母語の手話で広がった輪 「ろう者も一人の人間」思い届けたい

母語の手話で広がった輪 「ろう者も一人の人間」思い届けたい

浅田朋範2024年8月17日 10時45分

 「全国高校生の手話によるスピーチコンテスト」(全日本ろうあ連盟、朝日新聞厚生文化事業団など主催)が18日、有楽町朝日ホール(東京都千代田区)で開かれる。79人の応募者の中から、原稿や動画審査を経て選ばれた10人がスピーチを披露する。埼玉県内からは高校1年の信太美紗生さん(16)が参加する。

スピーチコンテストに出場する信太美紗生さん
スピーチコンテストに出場する信太美紗生さん=2024年8月2日午後2時43分、埼玉県所沢市北秋津、浅田朋範撮影

 信太さんは生まれつき耳が聞こえない。手話で生活ができるよう、小中は手話で教えるろう学校の明晴学園(東京都品川区)に通った。

 2017年には、手話を交えて合唱を披露する「ホワイトハンドコーラス」の団体に参加し、聴者と手話で話す機会が増えた。それまで、ろう者と聴者は「関係がない、違う人間だ」という気持ちを抱いていたが、同じ人間なんだと気づくきっかけになった。聞こえる人ともっと話してみたいと思い、地元のクラーク記念国際高校所沢キャンパスへの進学を決めた。

 自己紹介で「コミュニケーション方法は手話と筆談です」と伝え、始まった高校生活。入学前は「ろう者なのに何で入学してきたの」と思われたり、偏見をもたれたりしたら嫌だなという不安があった。

 しかし、そんな不安は一瞬で消えた。友だちが授業の内容を文字に書き起こしたり、音声認識アプリを使ったりして通訳してくれた。「好きなら一緒にやってみない」と部活に誘われ、バスケ部や卓球部に入った。手話を覚えたいと言ってくれる人も続々と現れた。「一人の人間だと思ってくれていることがうれしかったです」

 信太さんはホワイトハンドコーラスで、手話を使って聴者と対等に話せた経験から「ここでもそれができるんじゃないか」と考え、手話サークルをつくり、手話を教え始めた。

 入学から5カ月、友だちと手話で話せる機会が少しずつ増えてきた。「手話で話せると最高に楽しいなって思います」

 スピーチコンテストの出場をめざしたのは、全国に自分の思いを伝えることで「社会が変わる一つのきっかけになるんじゃないか」と思ったからだ。

 手話が母語のため、伝えたいことを日本語の文章で表現することに苦労した。家族に何度も相談し、アドバイスをもらいながら原稿を書き上げた。その後、友人や先生にスピーチを見てもらい、それぞれの意見を聞きながら準備してきた。

 「ろう者は何もできないわけじゃない。かわいそうじゃない。一人の人間なんだ」。これまでの人生で感じた思いを届けたい。(浅田朋範)


リンク先は朝日新聞DIGITALというサイトの記事になります。
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