聞こえづらさ「年のせい」? 加齢性難聴 放置すれば認知症リスク

聞こえづらさ「年のせい」? 加齢性難聴 放置すれば認知症リスク

読者会議アンケート「あなたの聞こえの悩みは?」から
#Reライフ白書 2025.03.02


 家族から「テレビの音量が大きすぎる」と言われたり、電話越しの相手に何度も聞き返したり――。朝日新聞Reライフプロジェクトが会員組織「読者会議」メンバーに行ったアンケートでは、聞こえづらさに関する悩みが多く寄せられました。医師は「年のせいと放置せずに受診を」と呼びかけています。


中高年が悩む聞こえづらさ、「年のせい」と放置しないで

 アンケートに回答した兵庫県在住の三輪健次さん(71)は、定年退職後も契約社員として働く。70歳を過ぎたころから顧客との電話で、「相手の声が聞こえづらい」と感じるようになった。

 「何度も聞き返すと相手に迷惑。電話が鳴ってもあえて出ないでおこうか」。そんな考えがふと頭をよぎったこともあるが、同僚に負担をかけたくはない。何より、営業職として長年働いた身には電話を無視するなんてできない。

 昨年8月の人間ドックでは初めて、高音域の聴力が基準値よりやや落ちていると指摘された。実生活では低い声のほうが聞きづらいと感じていたので、少し驚いた。「この聞こえづらさは年のせいなのだろうか」。今年の人間ドックでも異常を指摘されたら耳鼻科を受診するつもりだ。

 愛媛大学の羽藤直人教授(耳鼻咽喉科学)によると、難聴は先天性以外に中耳炎、内耳の病気、騒音などでも起こる。

羽藤直人医師

羽藤直人医師
愛媛大学の羽藤直人医師=本人提供


生活習慣を見直し進行抑制 補聴器が助けに

 これらが当てはまらず、年齢を重ねるとともに聞こえづらくなるのが「加齢性難聴」だ。40代ごろから進行するが、聞こえづらさを感じるのは60代からという人が多い。

 耳の奥で音を感知する細胞が減るためだが、この細胞は再生しないため根本的な治療法はない。羽藤さんは「生活習慣を見直し、難聴の進行を抑えることが重要」として、栄養バランスのとれた食事や適度な運動、規則正しい睡眠、禁煙を挙げる。テレビなどの大音量も避ける。

 聞こえづらさを年のせいだからとあきらめず、補聴器で聴力を補うことも重要だという。難聴を放置すると、人とのコミュニケーションが減って社会的に孤立し、うつ病や認知症になるリスクが高まるからだ。外出などが減ることで転倒しやすくなるという指摘もある。

 英医学誌「ランセット」の委員会の報告(2024年)では、難聴や高LDLコレステロールなど14のリスク要因を取り除けば認知症の45%を予防、または進行を遅らせるかもしれないとしている。

 Reライフのアンケートには「補聴器が合わず使わなくなった」「高くて買えない」という声が届いたが、補聴器で生活しやすくなった人もいる。

 東京都在住の団体職員、楠本岳志さん(57)は、約2年前から両耳に補聴器をつけている。職場の会議で話がよく聞こえないというストレスから解放され、気持ちが穏やかになったという。雑音は思ったほど気にならず、入浴や就寝の前に外し忘れるほど装着の違和感もない。「眼鏡をかけるように世の中で補聴器が一般的になってほしい」と話す。

 購入費は両耳で約30万円。1ヶ月あたりにすれば5000円程度で、スマートフォンの通信料や使い捨てコンタクトレンズと比べても高くはなく、費用対効果は大きいと感じている。ただ、「耐用年数は5年」と購入時に説明された。5年以上使っている人も珍しくないようだが、この先、何回買い替えが必要になるのかが気がかりだ。

 羽藤さんによると、一部の自治体は補聴器の購入費を助成している。また、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が認定する「補聴器相談医」が作成した書類があれば、一般的には医療費控除の対象になるという。


80歳で「ささやく声」聞こえる聴力を 「聴こえ8030運動」


 加齢性難聴は両耳で起こり、高音域が聞こえづらいのが一般的だ。体温計や電子レンジなどの電子音が聞こえなかったり、テレビの音量が大きくなったりしたことをきっかけに実感する人が多い。

 片耳や低音域のみ聞きづらい場合は加齢以外の原因による難聴の可能性があるという。羽藤さんは「人間ドックなどで異常がなくても、聞こえづらさを実感しているなら耳鼻科を一度受診してほしい」と話す。

 音の大きさは「dB(デシベル)」で表される。例えば、ささやき声は30dB、日常会話は60dB、滑走路近くの飛行機は120dBといった具合。聴力検査の結果で、聴力レベルはこのdBの値が大きいほど聞こえづらいことを意味する。

 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は「聴こえ8030運動」に取り組んでいる。80歳時点でささやき声(30dB)が聞こえる聴力を保ち、難聴があれば補聴器で聴こえを取り戻そうという取り組みだ。ウェブサイト(https://kikoe8030.jibika.or.jp/)では、聞こえづらさに関するチェックリストや、聴力検査の結果の見方などを紹介している。


あなたの聞こえの悩みは? 


あなたの聞こえの悩みは?


アンケートの自由回答から


 4、5年前から職場での電話応対で、相手に何度も聞き返すことが増えた。音としては認識しているのに、明瞭な言葉として頭の中に入ってこない。
 家庭では、夫がぼそっと話したとき、何度も聞き返すのが面倒で適当に返事をしたら、数日経ってから「あの時言ったよね?」ともめた。今年1月に受けた人間ドックの聴力検査は異常がなかった。(大阪・女性・65歳)

 演芸が好きで、約20年前から寄席に通っていたが、ここ数年、足が遠のいている。あるとき、周りの観客たちが笑っているのを見て、自分には高座の演者の声が聞こえていないと実感したからだ。ボランティア活動の会議では話を振られても気づかず、出席をためらうようになった。(千葉・鈴木義博さん・79歳)

(取材・南宏美) 


リンク先は朝日新聞Reライフ.comというサイトの記事になります。

 

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