは、舞台手話通訳や本作への思いについて、本公演に参加する舞台手話者の加藤真紀子、高田美香、水野里香の3人にそれぞれの思いを聞いた。

──舞台手話通訳とはどのようなものか、教えてください。

舞台手話通訳は、舞台作品のセリフ・音楽・効果音などの音情報を手話で伝えます。一般的な手話通訳とは異なり、稽古段階から参加し、台本の意図や俳優の感情などを理解した上で手話への翻訳を行なっています。セリフをただ聞いて伝えるのではなく、俳優のテンポ・感情・表情・身体の動き、聞こえる音や音楽の意味など、そして何より作品の世界観を意識して伝えていきます。通訳の立ち位置は、舞台の端や舞台上の固定位置など、作品によってさまざまです。今回の「赤鬼」では常に舞台上に立ち、演出により時に出演者と共に動きながら通訳していきます。(高田)

──舞台手話通訳者から見て、「赤鬼」の難しさ、面白さはどんなところにありますか?

「赤鬼」は他の作品以上に難しさと面白さが表裏一体にある作品だと受け止めています。どの作品にもその一面はありますが、例えば「赤鬼」はメインキャストからアンサンブルまで出演者が大勢います。セリフも1人、数人、大勢とさまざまなパターンがあり、その空気感をどう活かすかの工夫が必要です。またムーブメントと呼ばれる動きが多くある作品のため、「動きに集中してほしいところ」を丁寧に決めていくことで、より作品の世界を届けられると感じています。そして今回は「音楽」「音」も作品の世界を創り上げる大切な要素になっています。音の世界をどう届けるのか。音が鳴っていることを伝えるのではなく、何をどう伝えていくのかが楽しみでもあり、今の段階では大きな課題です。(加藤)

──初めて舞台手話通訳付きの公演をご覧になる全ての方に向けて、メッセージをお願いします。

「舞台手話通訳付きバージョン」と聞いて、どのような作品を想像されるでしょうか。
初めて舞台手話通訳付きの公演を観劇されると言っても、生まれて初めて劇場へ足を運ぶ方、舞台手話通訳に興味を持って来てくださる方、観劇経験はあっても舞台手話通訳を初めて知った方と、きっといろいろな背景の方が同じ時間を過ごすことと思います。聴覚に障がいがある方へ作品を届ける情報保障としての役割が基本ではありますが、私たち舞台手話の3名は一つのツールではなく、私たちも作品の一部として存在しています。観劇の面白さを知るきっかけや舞台手話通訳が付くことで観劇できる人がいることを知って欲しいと思いますし、多くの方が一緒に作品の世界を味わい、感想を分かち合える機会になるとうれしいです。(水野)



市民と創造する演劇「赤鬼」舞台手話通訳付きバージョン

市民と創造する演劇「赤鬼」舞台手話通訳付きバージョン

2026年3月7日(土)・8日(日)
愛知県 穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペース

公式サイト

作:野田秀樹
脚色・演出:樋口ミユ
振付:武田幹也
音楽協力:棚川寛子
舞台手話:加藤真紀子、高田美香、水野里香
手話監修:河合依子
出演:石川明弘、磯和真帆、板坂重信、今泉伸之介、北野黎、近藤樺楊、佐藤伸夫、白井小百合、鈴木俊介、鈴木宏彰、棚橋佑衣、塚原知世、土倉真衣、伴美月、藤井佳子、古田英、古田久子、堀健太、森川理文、山田梨央 / 山崎皓司

市民と創造する演劇「赤鬼」舞台手話通訳付きバージョン 公演情報


リンク先はステージナタリーというサイトの記事になります。


 

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