2024年7月15日 6:00
稲庭篤
聞こえの悩みと補聴器、人工内耳をテーマにした市民公開講座「補聴器で会話がききとりにくい方へ」(京都大医学部付属病院耳鼻咽喉科・頭頸部(けいぶ)外科主催)が京都市で開かれ、研究者と専門医が耳の仕組みと難聴治療について解説した。
京大病院の山崎博司さん(病院講師・助教)は「難聴医療の最前線」と題して話した。
京大病院の研究者らが難聴と補聴器、人工内耳について解説した市民公開講座(京都市南区・京都テルサ)
聞こえのチェックシート(日本補聴器工業会)
難聴は高齢者だけの問題ではない。乳幼児の難聴は言葉の発達に影響する。働き盛りの世代でも、40歳より前に発症して進行する難病「若年発症型両側性感音難聴」が問題になっており、全ての世代に関わる。山崎さんは日本補聴器工業会「聞こえのチェックシート」を示し、該当する人に受診を勧めた。
難聴には、音を集めて大きくする外耳・中耳のトラブル「伝音難聴」と、音を感じる内耳の「感音難聴」の二つがある。伝音難聴は補聴器で音を大きくするとよく聞こえるようになるが、感音難聴は音が小さくなるだけでなく、ひずんでくる。症状が進行すると補聴器を使ってもひずみは解消せず、よく聞こえない。「人工内耳が聞こえを取り戻す唯一の方法」という。
人工内耳は、体外装置(サウンドプロセッサー)と体内装置(インプラント)で、電気的に聞こえの神経を刺激する。手術ができる施設が増え、これまでに国内で1万人以上が人工内耳を装着している。装用者の満足度は高く、「音が聞こえることで何事にも前向きになれる」という。現在では生後10カ月ごろから90歳を超える高齢者への手術も行われている。
ただ、半年から1年の聞き取りのトレーニング(脳のリハビリ)が必要となる。「長年なじんだ聞こえは大事。今の補聴器の聞こえはできるだけ残す」といい、補聴器を使えば聞きやすい耳はそのままにして、反対の耳への装着をまず検討する。「80歳90歳でトレーニングを始めるのはなかなか難しい。新しいことにチャレンジしやすい年齢で」と、症状が悪化する前の、早めの手術を勧めた。
聞こえの改善について「一番大事なのは本人のモチベーション」とし、「孫と話をしたい」などの本人の意欲と家族のサポートの大切を強調した。
耳鼻咽喉科ひょうごクリニック(京都府左京区)の兵庫美砂子院長は「クリニックと病院でできる事」と題して話した。
「かとう」と「さとう」が判別しにくくなるなど、子音の聞き取りが難しくなるなどの難聴の症状を説明し、「きこえにくいと感じたら、まずクリニックに行きましょう」と話し、診療について説明した。耳あかを取ることで聞こえやすくなることもあり、クリニックで除去できる。急に聞こえなくなる急性中耳炎は治療は可能だが、徐々に聞こえにくくなって分かった難聴は、聞こえを取り戻すのが難しいことも多いという。
補聴器について、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会の「補聴器相談医」への相談を勧めた。クリニックの「補聴器外来」で行っている受診と補聴器店(認定補聴器専門店)の紹介までの手順を説明した。手術が必要な場合は病院を紹介しており、クリニックから紹介した京大病院での手術例を示した。
難聴は、周囲の家族が先に気づくケースがよくある。「家族の心配に耳を傾けてほしい」「補聴器のために聞こえが悪くなることはない」といい、補聴器の調整も「本人が来てほしい」とアドバイスした。ただ、補聴器も音の輪郭の改善などには限界がある。「ゆっくり、はっきり話す」「近づいて話す」など周囲の気遣いも大切で、「けんかも減ります」とした。
若者の「イヤホン難聴」など、聞こえのトラブルはあらゆる世代で生じる。「聞こえの相談ができる、かかりつけの先生が大事」と話した。
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