「日本では理解進んでいない」視覚・聴覚障害が重複する“盲ろう” 必要とされる支援とは

「日本では理解進んでいない」視覚・聴覚障害が重複する“盲ろう” 必要とされる支援とは

8/20(火) 8:03配信

 視覚障害と聴覚障害が重複している「盲ろう」の人の支援を考える公開講座(全国盲ろう者協会主催)が7月21日、福岡市であった。当事者や特別支援学校教諭、医師らの講演を通して医療、福祉、教育の連携の在り方を探った。要旨を紹介する。 (野津原広中)

㊧福岡視覚特別支援学校教諭 末成智子さん㊨福岡盲ろう者友の会理事長吉田忠雄さん
㊧福岡視覚特別支援学校教諭 末成智子さん㊨福岡盲ろう者友の会理事長 吉田忠雄さん

「その子に最適な環境、方法を探る」福岡視覚特別支援学校教諭 末成智子さん(44)
 福岡視覚特別支援学校(福岡県筑紫野市)では、幼稚部から中学部まで22人が学んでいる。私は主に小学部の重複障害学級を担当してきた。今回は盲ろうのA君の話をしたい。

 A君は小学3年の時、小学部に転入してきた。視覚障害と聴覚障害、肢体不自由、知的障害がある。見たり聞いたりできないので、触れることや振動などで交流する。

 ブランコのような「スイング」という器具で遊ぶと声を出したり手を震わせたりして喜ぶ。嫌なときには表情が曇って泣いたり、体中に力を入れたりする。

 転入当初のA君はパニックになることが多かった。そこで活動の見通しを持てるよう「感覚運動遊び」「手指コミュニケーション」「音楽」などの時間割を毎日ほぼ同じにした。教室内の配置も中央にマット、壁側におもちゃ、隅にトイレ、と分かりやすくした。

 コミュニケーションには簡単なサインを使った。例えば、水分補給の時は口元をちょんちょんと触る。立ってほしい際は、A君の手のひらに私の指を2本立てる。次にすることの合図「オブジェクトキュー」もある。ボールを触らせるとボールプールで遊ぶ。フォークは給食。鎖はブランコ、といった具合だ。

 楽しいスイング遊びではA君が1本指で私の手のひらをひっかく「もう1回」のサインをしてくれた。

 環境を分かりやすくし、サインなどを導入することで、パニックは減り、スムーズに次の行動に移ることができるようになった。A君は今、福岡高等視覚特別支援学校に通っている。

 同じ盲ろうでも、人によって状態は違う。それぞれの子に最適な環境、方法をこれからも探りたい。

「情報保障、通訳介助…まず理解を」福岡盲ろう者友の会理事長 吉田忠雄さん(69)
 私は少し見えて少し聞こえる「弱視難聴」の盲ろう者だ。視覚と聴覚の重複障害があると、コミュニケーションや1人での移動が難しく、情報もつかめない。

 欧米は盲ろう者の福祉が充実していて、通訳介助者の身分も保障されている。だが日本では盲ろう者への理解が進んでいない。

 私は3歳の頃、40度近い高熱が出て、熱を下げる薬の副作用で難聴になった。4、5歳の頃、母と一緒に1年間、言葉の訓練に通った。今、しゃべれるのは母のおかげだ。

 高校1年の時に網膜剝離になった。盲学校に転入、5年間通い、はり・きゅう、マッサージの資格を取った。網膜色素変性症になったのは約30年前。治療法がなく進行性と知りショックを受けた。右目は失明し、左目の視野は狭くなっている。

 視覚と聴覚の重複障害で困っている仲間がいるのでは、と思い2002年に「福岡盲ろう者友の会」を設立した。スローガンは「独りぼっちの盲ろう者をなくそう」。交流会や新聞発行をしている。今年5月にNPO法人になった。

 今まで「医療」「福祉」が私たちを支えてくれた。これに「教育」も加えた「三本の矢」が連携してサポートしてほしい。そうすれば、盲ろう者の働き先が見つかるかもしれない。

 盲ろう者は不幸ではない。不便なだけだ。出かける際の情報保障や通訳介助者が足りていない。ぜひ私たちと一緒に活動するサポーターになってほしい。

盲ろう者
 国内の視覚障害者は約31万5000人、聴覚・言語障害者は約36万人で、双方が重なる盲ろう者は約2万3000人とされる。視覚障害の原因となる疾患は①緑内障40.7%②網膜色素変性症13.0%③糖尿病網膜症10.2%④加齢黄斑変性9.1%―の順。国立病院機構東京医療センターと全国盲ろう者協会は、東京と大阪、愛知、神奈川、福岡の医療施設や福祉サービスをインターネットで探せる「盲ろう者支援検索サイト」を設けている。


リンク先は西日本新聞というサイトの記事になります。
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