東京2025デフリンピック「サインエール」とは?“見える”応援で聞こえない選手に届け

東京2025デフリンピック「サインエール」とは?“見える”応援で聞こえない選手に届け

2024年12月5日
キーワード:#東京 #WEBリポート #スポーツ #文化

聞こえなくても届く応援

2025年11月に日本で初めて開催される、聴覚障害がある人たちの国際スポーツ大会「デフリンピック」。選手からは「声や音が中心の応援は受け取ることが難しい」という声がありました。

そこで新たに考案されたのが、手話をベースにした“見える”応援スタイル「サインエール」です。「拍手」や「日本」の手話などで表現されています。12月に、実際にデフリンピックが行われる会場で、初めての実証実験が行われました。新しい応援は、選手に届いたのでしょうか。

(首都圏局/記者 喜多美結)


大会1年前 “見える”応援も届ける準備

各国の選手と記念撮影

東京・世田谷区の駒沢オリンピック公園総合運動場で開催されたデフ陸上の大会。

「デフリンピック」の代表選考をかねた日本選手権と国際大会が同時に開催され、アメリカやイタリアなど11の国や地域から選手が出場しました。

会場で「サインエール」の応援団長を務めたのは、元デフ陸上・砲丸投げの日本代表、神初兼司さん

会場で「サインエール」の応援団長を務めたのは、元デフ陸上・砲丸投げの日本代表、神初兼司さんです。

見える形での応援を、デフリンピックに向けて頑張る選手に届けたいと、開発チームに参加しました。この日、午前中に会場に到着すると、選手から見えやすい観客席での位置どりや応援のやり方を確認していました。

神初兼司さん

応援団長 神初兼司さん
「私も選手だったのでわかりますが、デフ選手は声や音はほとんど聞こえないので、目で応援を受け取ります。だからこそ、選手に比較的近い距離で、目で見える形での応援をできたら届けられるのではないかと思うんです」


サインエールとは?どんな動作?

この「サインエール」は、東京都公認のデフリンピックの応援の形として、ことしの夏から4か月あまりかけて開発されました。

来年の大会に向けて、それぞれの競技に合わせた応援の仕方を検討していくことにしています。

サインエールの例(1)「拍手」
サインエールの例(1)「拍手」
両手を上げて手首を回転させ、ひらひらと動かす動作。手話の拍手と同じ意味


サインエールの例(2)「行け!」「がんばれ!」
サインエールの例(2)「行け!」「がんばれ!」
両手をパーにして顔の横から前に押し出す動作

陸上でもそれぞれの競技にあわせて応援のバリエーションを考案

陸上でもそれぞれの競技にあわせて応援のバリエーションを考案していて、例えば、円盤投げでは『投げろ!』、走り幅跳びでは『飛べ!』と、それぞれのサインエールで選手の背中を後押しします。会場では、応援団の様子を見ながら、一緒に手を動かす観客の姿も見られました。


大会で使った「サインエール」の効果は?

デフ陸上の山田真樹選手

今回の大会には、選手の立場でサインエールの開発に関わってきたデフ陸上の山田真樹選手も出場しました。

応援団は、会場の観客一人一人に声をかけて、山田選手の応援を一緒にしてもらうことにしました。集まったのは40人ほど。団長の神初さんと、サインエールの開発を進めてきた牧原依里さんは、初めての人たちにもわかりやすいよう、選手の名前の表現や、応援の方法について説明しました。

牧原依里さんは、初めての人たちにもわかりやすいよう、選手の名前の表現や、応援の方法について説明

牧原さん
まず、(手話で)「拍手」です。両手を体の前に出していきます。これで「行け!行け!」という意味を担っていて、スタートからゴールまでこの動きをしてください。山田選手の名前は、両手で「山」を3回つくったら、手話の「田」を陸上を意味する動きと組み合わせてやります。

聴覚に障害のある観客もいる中で、応援のタイミングをあわせることは簡単ではありません。応援団は身振り手振りのほか、言葉を書いたボードを回転するリズムなど、目に見える形の様々な工夫で、タイミングを伝えていました。合うまで、何度も繰り返します。

牧原さん
例えばトラック競技でゴールに近づくところなど盛り上がるタイミングでは、私が手を下から上に上げて合図をするので、その時にリズムを上げて、『いけ!いけ!』と一緒にやってください

山田選手

いよいよ山田選手が出場する国際大会の200メートルレースが始まる際には、応援団はスタート直前から、「行け」や「山田」など、繰り返し練習した「サインエール」を山田選手に送りました。応援を力に変えた山田選手は、2位でレースを終えました。

ゴールした後、山田選手から応援団に、手話で「ありがとう」と感謝の気持ちが伝えられました

ゴールした後、山田選手から応援団に、手話で「ありがとう」と感謝の気持ちが伝えられました。


応援に参加した人は

初めてのサインエールを体験した観客からは、前向きなことばが聞かれました。

参加した男性

参加した男性
「今までの応援では1人でやっていたので、みんなで応援できて楽しかったです。選手が喜んでくれたかは分かりませんが、最後に『ありがとう』と言ってくれたのでうれしかったです。これからもみんなと一緒に応援したいと思います」

参加した女性
「こんな風に応援することが出来るんだと、初めて知ることが出来ました」


選手からの声は

開発にも関わり、初めてサインエールを受けて走った山田選手。聞こえない選手にとって、見える形での応援は励みになったといいます。

山田選手

山田選手
「きょうは選手の立場としてサインエールを見て、応援が伝わってきて本当に力をもらいました。改めて応援は、ろうの選手にとって大事だなと思いました。サインエールをつくってよかったです」

他の選手も、会場の一体感を感じたと話す選手が多くいました。

女子800メートルに出場した選手
「いつもは応援がバラバラのように見えますが、きょうは団結していて一体感が感じられました。デフリンピックでも応援をたくさんもらって、力に変えて頑張りたいです」


サインエール 実践には課題も

神初兼司さん

選手からは前向きなことばが聞かれた一方で、課題も見えてきました。

山田選手
「競技場が広かったり、太陽の逆光でまぶしかったりして、スタート地点からは客席が見えませんでした。今回はゴールに応援団がいましたが、スタートで応援してもらって走る前に気持ちを高めたいなと思いました」

サインエールについて話す神初さん(左)と 観客(右)
サインエールについて話す神初さん(左)と 観客(右)

観客
「あらかじめどんな選手が出るのかや、どんな種目があるのかの情報があれば、選手の名前を出して応援できると思います。もっと情報共有が大事だなと思いました」

団長の神初さんは、今回の課題を踏まえて、大会までにさらに改良を重ねていきたいとしています。

神初団長
「陸上ではさまざまな競技が同時に進行していくので、会場も広く移動が大変だなと思いました。今回は応援団が1グループしかなかったのでゴールの近くで応援しましたが、もっとばらけて応援出来るようにしていきたいです。今後は、もっと多くの方に参加したいと思ってもらえるサインエールにしていきたいなと思います」


編集後記

印象的だったのは、「こうしたら選手に応援が届けられるんだ」と、気づきを得た観客のことばでした。

聴覚障害は周りから気づかれにくく、デフスポーツはほかのパラスポーツと比べて特徴がないように見えるかもしれません。でも、聞こえないことによる情報伝達の壁は、思った以上にあります。

私自身、聞こえない人の立場として「こうして欲しい」と思うこともありますが、分かってほしいだけではなく、伝えることも大事だと感じています。

観客が『「こうやったらいいんだ」と教えてもらえて気づけた』と言っていたように、選手の視点も通したサインエールで気づけることが、たくさんあると感じます。

聞こえる聞こえないに関わらず、みんなで取り組めるこの応援から、お互いの理解が進んでいくことを期待したいと思います。



首都圏局 記者  喜多美結

首都圏局 記者
喜多美結
2023年入局。共生社会やスポーツ、教育に関心があります。


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