字幕や音声ガイド、観劇サポートで舞台の楽しさをみんなに

字幕や音声ガイド、観劇サポートで舞台の楽しさをみんなに

記事のポイント
1.字幕や音声ガイドといった「観劇サポート」が徐々に広がっている
2.誰でも、ライブや演劇など舞台を楽しめるようにする取り組みだ
3.観劇サポートを推進する廣川麻子さんに、経緯や思いを聞いた

ライブや演劇などを楽しむことを阻む障壁に配慮し、鑑賞する人たちの可能性を広げる「観劇サポート」。

特定非営利活動法人シアター・アクセシビリティ・ネットワーク(TA-net)の理事長である廣川麻子さんは、字幕や音声ガイド、手話通訳といった観劇サポートを推進している。

どのような思いで活動を続けているのか。NPO法人インフォメーションギャップバスターの伊藤芳浩理事長が聞いた。

■単にセリフを文字にすれば良いわけではない

ーー「観劇サポート」とはどのようなものでしょうか。手話通訳や字幕を付ける場所が増えつつありますが、まだ一般的ではありません。普及にはどのような課題がありますか。

劇団の中には、手話通訳や字幕を付けたいという気持ちを持っている場合もあります。ですが、予算の問題があります。ボランティアでは限界があります。なぜ大変かを字幕を例に挙げて説明します。

字幕は、台本からデータをそのまま表示すればいいというものではありません。俳優がセリフを話すタイミングや場面に合わせてページを作らなければいけません。先に字幕が出てネタバレなんてことにもなりかねません。

セリフだけを字幕にすればいいのではなく、ろう者が分かるように音の情報が必要です。例えば音楽が流れたときの情報も字幕として付ける必要があります。このように、舞台の字幕制作は細かい調整が必要になる、大変な作業なのです。

舞台手話通訳の場合は、当日の出演だけでなく、事前に台本から手話翻訳を行い、また、稽古に参加して俳優の動きに合わせる稽古、演劇や手話指導の経験があるろう者、聴者による監修も稽古に参加して全体をチェックします。

劇場入りしてからも、舞台の上でに立って照明などの当たり具合や立ち位置などを調整します。また監修がろう者の場合は稽古に参加するときに手話通訳が入ります。舞台手話通訳も大変な作業なのです。

そうした作業量に見合う予算が必要なのですが、かつては、国からの補助金などはほとんどない状態でした。それが、5年ほど前から、文化庁や芸術文化振興基金などで制度ができました。公演の企画への助成を申請するときに情報保障をつけたい、つまり聞こえない人や見えない人へのサポートに必要な経費を計上すれば、上限はあるものの、加算されるようになったのです。

こうした制度ができるまでは、加算のないまま申請した予算の範囲で情報保障費用を捻出しなければなりませんでした。そうすると、企画自体にかけられる費用が削られてしまうことになります。でも、今はサポートの費用が別途加算されるので、負担が大幅に減り、制度を利用する劇団が出てきました。でも、まだまだです。制度が知られていないからです。啓発のためにも発信していかなければならないと思っています。

そこで、全日本ろうあ連盟とともに、文化庁に対し、サポートに特化した制度の創設を求める要望を出しました。障害者芸術文化振興基本計画を策定する有識者会議でも議論され、私たちの意見も一部ながら反映されました。やっと一歩が踏み出せたというところです。助成金の申請は、例年、10、11月くらいです。この制度が主催者にとっても、より使いやすくなることを期待しています。

■東京芸術劇場は10年前から一部で字幕対応

ーー劇団の情報保障に関して、先進的な取り組み事例を教えてください。

最も実績があるのは東京芸術劇場です。2010年ころから、一部公演にいち早く字幕を付け、積極的に取り組んでいます。

他に、環境設備に力を入れているのは新国立劇場です。支援の開始時期は2018年と早くはないのですが、その分、先行事例を参考にして取り組まれています。

当日のロビーなどに大きく「字幕あり」と掲示したり、予告動画にも字幕とワイプで手話通訳を付ける、スタッフが指差しでコミュニケーションできるようなボードを携帯したりと工夫しています。このような取り組みがもっと増えていくといいです。

劇場主催として手話通訳を実施した例は少ないですが、劇団主催では増えつつあります。東京演劇集団「風」では、既存の3作品をバリアフリー演劇としてリメイク、手話通訳、字幕、音声ガイドを付け、全国ツアーにも展開しています。

そのほかにも、劇団銅鑼(どら)は手話通訳をつけ、この秋には全国ツアーに手話通訳を帯同することが決定しました。タカハ劇団は字幕と手話を同時に導入しています。昨年は文化庁事業として5団体に手話通訳を付与しましたが、そのうちの幾つがが、今年も付与に挑戦してくださっています。

劇団にいる制作スタッフや俳優が、別の劇団で仕事をする際に、「字幕を付けたらどう?」と提案をして、広がっていくケースもあります。ろう者が言うのではなく、劇団のメンバーやスタッフが必要性を感じて、自ら提案してくださっている様子が伺え、嬉しく思います。

公演は出演者、スタッフ含め、人の交流が盛んなのですが、その分情報も拡散しやすいようです。字幕や手話が付いている公演も増えてきたので、もっとろう者も観にきてほしいです。

ーーろう者がなかなか劇を観にこないのは何か理由があるのでしょうか。

サポートがあると分かっていても、具体的にイメージすることが難しい、手話や字幕を2時間通して観ることに不安を感じる人もいます。また、舞台そのものに興味がない、という人もいます。

私の場合は、小さい時から演劇の経験があり、楽しさを知っているので、演劇が身近なものです。でも、全く経験のない人からにしてみれば、馴染みがなくイメージがつかみにくいということもあるかもしれません。しかし、一回観ると、面白いと言ってくれます。今年の課題として演劇の魅力や、情報保障について事前に発信する機会を増やしたいと思っています。

リンク先はalternaというサイトの記事になります。
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