手を当てた女性の耳

認知症・転倒リスクも高める【加齢性難聴】70代からでもできる「聞く力」改善法を医師が解説

2026.05.24 11:00

 QOL(生活の質)や健康寿命に直結する「耳・歯・目」の機能。特に「耳」の衰えは他者との交流を減らし、脳への刺激を減少させるため、認知症の発症リスクを高める大きな要因となる。日常の中で実践できる「聞く力」の維持&鍛え方を専門家に聞いた。

手を当てた女性の耳

難聴に負けない「聞く力」トレーニングを実践しよう


教えてくれた人

室井一辰さん/医療経済ジャーナリスト

坂田英明さん/川越耳科学クリニック院長・著書に『1日1分耳トレ!難聴の悩み解消法』(内外出版社)

坂田英明医師

坂田英明医師


難聴の人は認知症になるリスクが高い

 健康診断や人間ドックでは血液検査やX線、心電図の結果など重病の予兆になりうる項目ばかり気にしがちだ。

 しかし、健康寿命をより直接的に左右するのは“日常生活と密接に関わる”部位だと医療経済ジャーナリストの室井一辰さんは言う。

「すなわち食べるための『歯』、見るための『目』、聞くための『耳』です。人間は1日のなかの大半をこの3つの機能を使って過ごしており、胃腸や腎臓などの臓器よりも機能低下がQOLに直結しやすい。できないことが増えることで精神的な豊かさや幸福感も失われやすくなります。歯、目、耳の機能維持や改善こそが健康長寿の柱だと言えます」

 さらに怖いのが認知症だ。「難聴と認知症の関係」について、米コロンビア大学の研究グループが2025年4月、最新のエビデンスを発表した。

「2946人の米国人(平均年齢74.9才)を分析したところ、認知症の最大32%は難聴によって発症している可能性があると報告しています」

 健康長寿の鍵となる歯、目、耳だが、機能を維持・改善する方法もまた多数あることが分かってきた。日常のなかでできる耳の対策を見ていこう。

 

「加藤さん」と「佐藤さん」が聞き分けにくい…それは“加齢性難聴”のサインかも

 年を重ねて「耳の聞こえづらさ」に悩む人は多い。医学的には「加齢性難聴」と呼ばれる症状だが、その初期は自覚しづらいという難点がある。

『1日1分耳トレ!難聴の悩み解消法』(内外出版社)の著書がある坂田英明医師(川越耳科学クリニック院長)が言う。

「加齢性難聴の患者は1000万人以上で、2040年には65才以上の3人に1人が難聴になると推測されます。音は空気の振動として耳に入り、外耳、中耳、鼓膜を経て内耳に届きますが、振動を電気信号に変え脳へ伝える『有毛細胞』が加齢で減少したり、働きが悪くなると、次第に聞こえにくくなり、やがて加齢性難聴を発症する。症状はじわじわ進行するため、自覚しづらいのが難点です」

 その特徴は、音が聞こえないのではなく、「どんな音か判別するのが難しい」状態であることだ。

 坂田医師によると、「相手に聞き返すことが増えた」「話し声が大きいと言われる」「電子レンジや体温計などの電子音が聞こえにくい」「『加藤さん』『佐藤さん』が聞き分けにくい」「ざわざわした街なかでの会話がしづらい」などが“耳の老化”のサインだという。

 

70代、80代からでも「聞こえにくさの改善」はできる

 そうした症状を「年のせい」と諦めて放置するのは禁物だ。

「聞き取りにくいだけで特段の不便を感じないので見過ごしがちですが、難聴は認知症のリスク要因の筆頭に挙げられるうえ、耳が塞がれたような状態で平衡感覚が乱れるので、ふらついて転倒、骨折し寝たきりになるリスクもあります」(坂田医師。以下「」内同)

 しかし、残念ながら、一度低下した“聴力レベル”が元に戻ることはないという。

「有毛細胞は再生しないため、低下した聴力を回復させることはできません。それでも、音や会話を『聞き取る力』を維持し、鍛えることは十分に可能です。耳と脳の両方を活性化させて機能を高めることで、70代、80代からでも『聞こえにくさの改善』はできるのです」

 

2倍速の動画視聴や外出先で「音」を意識するだけでも脳へよい刺激に

 なかでも「脳の情報処理能力」を高め、音を聞き分ける力を鍛えるために有効なのが「クラシック音楽を聴きながら楽器の音を追う」トレーニングだ。

「加齢性難聴では高音が聞こえづらくなりますが、クラシックは高音が多く、かつ楽器の音が聞き取りやすいので訓練に適しています。楽曲を聴く際にピアノなどひとつの楽器の音に集中し、音の動きを捉えるイメージで聴くと、脳の情報伝達機能を鍛えることができます」

 同様に、テレビのニュースを見る際、字幕をオフにして耳だけで聞く訓練も効果的だという。

「ニュースの字幕を見ずに音声を聞くことが、『脳で聞く訓練』に。映像を見ながら話の内容を推測することで、脳の活動領域を広げることが期待できます。ニュースを録画して1.5~2倍速などで再生する『速聴』も訓練になる。通常の速度と倍速再生を繰り返すことで脳の処理能力が高まり、通常再生がゆっくり感じられて内容を理解しやすくなるはずです」

テレビがついているイメージ写真

字幕なしでニュースを見るのも効果的


 外出先では、さまざまな種類の音を聞くように意識したい。

「聞こえづらさを感じている人は外出することが億劫になりがちですが、それでは耳と脳への刺激が限定的になり、聞こえの訓練にはマイナスです。

 騒々しい駅前や街なかでも鳥の鳴き声や風の音に耳をすませたり、自分の足音を感じるようにしてください。周りの雑音があるなかで小さな音を聞く訓練になります。救急車などのサイレンが聞こえたら、どこから聞こえるかを意識することで脳への刺激になります」

 音を聞き分ける脳の情報処理能力を高めるうえでは、グループでの「井戸端会議」も効果的だ。

「3、4人のグループで、誰がいつ話すかわからない井戸端会議は、目ではなく耳で誰が何を話しているかを意識し、考え、自分も話すことで脳が刺激されます。グループに女性がいるほうが、男性よりも音声の高低や強弱、抑揚が期待できるので、より効果的でしょう」

 

「耳掃除」で聞こえが悪化。認知症予防には補聴器の購入も検討すべし

 聞こえが悪くなると、つい耳掃除をしたくなるが、かえって逆効果の場合もあるという。

「耳掃除をしすぎると、耳の中を傷つけてしまい、細菌が入って『外耳炎』になることがあります。悪化すれば『伝音難聴』に繋がることがあり、加齢性難聴がある人はより聞こえにくくなる可能性もある。耳には自浄作用があり、耳垢は自然に入り口付近に押し出されるので、耳掃除は避けるほうがいいのです」

綿棒で耳かきをする女性

耳掃除のしすぎは「伝音難聴」を招き、さらに聞こえにくくなることも


 耳にアプローチする方法で坂田医師が推奨するのが、マッサージなどで耳や脳への血流を良くすることだ。

「耳の裏や耳周りにある胸鎖乳突筋や咬筋、側頭筋が硬くなると、耳や脳への血流が悪くなり、聞こえにも悪影響が及ぶと考えられます。それらをマッサージでほぐすことにより、血流に乗って十分な酸素や栄養が内耳の有毛細胞や脳に行き渡り、先に紹介した脳の情報処理能力を鍛えるトレーニングの効果を高めることが期待できます」

 具体的なマッサージ法をまとめたのでぜひ実践してほしい。

「それでも聞こえが悪化したら、認知症予防のためにも補聴器を使うことが選択肢です。抵抗感を示す人が多いのが現実ですが、近年の補聴器は性能が進化しており、デザインも豊富。装着しても周囲にはわかりづらいものもあります。専門医に提案されたら、恥ずかしがらずメガネと同じ感覚で使ってほしいですね」

 失われた聴力は戻らなくても、日常の工夫次第で「聞こえにくさ」を克服することは十分可能だ。

 

記事のポイント! 

加齢性難聴は、単に音が小さく聞こえるだけでなく、言葉や音の違いを聞き分けにくくなることが特徴です。記事では、「加藤さん」と「佐藤さん」が聞き分けにくい、電子音に気づきにくい、騒がしい場所で会話がしづらいといったサインを紹介しています。さらに、難聴を放置すると認知症や転倒のリスクにもつながる可能性があるとして、クラシック音楽を聴きながら楽器音を追う、字幕に頼らずニュースを聞く、外出先で小さな音に耳をすませるなど、日常でできる「聞く力」のトレーニングを解説しています。耳掃除のしすぎを避けることや、必要に応じて補聴器を前向きに検討することにも触れられており、聞こえの変化を年齢のせいと片づけず、早めに向き合う大切さが伝わる内容です。

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気になる症状がある場合は  

聞こえに不安がある場合は、早めに耳鼻咽喉科への相談をおすすめします。 


原文掲載元はこちら 

 https://kaigo-postseven.com/223596

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