デフリンピック日本初開催まで1年 耳のきこえない・きこえにくいアスリートの国際大会

デフリンピック日本初開催まで1年 耳のきこえない・きこえにくいアスリートの国際大会

2024.11.30 (最終更新:2024.11.30)

「東京2025デフリンピック」の大会エンブレムのパネル
「東京2025デフリンピック」の大会エンブレムのパネル。エンブレムは、人々のつながりを意味する「輪」をテーマに、デフコミュニティのシンボルである「手」を表現しているという=2024年11月19日、東京都庁

編集部

耳のきこえない・きこえにくい「デフアスリート」が参加する国際スポーツ大会「東京2025デフリンピック」が2025年11月、東京を中心に開かれる。日本でのデフリンピックの開催は初めて。70~80の国・地域から選手・関係者ら計約6000人が参加する見通しだ。(編集長・竹山栄太郎)


陸上など21競技を開催

デフリンピックは、国際ろう者スポーツ委員会(ICSD)が主催し、4年ごとに開かれる国際スポーツ大会。五輪と同様、夏季大会と冬季大会があり、夏季デフリンピックの第1回は1924年にフランス・パリで開かれた。

東京大会は夏季の第25回大会にあたり、2025年11月15~26日の12日間の日程で21競技が行われる。実施競技は以下の通り。

陸上、バドミントン、バスケットボール、ビーチバレーボール、ボウリング、自転車(ロード)、自転車(マウンテンバイク)、サッカー、ゴルフ、ハンドボール、柔道、空手、オリエンテーリング、射撃、水泳、卓球、テコンドー、テニス、バレーボール、レスリング(フリースタイル)、レスリング(グレコローマン)

競技会場は主に東京都内だが、サッカーは福島県、自転車は静岡県で開催する予定。70~80の国・地域から選手約3000人と、役員や審判、スタッフなど約3000人の計約6000人の参加を見込む。

出場するには、補聴器などを外した状態できこえる最も小さな音が55デシベル(普通の声での会話がきこえない程度)を超えているほか、各国のろう者スポーツ協会に登録し、記録などの条件を満たしている必要がある。競技は基本的に五輪と同じルールで運営されるが、スタートの際にランプが点灯したり、審判が笛を鳴らすだけでなく旗をあげるなど、選手が耳がきこえなくても目で見てわかる「視覚的保障」がなされる点が特徴。

パラリンピックには聴覚障害の選手を対象とした競技種目がないため、耳のきこえない・きこえにくい人にとってはデフリンピックが最大の国際大会となる。

来年の大会に向けて、国内唯一の聴覚障害者・視覚障害者のための国立大学である筑波技術大学の学生が「輪」をテーマにデザインした大会エンブレムのほか、全国の小中高校生約8万人がオンライン投票で3案から選んだメダルのデザインも公表されるなど、準備が進んでいる。

「東京2025デフリンピック」のメダル

子どもたちの投票で決まった「東京2025デフリンピック」のメダル。表(左)には、選手が羽ばたく姿をイメージして、折り紙でつくった鶴が描かれた。裏(右)は線がまじりあうデザインで、世界の人とのつながりを表したという


「両側から扉を開ける」

ICSDのアダム・コーサ会長が、開幕1年前のタイミングに合わせて11月19日、東京都庁に小池百合子知事を訪ねた。

小池知事は「世界中からデフアスリートが東京に集まる。みなさんが最高のパフォーマンスを発揮できるような環境を整え、円滑にコミュニケーションをとれるように、最新のデジタル技術も活用してサポートしていきます。こうした取り組みは、東京という都市を確実に進化させ、その未来を明るくするものだと確信しています」と述べた。

東京都庁で面会するICSDのアダム・コーサ会長と東京都の小池百合子知事
国際ろう者スポーツ委員会(ICSD)のアダム・コーサ会長(右)と東京都の小池百合子知事

手話であいさつしたコーサ会長は、「大会が大いに盛り上がることを期待しているし、日本にとってポジティブな影響を与える機会になると考えています」としたうえで、こう続けた。

「私は聴覚障害者ですが、障害者であるとはまったく思っていません。社会の重要な一部であると考えています。我々の間にあるのはコミュニケーションの壁のみです。今回の大会で、社会はよりオープンなものになると思いますし、両側から扉を開ける非常にいいきっかけになると思います。この大会を通じて、インクルーシブな社会を実現できると信じています」

手話で「デフリンピック」を表しながら並んで記念撮影するICSDのアダム・コーサ会長と東京都の小池百合子知事
記念撮影するICSDのアダム・コーサ会長(右から2人目)と東京都の小池百合子知事(同3人目)。手話は「デフリンピック」を表している


円滑なコミュニケーションを


東京都は「誰もが円滑につながる大会」を掲げ、デフリンピックを機に、国籍や障害にかかわらずスムーズにコミュニケーションをとれるデジタル技術の開発や社会実装を進める。都生活文化スポーツ局の担当者は「ユニバーサルコミュニケーションを社会に浸透させていきたい」と話す。

その一例が透明ディスプレーだ。会話を文字情報に変換し、画面に表示することで、きこえない人も文字で会話できるようにする。画面を透明にすることで、互いの顔を見ながらコミュニケーションがとれるようにした。都庁舎の総合案内のほか、競技会場となる東京体育館などのスポーツ施設などに設置している。

会話を変換した文字が映し出された透明ディスプレー
会話を変換した文字が映し出された透明ディスプレー
会話をリアルタイムに文字に変換し、32カ国語で表示できる透明ディスプレー(いずれも東京都提供)

そのほかの例が、スタートアップ企業の方角と連携して開発・検証を進める「ミルオト」。選手が競技中にボールを打ったり走ったりするときの音や、観客席の拍手・歓声などを、オノマトペ(擬態語・擬声語)で画面に表示することで、誰もが観戦や応援を楽しめるようにする技術だ。担当者は「あらゆる人にデフスポーツの魅力を感じてほしい」と話す。

卓球の試合の画面に「コッ」「カッ」といった音が視覚的に映し出された「ミルオト」の画面
「ミルオト」の画面(提供)

東京都は、選手や観客、関係者の案内・誘導や会場での運営サポートなどを担う約3000人のボランティアを、2025年1月末までウェブサイトで募集している。手話ができることは必須要件ではないという。


竹山栄太郎
竹山栄太郎 ( たけやま ・えいたろう )
朝日新聞SDGs ACTION!編集長。2009年に朝日新聞社入社。京都、高知の両総局で勤務後、東京・名古屋の経済部で通信、自動車、小売りなどの企業を取材。2021年にSDGs ACTION!編集部に加わり、副編集長を経て2024年4月から現職。


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