きょうの健康
加齢性難聴 最新技術でここまで改善 「人工内耳 最新情報」
初回放送日:2024年6月5日
重度の難聴や、補聴器を使用しても聞こえがわるい場合、人工内耳の手術を検討することになる。内耳や中耳に問題がある場合は、行えないものの、手術を受けるのに年齢の上限はとくになく、最近は技術の進歩に伴って高齢の患者さんにも行われるように。国内の人工内耳の手術件数は年間約1200件に達している。番組では実際に人工内耳手術を受けた患者さんを取材、手術を受けたきっかけや、実際に使っての感想などを紹介する。
放送内容
人工内耳とは?
通常、外からの音は、外耳、中耳、内耳、そして聴神経を通って脳で認知されるようになっています。


電気刺激を発する「電極」を内耳の「蝸牛(かぎゅう)」の中に埋め込み、それを制御する装置を「側頭部」の皮膚の下に埋め込む手術が必要になります。日本では人工内耳の治療が始まってから30年が経過しました。現在は、年間約1200件を超える手術が行われています。元々は先天性難聴の子どもに対して行うことが多い手術でしたが、近年は高齢者への手術も増えています。
人工内耳の適応
人工内耳の適応は、成人の場合は、自分の耳ではほとんど音を認識できない「重度難聴」の方、補聴器を使用すると音は聞こえるものの言葉として聞き取りが不十分というような「高度難聴」の方が対象となります。
重度難聴は、90デシベルよりも大きい音でないと聞こえないレベルです。具体的には、耳元で大きな声で話しても音として聞こえない状態です。高度難聴は70デシベルよりも大きい音でないと聞こえないレベルです。具体的には、40cmぐらいの距離での会話が聞こえない状態です。補聴器を使っても聞き取りが50%以下で、50%は聞き漏らしてしまう方は、人工内耳を使った方が聞き取りが良くなるとされています。
全身麻酔で行う手術ですが、体への負担は少なく、年齢制限はありません。70代、80代でも手術可能です。人工内耳を片方の耳だけにするか両方にするかは、左右の聞こえの程度や患者さんの希望を考慮します。
ただし、中耳に活動性の急性中耳炎などがある場合や、内耳の蝸牛に電極を入れるスペースがない場合、内耳からさらに奥にある聴神経や脳の聴覚野などに問題があって聞こえが悪い場合など、人工内耳の治療が行えないケースもあります。
人工内耳の手術としくみ

人工内耳の治療は保険適用です。2014年からは「残存聴力活用型人工内耳」と呼ばれる、低音は補聴器、高音は人工内耳で聞き取れるようにするハイブリッドタイプの人工内耳も保険適用になりました。
人工内耳の手術は、全身麻酔をして行いますが、局所麻酔で行われることもあります。耳の後ろを切開し、骨を少し削ります。骨を削った後に「インプラント」と呼ばれる本体を側頭部に埋め込み、聞こえのセンサーとなる電極を蝸牛に埋め込みます。手術時間は2時間程度、入院期間は1週間程度です。

左から スピーチプロセッサ(一体型)、スピーチプロセッサ(耳かけ型)、体内に埋め込むインプラント
外からの音は、体の外にある「スピーチプロセッサ」で電気信号に変換され、その信号が側頭部に埋め込んだインプラントに送られます。インプラントに伝わった信号は、蝸牛の中に埋め込んだ電極から聴神経を介して脳へ送られ、音として認識されます。
スピーチプロセッサは、体内に埋め込んだインプラントと磁石でくっつくようになっています。一体型と耳かけ型の2種類があります。スピーチプロセッサは、早ければ手術の数日後から装着し、リハビリ(音入れ)を開始します。
体内に埋め込んだインプラントは、基本的に交換する必要はなく一生使用できますが、体の外にあるスピーチプロセッサの機能は5年ほどでアップグレードされるため、それに合わせて交換する方もいます。
手術後の注意

手術後に起こりやすい合併症があります。内耳の蝸牛の隣に「前庭神経」と呼ばれるバランス感覚をつかさどる神経がありますが、蝸牛に電極を入れることにより、めまいやふらつきが起こることがまれにあります。通常は1〜2週間程度で改善します。また、耳の中には「鼓索神経」と呼ばれる味覚を伝える感覚神経が通っていますが、その近くをドリルで削るため、手術後に味覚に違和感を持つ方が一定の割合でいます。ただし多くの場合、半年〜1年程度で回復します。それから非常にまれですが、顔面神経まひも起こることがあります。その場合も、通常は回復します。
人工内耳は磁石を使用しているため、MRI検査を行うときには制限がありますが、最近の新しい人工内耳はMRI対応のものもあるため、その場合は、首から下の撮影に関しては問題なく行うことができます。ただし、磁石の周りは画像が乱れてしまいます。家庭用の電子レンジや電磁調理器などは、問題なく使用できます。
日常生活の注意としては、磁力が強いため、金属製品に近づくとスピーチプロセッサが金属に飛び移ってしまうことがあります。傘をさす時や電車内の手すりなど、頭部に金属が近づく場合は注意が必要です。外出時は、スピーチプロセッサを紛失しないように帽子を被ったり、紛失防止ホルダーを使用したりするなどの工夫も大切です。
人工内耳のリハビリ

手術後、早ければ数日、遅くとも1~2週間以内に人工内耳にスイッチを入れる「音入れ」が行われます。そのときに初めて耳の中に電流が流れますが、どのくらいの音に対してどの程度の電流をどの電極に入れるかをプログラムする「マッピング」と呼ばれる作業が行われます。その後、1~2週間に1回、安定してきたら数か月に1回の頻度で調整を重ねていきます。半年ほど経つとだんだん聞こえが安定し、自然な聞こえ方に近づいていきます。
脳が記憶している音や言葉と、人工内耳から入ってくる電気刺激を結びつけていく作業が大切になります。人工内耳はなるべく長時間装用し、いろんな音を聞くことでリハビリの効果が高まります。
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