2025.09.26
日本で唯一の聴覚・視覚障害者を対象とした国立大学である筑波技術大学との連携で、中央アジアのキルギスにおいて、2025年4月より、JICA草の根技術協力事業として「ろう者のエンパワメント獲得に向けた次世代リーダー育成事業」を実施中です。本プロジェクトでは、若手ろう者のリーダーが当事者団体と政府機関等との対話を牽引できるようになることを目標に、若手ろう者の人材育成、ろう者当事者と政府機関等との対話の場づくり、一般市民に向けたろう者を取り巻く環境の啓発を行っています。
2025年9月に、プロジェクトマネージャーである大杉教授とともに、JICA筑波の担当者が現地に渡航し、プロジェクトの進捗を確認するとともに、関係者との協議を行いました。キルギスでのプロジェクトの実施の様子を報告いたします。
若手ろう者のエンパワメントに向けた研修の実施
若手ろう者のリーダー候補として選出された研修員19名を対象に、カウンターパートであるキルギス視聴覚障害者協会の持つ文化センターを活用して、計4回の対面研修を実施しました。キルギスのろう者は、普段はロシア手話言語を用いて会話をしていますが、本研修では、大杉教授の指導のもと、国際手話によるコミュニケーションをはかっています。具体的には、伝えたい内容をわかりやすく伝えるための図解演習、聴覚障害者としての半生を振り返り気づきを得るための自分史の作成、日本におけるろう者当事者の運動(例:運転免許証の取得)についての解説などの研修を実施しました。
研修の参加者は、これまでオンラインで3回行った国際手話コミュニケーションの練習に関する研修の成果も活かして、慣れない国際手話表現をお互いにフォローし合いながら、熱心に楽しく研修に取り組んでいる様子が印象的でした。図解演習では、3人ずつのチームで協力して回答をつくりあげていきます。自分史の作成では、聴覚障害者同士でも、個人個人で状況は異なることから、自分自身の障害についての気づきを得るなどの発見があった様子です。このような研修を通じて、若手ろう者自身がエンパワメントされて、個人としてもチームとしても自信を持って発言していくことができるようになることが期待されます。

国際手話で指導する大杉教授

グループワークの様子

図解演習の結果発表
また、研修の一環で、岐阜県に集まる全国ろうあ青年研究討論会に参加する日本のろう者の若者たちとオンラインで交流する機会もつくりました。国際手話でお互い自己紹介をしながら、それぞれの国のことを話し合い、とても楽しく交流を深めることができました。
ろう者を取り巻く環境の視察
キルギスのろう者が生活したり、働いたりする状況として、ろう学校及びキルギス視聴覚障害者協会が運営する金属加工工場、縫製工場、また、聴覚・視覚障害者が利用する図書館を視察しました。ろう学校では、小中高校生にあたる子ども達がロシア手話言語を用いて学んでいます。学校を卒業した後、すぐに大学に行ける人はおらず、主に縫製や木工といった職業訓練校に通って、就職する方が多いそうです。
金属加工工場では、子ども達の遊具やベンチといった金属製の加工製品を製作、聴覚障害者自らが据え付けまで行っているとのことです。また、縫製工場では、主に女性の聴覚障害者の方が行政機関などから依頼を受けて、鉄道会社や消防署のユニフォームなど、丁寧に製作している様子を見ることができました。皆、手話で話をすると嬉しそうに、働いている様子について語ってくれました。

金属加工工場の様子

縫製工場の様子

聾学校の様子
プロジェクト運営委員会の開催
プロジェクトの進捗を確認するとともに、課題を解決するために、筑波技術大学と協働でプロジェクトを実施するキルギス視聴覚障害者協会及び労働・社会保障・移民省、聾学校・難聴学校の関係者とプロジェクト運営委員会を開催しました。運営委員会では、プロジェクトについての感謝と期待がキルギス側から述べられるとともに、政府としては、ろう者の声を聴いて政策に反映をしていきたい、また、キルギス視聴覚障害者協会として、筑波技術大学と本プロジェクトでそのような取組を進めたいとのコメントがありました。本プロジェクトを通じて育成された若手ろう者リーダーが、政府関係機関などに対して、自分たちの生活をより良くするための提言をできるようになることで、キルギスにおけるろう者を取り巻く環境が改善されていくことが期待できると感じました。
プロジェクト実施期間は、2027年7月までの2年間となります。2026年6月頃には、選抜された若手ろう者リーダーの方が、日本に研修に来る予定で、その際には市民との交流の機会もつくる予定です。ぜひ筑波技術大学とのプロジェクトの取組に注目頂けると幸いです。
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