『カウンセリングとは何か 変化するということ』 東畑開人著 講談社現代新書 1540円
『難聴を生きる 音から隔てられて』 宿谷(しゅくや)辰夫・宇田川芳江編 岩波新書 1034円
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私はカウンセリングというものの良き理解者でないことを自覚している。(1)の最終章で出てくる「絶望」して去った当人であった。だからこそ臨床心理学全体を捉えんとする力のこもった本書には深く響くものがあった。
著者は現代の心の苦難の多くは、近代的個人主義の副作用と看破する。回復の道は二つある。生存か実存か。眠れない等の生活の困難を解決するのか、その人の存在そのものを歴史的、文学的に解決するのか。前者を「作戦会議」、後者を「冒険」と呼ぶ。その実践のなかで著者は「ユーザー」と生き延びる道を模索してきた。古い物語を捨て、新しい物語を得るために、「心を揺らし、意図的に破局を持ち込もうとするのがカウンセラーの仕事」などの至言に唸(うな)った。が、心を語れば語るほど「心」は逃れ去る錯覚にも陥る。あらゆる芸術が心の謎に相対してきた。むしろピア(当事者)同士の会話に力があると相対化することも可能だろう。ひとえにそれは本書が心とは何かを徹底的かつ真摯(しんし)に語り尽くしたからこそ。三十年は読み継がれようとした志に打たれる力作だ。
(2)は中途失聴・難聴当事者が、いかに透明化され、コミュニケーションからも隔てられ、孤独感を募らせるか、切実な声を届ける。「耳のメガネ」「狭間(はざま)の人」「聞き取れたふり依存症」等、当事者ならではの言葉の重み。日本では、十人に一人は難聴者がいるという。彼らの見えづらい障害を熟知したい。=朝日新聞2025年10月18日掲載
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