2025.12.14
雪野朝哉インタビュー1
前川 亜紀
ライター・編集者

「ローワライ」著者、雪野朝哉さん
耳が聞こえず、話すことができない聴覚障害者の男子大学生が、健聴者の友人と出会い才能を発揮、笑いの道に進んでいく……漫画家・雪野朝哉(ゆきの・あした)さんの漫画『ローワライ』は、Xで20万以上の“いいね”を獲得し、拡散し続けている。作品の完成度は高く「実は大御所作家の作品では?」という声も出ている。

©雪野朝哉/「ローワライ」講談社「ヤングマガジン」
そんな雪野さんがメディアで初めてのロングインタビューに答えた。第92回ちばてつや賞で優秀新人賞を受賞した、20代の新人作家だ。謎につつまれた雪野さんの素顔とは。
雪野朝哉(ゆきのあした)
北海道出身、社会人を経て漫画家へ。2023年に『ひまわり』、2024年に『マイダンス』『残心』を発表。2025年『ローワライ』で、第92回ちばてつや賞 優秀新人賞を受賞しデビュー。好物は羊肉。
漫画は完全に独学です
――『ローワライ』は、聾唖のイケメン大学生・平里と、健常者の大学生・嶋が教室で出会うところから始まります。2人が「笑い」と出会い、漫才の頂点を目指す物語に引き込まれ、ダイナミックな画に心をつかまれます。本作が4作目と聞きました。学生時代から漫画は描いていたのですか?

©雪野朝哉/「ローワライ」講談社「ヤングマガジン」
「いいえ、漫画は描いていませんでしたが、絵は趣味でした。美術部や絵画教室などに所属せず、一人でのんびり楽しんでいました。
漫画家になろうと決意して退職し、時間ができるようになってから、全くのゼロから漫画の練習を始めました。漫画はストーリー・構成・作画を一人で行うので、手を動かさなければ始まらない。でも漫画を描くことについて、そもそも“分からないところ”が分からないのです。
ですから、“分からない”ところを洗い出すために、30Pくらいの作品を描こうと決意。ひとまず、見様見真似でバトルファンタジー作品に取り組み始めました。
液晶タブレットは趣味の絵を描くためにかつてボーナスで購入し、持ってはいたのですが、原稿のサイズも枠線の描き方もわからない。
漫画本に定規をあてて測り、“ここが〇mmだから、画面だと何mm…mmじゃないpixelって何!?”などと悪戦苦闘しながら枠線やコマ割りをした記憶があります。
漫画はキャラクターの顔の角度、ポーズ、構図、背景などとにかくやることが多い。線の太さもどうすればいいかわからない。トーンの貼り方、定規の使い方、作品を作りながら“分からないところ”を徹底的に洗い出していきました。
漫画の教則本なども読みましたが、漫画を描く方法に決まったものはなく、人それぞれ完全にオリジナルな表現方法なので、全てが参考になるわけではありませんでした。
いろいろな方の漫画の描き方についてのWebサイトやYouTube、出版社の記事、映画脚本作りの本などを読んだり、漫画を模写したり分析したりしていました。半年間は、一人で家にこもり、体に技術を叩き込むように、独学で漫画の技術を開拓していたのです」
漫画を仕事にしようと退職、ゼロから漫画を
――そして生まれた最初の作品は、画家・ゴッホが主人公のストーリー漫画『ひまわり』。この作品で、2023年にヤングマガジン新人賞・期待賞を受賞します。
「漫画を仕事にしようと退職し、ゼロから漫画を描き始め、半年で完成させた『ひまわり』が認められたのは嬉しかったです。人生で初めて描いた漫画が一発で賞を貰えるなんて思っていなかったので、講談社の、現在の担当編集さんから電話がかかってきて担当につくと言われた時はかなり驚きました。賞に出したことすら忘れてたレベルです。最初詐欺電話かと思いました
先ほど、タブレットの使い方や作画技術を独学で身につけたことをお話ししましたが、ストーリー作りの面ではそこまで苦労したことはありません。子供のころから、物語を作ることが好きで、いくらでも考えられるのです。学校の授業も“面白くないな〜”と思うと想像が始まり、物語の終わりと共に授業は終わっていることも(笑)」

ロングインタビューは初めてだという雪野さん
――なぜ、「ヤングマガジン」に応募したのでしょうか。
もともと、作品は大手出版社の漫画賞に出そうと思っていました。多くの出版社・雑誌がありますが、中でもヤングマガジンは作品の幅が広く、自由に作品を描く将来の自分が想像できたので、決めたのです。
2024年に「ケンドーコバヤシ賞」受賞
――2作目は、2024年5月に発表した『マイダンス』でヤングマガジン月間賞第529回奨励賞を受賞。そして3作目は2024年に発表した作品『残心』です。この少林寺拳法を扱った力作は、ヤングマガジン月間賞第536回 ケンドーコバヤシ賞&TOP賞を受賞しました。
「学生時代、少林寺拳法をやっていたのですが、認知度が低いことへの疑問と怒りがありました。それに、日本を舞台に少林寺拳法を扱った漫画作品はあまりありません。それなら、私が描いてみようとしたことがきっかけです。私は自分が好きな世界を、できるだけ皆と共有したいんですよね」

©雪野朝哉/「残心」講談社
――雪野朝哉(ゆきの・あした)というペンネームに、「好きなもの」は反映されているのでしょうか。
「はい。松尾芭蕉の俳句“馬をさえながむる雪の朝(あした)哉(かな)”(『野ざらし紀行』収録)が由来です。幼いころから通っていた書道教室で『奥の細道」の臨書(古典を書写すること)をしていました。
それもあって松尾芭蕉の俳句には縁がありいろいろと調べていました。この句をはじめて見たときに、風景が立ち上がるような感覚があったのを覚えています。お気に入りの俳句なのでペンネームにさせていただきました」
「ローワライ」のあまりの反響に驚きました
――歴史的メジャー作家・松尾芭蕉由来のペンネームは縁起が良さそうです。それに圧倒的なリアリティを持つ『ローワライ』の魅力が重なったのでしょうか。本作は、Xで20万“いいね”を獲得するという快挙になりました。
「あまりの反響に驚きましたが、当事者になると、他人事のように思えてしまうんですよ。ただ、多くの人に知られることはアンチが増えることでもあります。
私が恐れていたのは、当事者や家族の方からの拒否されることや、“聾唖者は、こんなことをしない”という反応です。私は近しい友人の家族が聾唖の方なので、彼らにとって“聞こえないことが日常”という感覚を、身近で知ることができていました。でも、それだけでは漫画は描けない。取材やリサーチを徹底的に行い、細部を詰め、文字どおり魂込めて描き上げました。
今も作品の拡散は広がっていますが、これまで批判的な反応はありません。それどころか、Xを見た当事者の方が、編集部にファンレターを送ってくださったり、SNSを通じて感想を頂いたことが、本当に嬉しかったです。
多くの人に知っていただいたので、母に報告することもできました。“実は仕事を辞めており、漫画家として生きていく”という事後報告だったのですが、母は“ああそうなの?”という感じの反応でした。母はいつも私を全面的に応援してくれています。
『ローワライ』は、今、2026年1月26日から連載が始まることが決まり、もう8話まで進めています。2人がどうなっていくのか、楽しみにしていてください」

©雪野朝哉/「ローワライ」講談社「ヤングマガジン」
◇『ローワライ』は聾啞者のみならずリアリティに定評があるが、作中の漫才のネタの評価も高い。雪野さんに創作背景を聞くと「ひたすら『M-1グランプリ』を観て研究をしています」という。
後編「20万いいね「ローワライ」漫画家・雪野朝哉に聞く「ろう者とのやり取りが漫才になる」理由」でさらに詳しく聞いていく。
「ローワライ」無料試し読み記事
「耳が聞こえなくても漫才ができるのか。Xで20万いいね!雪野朝哉「ローワライ」の力」はこちら
NON STYLE・石田明さんと雪野朝哉さんとの対談が公開!
リンク先はFRaUというサイトの記事になります。
