2026/09/22 10:43
河野夏帆
中村亜貴
熱戦が続く愛知・名古屋アジア大会(読売新聞社協賛)には生まれつき聴覚に障害のあるデフアスリートも出場する。聞こえないことで生まれる「静寂」を力に変え、障害のある子どもたちを勇気づけたいと活躍を誓う。(前橋支局 河野夏帆、中部支社 中村亜貴)

クレー射撃で頂点を目指す宮坂選手(15日、群馬県富岡市で)=河野夏帆撮影
射撃・宮坂「ろう者の子に希望を」
「周りの音が聞こえないことが自分の武器になっている」。不規則に放たれる標的を撃つ高い集中力が求められるクレー射撃の宮坂七海選手(28)(セトラスホールディングス)は障害を意に介さない。
競技を始めたのは日体大3年の時。小学5年から剣道を続け、高校2年で東京都大会の個人戦を制したが「体幹が強く、周囲の状況を捉える広い視野が向いている」と、道場の恩師・豊村 東盛あづもり さん(76)に競技転向を勧められた。
射撃場に通い詰め、周囲に筆談や身ぶり手ぶりで教えを請うた。剣道で鍛えた下半身の体幹の強さは、射撃時に体のぶれを抑えるのに役立った。銃と自身が一体化する感覚をつかむのは早かった。史上最年少の21歳で「JOCジュニアオリンピックカップ大会」を優勝。全日本女子選手権は2023年から3連覇した。
障害をマイナスに思ったことはないが、聴者と同じ舞台で結果を出すことで「ろう者の子どもたちの希望になりたい」と誓う。大会にかける思いは人一倍だ。

練習に臨む湯上選手(滋賀県甲賀市で)
円盤投げ・湯上「障害あっても楽しめる」
円盤を手にサークルに入る表情には迷いがない。湯上 剛輝まさてる 選手(33)(トヨタ自動車)は長いトンネルを抜け、好記録を連発する今が「競技人生の中で最高の状態」と語る。
陸上部で砲丸投げに打ち込んでいた中学3年の時、試しに円盤を投げると美しい弧を描いて飛んだ。「これは面白い」。高校で本格的に始めた。体を回転させた時に取れる恐れもあり、競技中は人工内耳の装置を外すが、「自分だけの世界に入れる」と集中力につなげ、才能を開花させた。
18年の日本選手権で当時の日本記録を更新する62メートル16を出した後、スランプに陥り60メートルが遠くなった。東京五輪の代表選考も近づき、焦りが先立った。五輪経験のある豪州人コーチを頼ると、こう助言された。「五輪は数ある大会の一つにすぎない。焦らず、円盤投げの楽しさそのものを思い出して」
五輪出場は逃したが、技術面の改良を重ね、23年年末には地元・滋賀県甲賀市に拠点を移し、環境も変えた。グラウンドに足を運べば顔なじみの人たちが「頑張って」と声をかけてくれ、心にゆとりも生まれた。
地面を捉える足から、手の先まで、全てがかみ合う感覚が戻り、昨秋のデフリンピック東京大会で優勝。今春には自身が前年に出した記録を90センチ更新する、65メートル38の日本新記録をマークした。「障害があってもスポーツを楽しめることを、子どもたちやその家族にも伝えたい」と意気込む。
記事のポイント!
聞こえないことを弱みではなく、競技への集中力につながる「武器」として生かす2人のデフアスリートを紹介しています。クレー射撃の宮坂七海選手は、周囲の音が聞こえない環境を高い集中力につなげ、全日本女子選手権3連覇を達成。円盤投げの湯上剛輝選手は、競技中に人工内耳の装置を外し「自分だけの世界」に入ることで集中し、日本新記録を樹立しました。「ろう者の子どもたちの希望になりたい」「障害があってもスポーツを楽しめると伝えたい」という2人の思いにも注目です。
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