“自分の言葉で”つながり合える社会の実現に向けて――デフリンピックでも活用された「SureTalk」の舞台裏でCTCが果たした役割

“自分の言葉で”つながり合える社会の実現に向けて――デフリンピックでも活用された「SureTalk」の舞台裏でCTCが果たした役割

掲載日 2026/01/06 10:00
著者:瀬戸義章

2025年秋、東京で初開催されたデフリンピック。デフ(耳の聞こえない・聞こえにくい)アスリートが世界中から集った祭典の舞台裏で、あるコミュニケーションツールが選手達を支えていた。ソフトバンクが開発・提供するAI手話・音声対話ツール「SureTalk(シュアトーク)」である。

聴覚障がい者と健聴者の「母語」である手話言語と音声言語をそれぞれテキスト化することで、双方向性のあるコミュニケーションを実現するSureTalk。その開発の裏側には、ソフトバンクの「情報革命で人々を幸せに」への想いと、それに共鳴し、技術と技(わざ)で支援を続けるパートナー、伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)の存在があった。

(写真)第25回夏季デフリンピック競技大会 東京2025の会場内に設置されていたSureTalkの体験ブース

第25回夏季デフリンピック競技大会 東京2025の会場内に設置されていたSureTalkの体験ブース


「会議中の“孤独”をなくしたい」一人の社員の配属から誕生したSureTalk

2013年、社内の技術管理本部に所属していた田中敬之氏(現・ソフトバンク株式会社 プロダクト技術本部 技術企画開発統括部 事業企画管理部 SureTalk課 課長)のチームに、聴覚障がいを持つ社員が配属された。ともに働く中で、田中氏は彼らが直面する「孤独」に気づいたという。

「1対1であれば、チャットや筆談で十分にコミュニケーションすることができます。問題は、複数人の会議でした。音声で飛び交う議論のスピードに追いつけず、取り残されてしまうのです」(田中氏)

(写真)ソフトバンク株式会社 プロダクト技術本部 技術企画開発統括部 事業企画管理部 SureTalk課 課長 田中 敬之氏

ソフトバンク株式会社 プロダクト技術本部 技術企画開発統括部 事業企画管理部 SureTalk課 課長 田中 敬之氏


文字起こしや要約筆記といった支援はある。だが、それはあくまで一方的な情報保障に過ぎない。会議に参加し、自身の意思をリアルタイムに伝えることは難しかった。耳の聞こえる側としても、本当に意図が伝わっているのか、合意して大丈夫なのか、もどかしい。「なんとかしてコミュニケーションの壁を取り払い、双方向に、リアルタイムに対話ができる仕組みを作れないだろうか……」そんな思いがSureTalkの開発につながったという。

田中氏が SureTalk の着想を得たのは、身近な課題を解決するためだった。自部署で聴覚障がいのある社員と円滑に意思を伝え合える環境へと変えるべく、田中氏は「コミュニケーションバリアフリー」を掲げて、社内提案制度に応募。その提案は、多くの賛同を得ることとなった。

その後事業化の検討が進む中で、ソフトバンクが掲げる「情報革命で人々を幸せに」という理念とも合致し、2019年に SureTalk は正式に開発承認されるまでに至った。


ITでお客様とともに「世界をGOODに」したい


SureTalkは当初、クラウド環境での開発が進められていた。しかし2021年、アプリのリリースや公的な実証実験を実施するフェーズで、プロジェクトは大きな技術的転換を迫られることになる。それは「クラウドからオンプレミスへの移行」だ。

近年、多くのサービスがクラウドで提供されているなかで、なぜオンプレミスなのだろうか?その背景には、ソフトバンクが通信事業者として遵守している厳格な規定があった。

同社にとって、顧客の会話データに関わる「通信の秘密の保護」は、絶対に守るべき義務である。SureTalkが扱う手話動画や音声データは、極めてプライベートな通信内容だ。会社として、最高レベルのセキュリティとガバナンスを担保しなければならない。そのため、クラウドではなく、完全に自社の管理下にあるオンプレミス環境で構築することが必須条件とされたのである。

しかし、インフラ移行は容易ではない。商用サービス化のために必要な手続きへの対応、複雑な移行手順、高い安定性。それまで海底ケーブルをはじめとする物理ネットワークを専門に扱ってきた田中氏にとって、これは専門外の領域であり、技術的なハードルとなっていた。

このミッションを完遂するためのパートナーとして、選ばれたのがCTCだった。

「決め手になったのは『安心感』です。単にインフラを構築するだけでなく、通信キャリア特有の移行ルールや、踏むべき段取りを熟知していて、『どこから手を付けるべきか』というロードマップまで整理して提案してくれました。私自身は海底ケーブルの敷設といった物理レイヤーが専門で、IPネットワークの設計・運用には不慣れでしたから、とても頼もしく感じました」(田中氏)

(写真)Sure Talkを使用する様子。AIが手話の動きをカメラで読み取り、日本語テキストに変換し、音声も文字にして手話ユーザーと音声ユーザーの会話をつなぐ仕組み。

SureTalkを使用する様子。AIが手話の動きをカメラで読み取り、日本語テキストに変換し、音声も文字にして手話ユーザーと音声ユーザーの会話をつなぐ仕組み。


(画像)Sure Talkのトークルームイメージ

SureTalkのトークルームイメージ


その後、1年半という短期間で、クラウドからオンプレミスへの移行は無事に完了した。しかし、CTCの支援は、単なる土台作りに留まらなかった。「手話認識精度」の向上という、SureTalkの核にも関わっていく。

SureTalkは、手話の動作をAIが認識・解析し、テキスト化している。その精度を高めるには、大量の「教師データ(手話の動きと正しい言葉を結びつけた動画)」が必要となる。ここでCTCは、単なるシステムインテグレーターの枠を超えた行動に出た。まず、国立大学法人電気通信大学ら4大学とソフトバンクが設立した「一般社団法人 手話言語等の多文化共生社会協議会(SiLa)」に、正会員IIとして加盟。そして、CTC社内で「手話講座」を開催したのだ。

「教師データとしての動画を集めるのは、非常に骨の折れる作業です。CTCさんは30名もの社員が手話を学び、時間を割いて動画の撮影に協力してくれました」(田中氏)

CTCの社員たちは、SureTalkと関わる中で「少しでも力になれれば」「サービスがより使いやすくなるなら」という思いを胸に、この取り組みに参加していた。 BtoBビジネスを推進する彼らにとって、こうした活動は普段接する機会の少ない聴覚障がい者への理解を深める貴重な経験でもあった。

社会課題を解決したいという熱意に共感し、同じ目的に向かって挑戦する。地道な努力の積み重ねが、SureTalkのさらなる成長を下支えしたのである。


「誰もが自分の言葉でつながり合える社会」を目指す


SureTalkには、開発当初からの大きな目標があった。デフリンピック東京大会での活用だ。しかし、ここにも「言葉の壁」が存在した。手話は世界共通ではなく、国や地域によって何百種類もの違いがある。世界中のアスリートを迎えるためには、日本手話だけでなく、「国際手話」や「アメリカ手話(ASL)」への対応が不可欠だった。

CTCはこの機能開発においても役割を果たした。インフラの安定稼働を支えつつ、新たな言語モデルを追加するためのシステム改修を支援。開幕までの限られた期間で、実装まで漕ぎ着けることができた。

迎えたデフリンピック本番。SureTalkは宿泊施設のフロントに設置され、世界中のアスリートとスタッフを繋ぐ架け橋となった。

「ホテルの方から『会話ができてよかった』という声を頂いた時は、本当に嬉しかったですね。もちろん、手話は個人差がとても大きいため、認識精度にはまだまだ課題もあります。しかし、デフリンピックという国際的な舞台でお披露目できたことは、とても大きな一歩です」(田中氏)

(写真)第25回夏季デフリンピック競技大会 東京2025

第25回夏季デフリンピック競技大会 東京2025


現在、SureTalkは、東京都豊島区や福岡県庁、神奈川県藤沢市といった自治体の窓口をはじめ、Sila協議会加盟の会員企業やソフトバンクショップ渋谷などで実証実験中である。田中氏の語る「コミュニケーションバリアフリー」の世界が広がりつつあると同時に、さらなる品質向上に向けたデータの収集、つまりSureTalkの認識精度向上にも役立てられている。 

日頃関わりあう手話話者の力を借りながら、SureTalkがより使いやすいサービスとなるよう日々改善を重ねる企業姿勢が、企業や公共機関での導入を着実に後押ししているのだ。

そしてCTCは、インフラの保守運用に加え、さらなる機能拡張を継続して支援している。

SureTalkのようなサービス開発には、多くのプレイヤーが関わる。インフラを担当するCTCに加え、UI/UXデザインを手掛ける制作会社や、ソフトバンク社内の運用部門など、チームは多岐にわたる。

「複数のチームで開発を進める中で、CTCはインフラ担当の枠を超えた『調整役』として、非常に頼もしい存在です。視野が広く、自分の担当領域だけの『個別最適』ではなく、プロジェクト全体の『全体最適』の視点で、常に一番良い方法は何かを考えて動いてくれるのです。技術のプロフェッショナルでありながら、我々が気づかない視点も補ってくれます。これからも、パートナーとして期待しています」(田中氏)

かつて、視力が低い人に「眼鏡」というツールが革命をもたらし、やがてそれが日常の一部として当たり前になったように、テクノロジーには、身体的な制約による「壁」を取り除く力がある。SureTalkもまた、聴覚障がい者と健聴者の間にある言葉の壁を過去のものとし、生活に不便のないコミュニケーションインフラを目指している。

情報技術と、人の想い。その両輪で、誰もが自分の言葉でつながり合える社会をつくる。ソフトバンクとCTCの挑戦は、これからも続いていく。

(写真)田中氏が微笑んでいる様子


関連URL

SureTalk公式サイト
伊藤忠テクノソリューションズ公式サイト


[PR]提供:伊藤忠テクノソリューションズ


リンク先はTECH+というサイトの記事になります。


 

Back to blog

Leave a comment