ささやき声聞ける聴力を 加齢性難聴で8030運動  認知症リスク低減も

2024年12月17日 00時00分 共同通信

 年を取るにつれて聞こえにくくなる加齢性難聴。難聴が認知症のリスクを高めることが近年明らかになり、注目されている。耳鼻科医らでつくる医学会は、人のささやき声に相当する30デシベルが80歳で聞き取れることを目標とする「聴こえ8030運動」を展開、聞こえにくさが気になるなら耳鼻科で聴力検査をするよう呼びかけている。

難聴のリスクを訴える東海大医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科の和佐野浩一郎准教授

難聴のリスクを訴える東海大医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科の和佐野浩一郎准教授=東京都千代田区


 ▽ランセット論文

 「難聴は社会的孤立や認知症、うつ、転倒につながるとのデータが国際的に積み重なってきた」と話すのは、東海大医学部の和佐野浩一郎准教授(耳鼻咽喉科・頭頸部外科)。
 医療界に衝撃を与えたのは、2017年の医学誌ランセットの論文で、認知症のうち35%が予防可能で、内訳として難聴が9%と最大の要因を占めたことだ。24年の最新評価では予防できる認知症45%のうち、難聴は高脂血症と並んで7%に更新されたが、それでも最大要因とされている。
 和佐野さんによると、加齢性難聴を放置すると社会的孤立に陥る確率が2・78倍、うつの発生率が1・48倍、認知症の発生率が1・37倍になるとの報告がここ数年で相次いだ。難聴は、孤立やうつ・不安の増加、聴覚刺激の減少を通じて認知症のリスクを上げていると考えられている。
 聴力の衰えは加齢により、音を感知する微細な毛の生えた耳の中の有毛細胞が減るのが原因。和佐野さんの調査では、補聴器などの対策が必要な中等度以上の難聴は70歳代で4分の1、80代では半数の人が占めた。


 ▽耳鼻科で検査

 加齢に加え難聴を起こす要因として、喫煙、糖尿病、騒音にさらされることが挙げられた。生活習慣病の管理や禁煙、規則正しい睡眠などが悪化の予防に効果的という。
 聴力はどれぐらいの大きさの音が聞き取れるかを検査し、ささやき声に相当する30デシベルが聞こえるかが一つの目安となる。数値が大きいほど難聴が進んでいることを示す。

音の大きさの目安

 
 学校や職場での健診で聴力検査があるが、2種類の音の高さで25~40デシベルが聞き取れれば正常と判断される。これに比べて、耳鼻科での検査は防音室内で7種類の音の高さでどこまで聞こえるかを測定する。和佐野さんは「職場など一般的な健診の基準では相当悪くならないと異常だと判断されない。聞き返しや聞き間違えが多くなったら耳鼻科で聴力検査を受けてほしい」と勧めている。

 生活の中で聞き取りづらさを感じるなら補聴器の利用が勧められ、補聴器を着けると、着けない場合に比べ、うつや不安の発生率が14%減少、転倒の発生率は13%減少したとの研究がある。高齢など認知症リスクの高い集団を対象に行われた米国の研究では、補聴器を使う人は認知機能が衰えるリスクが19%低いなど、補聴器の有効性を示す報告が増えているという。
 国内では難聴の自覚症状があっても医師を受診する人の割合が約4割で、5~8割程度を占める他の先進国に比べて低いことが指摘されている。


 ▽補聴器

 80歳で20本以上の自分の歯を保つとの日本歯科医師会の「8020運動」になぞらえ、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は80歳で補聴器を使っても30デシベルの聴力を保つ「聴こえ8030運動」を今年9月に始めた。80歳で30デシベルを維持している人は3割程度と推測され、20年後に5割にするのが目標だ。
 同学会理事で愛媛大の羽藤直人教授は「加齢性難聴は仕方のないものだと見過ごされている。補聴器や人工内耳という手術もある。30デシベルが保てれば高齢でも会話や音楽が楽しめ、豊かなシニアライフを過ごすことができる」と話している。(共同=戸部大)


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