2025.07.24

(デザイン:松田愛乃)
一言で「めまい」といっても、症状や原因はさまざまです。なかには、命にかかわるような重篤な病気が原因でめまいが起こることもあります。しかし、そのような危険なめまいは、必ずしも多いわけではありません。めまいがしたときは落ち着いて症状を把握し、適切に対応しましょう。
(奈良県立医科大学 耳鼻咽喉・頭頸部外科 めまい・難聴センター 病院教授 西村忠己)
1. めまいの種類と特徴
めまいは病気の名称ではなく、症状を表す言葉です。また、一言でめまいといっても、さまざまな種類があります。一般的に、「めまい」といわれる症状には、次のようなものがあります。
(1)ぐるぐる回るめまい
周りの景色、天井がぐるぐる回ることを、「回転性めまい」といいます。寝ている状態から起き上がったときや、寝返りを打ったときに生じることもあれば、誘因なく突然ぐるぐると回ることもあります。
持続時間は病気により異なり、難聴や耳鳴りを伴うものもあります。良性発作性頭位めまい症、メニエール病や突発性難聴など、耳の病気が原因で生じることが多い症状です。
(2)ふわふわ・ふらふらするめまい
ふわふわした宙に浮いている感覚、歩くときにふらついてしまうなどの浮動性があることを「動揺性めまい」といいます。
脳の血流障害や自律神経失調、末梢神経障害、不安やストレスなどで生じることが多い症状ですが、耳の病気が原因のケースもあります。
(3)目の前が真っ暗になるめまい
立ち上がったときなど、何かの拍子に一瞬目の前が真っ暗になり、症状が強いとその場で倒れてしまうような「めまい」もあります。「立ちくらみ」ともいわれます。
脳の血流が一時的に低下することで生じやすいめまいですが、不整脈が原因のこともあります。転倒による外傷のリスクもあるため、繰り返すようであれば非常に危険です。
2.めまいの原因

めまいは、さまざまな原因で生じます。病気によって回り方、誘因、持続時間などが異なります。さらに、めまい以外にさまざまな随伴症状(ずいはんしょうじょう:何らかの症状・病気に伴って起こる症状)を伴うこともあります。
めまいの症状や随伴症状は、原因となる病気を診断するのに重要な要素です。以下に代表的なめまいの原因となる病気について紹介します。
(1)良性発作性頭位めまい症
めまいの原因のうち、最も頻度が高い病気といわれているのが「良性発作性頭位めまい症」です。重力や加速を感じる「耳石器」と呼ばれる器官にある石が剥がれ、三半規管の中などに入ってしまうことで生じるめまいです。頭を動かすことで石が移動するために、めまいが生じます。
ぐるぐると回る「回転性めまい」が生じますが、持続時間は短いです。同じような動作を行うことで、症状を繰り返します。
(2)メニエール病
メニエール病は、内耳のリンパが水膨れすること(内リンパ水腫)が原因で生じる病気です。内耳はバランスだけでなく聞こえとも関係するため、めまいだけでなく難聴も生じます。また、水腫の状態が良くなったり悪くなったりするので、めまいと難聴が生じる発作を繰り返します。
めまいを起こす病気として有名なため、めまいがあればメニエール病といった間違った診断が行われていることも多いです。
(3)突発性難聴
突発性難聴は、突然片方の耳が聞こえなくなる病気です。聞こえなくなるだけでなく、3~4割ぐらいの人はめまいも伴います。めまいが強いと、反対の耳が聞こえているので難聴に気づかないこともあります。
また、めまいが落ち着いて初めて聞こえていないことに気が付き、治療開始が遅れてしまうこともあります。急にめまいがしたときは、耳の聞こえに変化がないか、突然大きな耳鳴りがするようになっていないか注意してください。
(4)中枢性めまい(脳梗塞、脳出血)
中枢性めまいとは、バランスをコントロールしている脳に障害が起きたときに見られるめまいです。 脳の血管が詰まってしまう(脳梗塞)、あるいは破れてしまう(脳出血)ことで、さまざまな神経症状が出現します。めまいが生じることがありますが、通常めまいだけが単独で生じることはまれで、何らかの他の神経症状も出現します。
(5)起立性調節障害
起立性調節障害とは、起立時のような体位変動時に、めまいや動悸が生じる病気です。
急に立ち上がると血液は重力で足の方に集まり、脳の血流が低下してふらふらしたり、ひどいと目の前が真っ暗になったりします。正常であれば、自律神経の働きで脳の血流低下を防ぎます。
しかし、自律神経の働きが不安定な思春期や、貧血、血圧異常、動脈硬化、末梢神経障害があるとコントロールがうまくいかず、症状が出現します。
(6)熱中症
熱中症の初期症状として、ふらふらするめまいが出現することは多いです。温暖化による気温上昇の影響もあり、熱中症の発生頻度は増加しています。水分をしっかりと取り、体を冷やすなどの処置が必要で、重篤になると命にかかわります。
めまいの原因となる病気は、ここで示した以外にもたくさんあります。安易に自己診断することなく、病院できっちりと診断を受けるようにしてください。
3.めまいの原因に男女や年齢の違いはある?
良性発作性頭位めまい、貧血や自律神経失調が原因のめまいは、女性に生じやすい傾向にあります。また、中枢性のめまいや熱中症は高齢者に生じやすく、男女や年齢で起こりやすい病気に違いはあります。
しかし、それだけでめまいの原因となる病気を診断することはできません。診断するためには、病院を受診する必要があります。めまいの診断は耳鼻科で行われることが多いですが、次に示す危険なめまいを疑う随伴症状がみられるときは、脳神経内科を速やかに受診してください。
4.危険なめまいかも? 病院へ行くか迷ったときの判断ポイント
めまいがしたときに、最も心配なことは、命にかかわるような重篤な病気が原因でないかということです。すなわち、脳梗塞や脳出血などが原因の中枢性めまいかどうかを区別することが重要です。
中枢性めまいでは、通常めまい以外の随伴症状を伴うことが多いです。
【危険なめまいを見極めるチェックリスト】
・激しい頭痛がある
・物が2重に見える
・呂律(ろれつ)が回らない
・手や足に力が入らない
・手足の感覚が麻痺している
このような症状が一つでもあれば、中枢性のめまいの可能性が高いと考えられます。直ちに、脳神経内科を受診してください。めまいが生じたときは症状がなくても、徐々に上述した症状が出てくることもあるため、注意が必要です。
5.急にめまいが起きたときの対処法

めまいが起こると不安でパニックになることは誰でもよくあることです。しかし、慌てたり、無理をしたりすると、状況を悪くすることになります。落ち着いて適切な対応を取りましょう。
(1)転倒や事故を起こさないよう冷静に対処する
めまいが突然生じたときは、周囲のものにつかまったりしゃがんだりして転倒しないように注意しましょう。
もし運転中であれば、すぐに安全な場所に車を止めましょう。周囲に助けとなる人がいるようであれば、めまいが生じていることを告げて助けを求めてください。
(2)適度に水分を摂取する
安静にし、めまいが落ち着いてくるのを待ちましょう。可能であれば、適度に水分を摂取します。ただし、めまいでムカつきが強いと嘔吐(おうと)してしまうので、飲み過ぎには注意が必要です。
余裕があれば、めまい以外の神経症状がないか確認しましょう。中枢性のめまいを疑う随伴症状があるようなら、すぐに救急車を呼んで病院を受診してください。
(3)病院を受診する
中枢性めまいを疑う所見がなくても、落ち着いたら速やかに病院を受診しましょう。治療方法は、病気により異なります。思い込みで間違った対応をとってしまうと、症状が長引いたり、病状の悪化を招いたりすることになります。
6.めまいを軽減する方法
めまいを完全に防ぐ魔法のような方法はありませんが、日常生活のちょっとした意識で、めまいの頻度や程度を軽減できる可能性があります。
(1)規則正しい生活習慣を心がける
私たちの体は、規則正しい生活リズムを維持することで、自律神経のバランスを整え、内耳や脳の機能を最適な状態に保つことができます。
睡眠不足や不規則な食生活は、自律神経の乱れを引き起こし、めまいを誘発する可能性があります。毎日同じ時間に起床・就寝し、バランスの良い食事を規則正しく摂るように心がけましょう。
(2)十分な睡眠をとる
睡眠不足は、めまいだけでなく、様々な体の不調を引き起こす原因となります。質の高い睡眠を十分に取ることで、自律神経のバランスが整い、めまいの症状を軽減する効果が期待できます。
寝る前にカフェインを摂取したり、スマートフォンやパソコンの画面を長時間見たりすることは避け、リラックスできる環境で睡眠をとるようにしましょう。
(3)ストレスをため込まない
ストレスは、自律神経のバランスを崩し、めまいを悪化させる要因の一つです。ストレスを解消するために、自分なりの方法を見つけることが重要です。
自分に合ったリフレッシュ方法を見つけて、実践してみましょう。また、趣味に没頭したり、友人や家族と楽しい時間を過ごしたりすることも効果的です。
7.適切なめまいの治療を受けるために 正しい原因を知るところから始めましょう
めまいの原因を診断するためには問診が非常に重要となります。受診したときはできるだけ落ち着いて、いつからどのような症状があったのか、誘因や持続時間、随伴症状、頻度などをしっかりと医師に伝えてください。そのことが、適切な診断と治療に結びつきます。
(編集協力:スタジオユリグラフ 中村里歩)

西村 忠己(にしむら・ただし)
奈良県立医科大学 耳鼻咽喉・頭頸部外科 めまい・難聴センター病院教授
1997年に奈良県立医科大学卒業。奈良県立医科大学耳鼻咽喉科助手、助教、学内講師、講師などを経て、2023年2月から現職の奈良県立医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科めまい・難聴センター副センター長兼病院教授。専門分野は聴覚、補聴、耳科手術など。
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