40代、体温計の「ピピピ音」が聴こえづらくなったら気をつけて!意外に気づきにくい難聴のサインとは?

40代、体温計の「ピピピ音」が聴こえづらくなったら気をつけて!意外に気づきにくい難聴のサインとは?

高齢者特有の症状だと思われがちな難聴だが、近年はイヤホンやヘッドホンの使用増加にともなって若年化が危惧されている。さらに、実は難聴は耳が聞こえにくくなるだけでなく、孤立化や認知症のリスクを高める要因にもなり得るのだ。そんな難聴の原因と対策について、オトクリニック東京の小川郁院長に聞いた。(清談社 沼澤典史)

30代半ばから
始まる聴力の低下

30、40代であれば、自分はまだまだ難聴とは無関係と思いがちだ。しかし、小川氏によれば、聴力の低下は30代から始まっているという。

「難聴は聴力が落ちていることを指し、なんらかの音が聞こえない状態はすべて難聴です。人間が聞き取れる音の高さは20ヘルツから2万ヘルツと言われますが、加齢とともに高い音から聞こえなくなっていきます。実際、1万5000ヘルツほどのモスキート音は30代中盤から聞こえなくなる人が多いです。他にも、4000~8000ヘルツの体温計の『ピピピ』という電子音は、40、50代で聞こえなくなる人もいます。つまり、厳密に言えばほとんどの方は30代半ばから聴力の低下が始まっているのです」

そして、小川氏は難聴のメカニズムをこう話す。

「難聴は、伝音難聴、感音難聴、そしてこれらが複合的に組み合わさった混合性難聴という三つのタイプに分かれます。伝音難聴は鼓膜や耳小骨などがある外耳、中耳になんらかの障害があることに起因します。耳あかが詰まったり、中耳炎になったりですね。伝音難聴は投薬や手術で改善することも可能です。一方、感音難聴は内耳にある蝸牛(かぎゅう)など音を感じる機能に問題が発生します」

蝸牛の中には有毛細胞と呼ばれる、音を捉える役目の細胞が存在する。これが音の情報を電気的な刺激に変えて脳に伝えているのである。この有毛細胞がダメージを受け、数が減少することで音が聞こえにくくなるのだ。

「加齢による難聴のほとんどは有毛細胞の減少による感音難聴です。この原因は加齢と騒音、そして遺伝的な要因もあります。やはり、大きな音を長時間聞くと細胞へのダメージは大きくなります。特に若い世代はイヤホンで長時間何かを聞いていることもあるので、将来的に難聴が進むだろうとWHO(世界保健機関)などが啓発しています。一方で、遺伝的に難聴になりづらい人、なりやすい人がいるのも事実です」

細胞を再生させることは困難なため、感音難聴は手術などでの改善が難しい。

日常生活でわかる
「難聴のサイン」とは

また、難聴はその程度によって軽度難聴、中等度難聴、高度難聴、重度難聴と4段階に分類される。軽度難聴は会話が聞き取りづらくなったと感じる程度だが、中程度難聴では相手が近くにいないと聞き取れず、日常生活に支障が出始める。

高度は、耳元で大声で話してもらわないとままならないレベルであり、さらに重度であれば、聞こえるのは工事現場の騒音や自動車のクラクションといった大きな音だけになってしまう。

「軽度難聴のサインとしてよくあるのは、『カトウ』と『サトウ』など似た名字を聞き間違えてしまうこと。難聴は高い周波数から聞こえなくなり、言語であれば子音から聞き取りにくくなるからです。他にも飲み会や会議など大人数での会話の内容が理解できなくなることも挙げられます。一対一で話すときは集中していますし、表情や口の動きなど視覚情報からある程度理解できますが、大人数となると耳の感度が重要になります。難聴が進行していると、それらの音が聞き取りにくくなるのです」

小川氏によると、軽度難聴の時点で病院に訪れる人は多くはない。ほとんどは中程度難聴から来院するそうだが、そのまま放置しておけば認知機能にも影響を及ぼしてしまうという。

「難聴は認知機能の低下につながります。中等度難聴を放置したままだと、認知機能が7歳衰えるというデータもあるほどです。多くの人は言葉を聞いて理解して、面白さや悲しみなどの情動を感じます。これによって脳の認知機能が活性化するわけですが、言葉が聞こえず理解できないとなれば、そのような刺激がなくなるのです。ゆえに、認知をつかさどる細胞の働きもだんだんと衰えていく。また、会話ができなくなると、人付き合いや外出がおっくうになって周囲から孤立していきます。社会的な孤立によって他人との接触がなくなると認知機能は衰え、認知症への影響が懸念されています」

難聴は耳だけではなく、さまざまなところに影響し、QOL(生命・生活の質)を著しく低下させてしまうのだ。

補聴器の普及が
日本で進まない理由

それでは、難聴の予防法はなにがあるのだろうか。

「やはり、有毛細胞へのダメージを抑えるために耳を酷使しないことです。イヤホンを1時間ほど使ったら、10~15分ほどは休憩するなどですね。とはいえ、無音状態にいる必要はなく、適切な音量のテレビなど、うるさいと感じない程度の音があっても問題ありません。難聴のリスクを下げるには、うるさい環境に常にいないことが重要です」

一般的には、中等度以上の難聴の場合は補聴器の装着が勧められる。しかし、日本での補聴器の普及率は世界的に見て非常に低い。日本での難聴者のうち補聴器を装着しているのは15.2%だが、イギリスは52.8%、ドイツは41.1%、韓国は37%など、いずれも日本の2倍以上の装着率だ(Japan Track2022から)。

「欧米ではオーディオロジストという聴覚専門の国家資格があり、彼らの指導のもと、補聴器の選定や使用などを行います。一方、日本ではそうした専門家がおらず、個人でどこでも買えてしまいます。じつは補聴器は着けてすぐに聞こえるわけではなく、抜けた有毛細胞の役割を脳が想像して徐々に言葉が聞こえるようになるのです。つまり、耳のリハビリ期間が必要で、それは3カ月から半年ほどかかります。専門家であれば、そのようなことを説明してくれますが、日本ではまだまだそのような仕組みが広がっておりません。そのため、『着けても聞こえ方が変わらない』と使わなくなる方も少なからずいて、それが補聴器は意味がないというイメージにもつながっています」

一方、言語や文化面でも、欧米とは補聴器の必要性に違いがあるようだ。

「難聴は子音から聞こえなくなりますが、英語やフランス語など欧米圏の言語は、日本語と比べて、子音の重要性が非常に高いです。そのため、日本人よりも会話の際の不自由が大きくなるのです。また、欧米はパーティーなど大人数での会合が文化的に多いので、補聴器の必要性が高くなります。一方、日本人は性格的に、会話の内容がわからなくても、なんとなく聞こえたふりをして笑ってスルーしがちで、相手もいちいちそれを指摘しません。実際、難聴は別名『ほほ笑みの障害』とも言われます。ただ、文化や言語の違いはあれど、聞き取りやすくなることは間違いありませんので、難聴を感じている方は補聴器の装着をおすすめします」

若年層にとって補聴器は、「かっこよく使い勝手がいい」というイメージではないだろう。しかし、近年はGNヒアリングなどのメーカーを筆頭に、スマホやタブレットとも連携でき、通話や音楽、動画を楽しめるようなスマート補聴器も登場している。また、デザイン面においてもスタイリッシュな製品が存在し、従来のイメージを覆すような補聴器が増えているのだ。

また、「耳年齢チェック」といったモスキート音で耳年齢をチェックできるアプリもあるため、気になる人は試してみてもいいかもしれない。

難聴になれば、おのずと仕事のパフォーマンスも落ちるだろう。今から自らの耳年齢をチェックし、予防と対策をしていこう。

監修/オトクリニック東京 小川郁院長

リンク先はDIAMOND onlineというサイトの記事になります。
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