子どもの耳掃除、「やりすぎてはいけない」のはなぜ? 専門医に聞く、意外と知らない正しい耳垢のとり方

子どもの耳掃除、「やりすぎてはいけない」のはなぜ? 専門医に聞く、意外と知らない正しい耳垢のとり方

2024.9.16

綿棒で耳かきをする女性の耳元
画像はイメージ(Getty Images)

#子育て #耳掃除 #健康
中寺暁子

「耳掃除のやりすぎはよくない」「そもそも耳垢(あか)はとる必要がない」といった話を耳にしたことがある人は、多いのではないでしょうか。とはいえ、耳垢が気になったり、耳掃除のために耳鼻科に通うのは面倒に感じたりするものです。子どもの耳垢を適切に処理するやり方について、国立成育医療研究センターで小児の耳鼻咽喉科を担当する守本倫子医師に聞きました。

【図版】自宅で耳掃除するときの4つのポイントはこちら


耳掃除の適正頻度は月1回

――耳掃除のやりすぎはよくないと言われています。どの程度やればいいですか?

 耳の内側を指で触ると、耳かすのようなものがとれることがあります。これは耳垢が外に出てきたもので、自然な現象です。つまり、耳垢は耳の奥まで綿棒を入れて掃除をしなくても、自然と外に出てくるのです。家での耳掃除の目的は、外に出てきた耳垢をとり除くこと。耳の中に綿棒を入れたとしても、穴の入り口あたりにある耳垢をかき出すくらいで、奥まで掃除する必要はありません。耳掃除の頻度は月に1回程度で十分です。

――なぜ耳掃除をやりすぎるといけないのですか?

 外耳道(耳の穴から鼓膜までの部位)は皮膚が薄いうえ、さらに子どもの皮膚の厚さは乳幼児の場合、大人の3分の1程度と言われています。その部分を綿棒でゴシゴシこすると、たわしで掃除しているようなもので、皮膚が傷ついてしまいます。そこから雑菌が入ると、炎症を起こしてかゆみや痛みが出てくることがあるのです。

 また、耳の奥まで綿棒を入れると、耳垢を奥に押し込んでしまうことになります。それを繰り返していると地層のように耳垢が重なっていき、圧縮されて硬くなります。その塊が外耳道を傷つけ、炎症を起こして黄色い浸出液が出てくることもあります。するとさらに硬くなるという悪循環を起こし、ひどい場合には、石のような硬さになることもあるのです。当然聞こえづらくなり、痛みも出てきます。耳鼻科でとるときにも痛く、出血することもあります。

――耳垢が石のようになるまで気づかないものでしょうか。

 そうですね。学校の健診ではプールの授業が始まる前に耳垢をチェックして、たまっている場合は耳鼻科の受診を促されます。これは、耳の中に水が入ると硬くなっている耳垢がふやけてふくらみ、一気に聞こえなくなってしまうからなのです。健診で指摘されるまで、耳垢がたまって硬くなっていることには、なかなか気づかないものです。


タイプ別、耳掃除方法

――家で耳掃除をする場合、綿棒や耳かきはどのようなものを使えばいいですか?

 先端が極細の「ベビー用綿棒」がおすすめです。ベビー用ではない綿棒はよく見ると、先端がガサガサしているので皮膚を傷つけやすいと思います。

――綿棒はどのように使えばいいですか?

 保護者がやる場合には耳を少し引っ張って中を見やすくしてから、綿棒で耳垢をかき出す、あるいは耳の穴の入り口付近を綿棒でぐるりと1周まわすようにしてください。子どもの耳の穴は小さいですから、太い綿棒だとぐるりと回すことができないので、細い綿棒がおすすめなのです。

――耳垢はベトベトした湿性のタイプとカサカサした乾性のタイプがありますが、タイプ別の掃除方法はありますか?

 湿性タイプは耳垢が耳にはりついていてとりにくいため、お風呂上がりに綿棒でとるのがおすすめです。耳掃除は基本的には綿棒がいいですが、湿性タイプは先端がらせん状になっている耳かきでもとりやすいと思います。先端がへらの形になっているタイプの耳かきは、力が入ったときに皮膚が傷つきやすいので小さなお子さまにはおすすめしていません。

 乾性タイプは、綿棒の先端にワセリンなど軟膏をぬってから耳掃除をすると、カサカサした耳垢がくっついてとれやすくなります。

――耳垢はできれば耳鼻科でとってもらったほうがいいのですか?

 基本的には自宅での耳掃除だけで問題ありませんが、きちんととれているかわからない場合や、子どもが動くので耳掃除をするのが怖い、といった場合は、遠慮なく耳鼻咽喉科を受診してください。耳掃除だけの受診でも、嫌がられることはありません。


耳掃除が苦手な子にはマッサージから

――耳鼻科で耳掃除をしてもらったほうがいいケースはありますか?

 耳垢がたまって塊になりやすいタイプの子は、受診したほうがいいと思います。「耳垢がよくとれて、かゆみがある」といって受診されるケースの中に、実は外耳道炎のために耳垢ではなくて浸出液の塊がたまっていることがあります。この場合、ステロイドの塗り薬を処方すると、かゆみがとれて浸出液もなくなります。

 また、補聴器やイヤホンを長時間つけているような子は、自然に排泄される耳垢を頻回に奥に押し込んでしまっていますので、2、3カ月に1回受診して耳垢をとってもらったほうがいいでしょう。

――子どもが自分で耳掃除をする場合、保護者はどのようなことを伝えればいいですか?

 これまでお話しした通り、やり過ぎないことのほかには、安全な場所を確保してからやるということです。耳掃除をしている手やひじがどこかに当たると、外耳道を傷つけたり、鼓膜を破ってしまったりするので、周りに人がいないことを確認するようにしましょう。自分の周囲1m以内にドアや壁がないことも大事です。洗面所で耳掃除をしていたら、突然ドアがあいてひじがあたってしまうということも考えられるからです。これらの注意点は保護者が子どもに耳掃除する場合も同様です。子どもは想定外の動きをするので、例えば保護者が上の子の耳掃除をしている最中に、下の子が背中に飛びかかってきて鼓膜を傷つけてしまったというケースもあります。

――子どもが耳掃除を嫌がる場合はどうすればいいですか?

 耳掃除を嫌がる子は耳を触られるだけでもイヤということがあります。耳をやさしくマッサージしてあげることから始めてはいかがでしょうか。それでも難しい場合は、保護者が無理にやろうとせず、耳鼻科医にとってもらうことをおすすめします。

自宅で耳掃除をする場合のポイント

(構成/中寺暁子)


守本倫子(もりもと・のりこ)医師/国立成育医療研究センター小児外科系専門診療部耳鼻咽喉科診療部長。1994年、新潟大学医学部卒。慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科に入局したのち、国立小児病院を経て現職。専門は小児耳鼻咽喉科、小児喉頭疾患、小児難聴。日本耳鼻咽喉科専門医、日本気管食道科専門医、臨床遺伝専門医。


守本倫子さん


著者

ライター
中寺暁子

健康情報誌編集部などを経て、2000年からフリーに。医療・健康・教育のテーマを中心に取材・執筆活動を行う。


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