「認知症」と「脳」のプロが、いま「早口ことば」に注目する"意外なワケ"…!

「認知症」と「脳」のプロが、いま「早口ことば」に注目する"意外なワケ"…!

リビングで座る男性の後ろ姿

2024.11.22 # 認知症

認知症予防の「最前線」を聞く

佐藤 映湖


厚生労働省の「認知症高齢者の将来推計」によると2025年には約700万人(65歳以上の人口対比約20%)が認知症高齢者と発表されている。来年には5人に1人が認知症というわけだ。推計では2050年には800万人以上という数字もあり、人口対比のパーセンテージも上がっていくと予測されている(※参照)。

メガネを頭上にあげたままメガネを探したり、カタカナのビジネス用語がなかなか覚えられないうえに噛んだりすると「もしかして」と暗鬱とした気分になる人もいるだろう。しかし、シンプルにできる予防方法があったとしたら……。

認知症は「病気」であるが、根本的な治療薬はなく、完治は難しい。家族が認知症にかかり、暮らしがガラリと変わった人は少なくないだろう。しかし認知症が病気であれば、なにかしらの予防は可能ではないのか――。

実際、認知症予防の研究は各方面で進められている。長年、京都大学大学院医学研究科附属高次脳機能総合研究センターで脳の研究を積んだ京都大学名誉教授、市立野洲病院院長、福山秀直博士は、このほど『「早口ことば」で認知症予防』(福山秀直・佐藤正文共著)を上梓したばかり。まずはそんな福山博士に、認知症予防の最前線について聞いた。

『「早口ことば」で認知症予防』(福山秀直・佐藤正文共著)


福山 秀直プロフィール

市立野洲病院病院長。京都大学名誉教授。医学博士。脳機能研究の第一人 者。1975年京都大学医学部卒業、2001年高次脳機能総合研究センター教 授に就任。ポジトロンCT(PET)や、MRIを活用して脳内のさまざまな機能や物質を画像化し、人間の脳機能の仕組みをはじめ、高齢化社会の重要課題である認知症の研究にも取り組む。京都大学医学部附属病院、現在は市立 野洲病院で神経内科臨床医としても活躍。

福山 秀直


脳の老化と認知症を予防するのに有効なことは…?

>>認知症にかからないためにはどのようなことに気をつけたらいいですか。

福山  これまでの疫学的研究から、認知症の原因の一つとして、社会的孤立、うつ病などがあげられます。したがって他人とのコミュニケーションをとり、社交的な生活を続けることが、脳の老化を防ぎ認知症になることを予防するのに有効であるとされています。

>>つまり、人とかかわることが認知症予防になると。

福山 人間の脳は大きく発達した前頭葉が特徴です。神経科学的で完全に解明されているわけではありませんが、前頭葉には創造、推測、意識集中などの機能がありますが、その他に、他人を忖度する、あるいは、心を持つなどの機能に関係があると考えられています。「人の間」と書いて人間を意味するように、現人類が集団生活を好み、相互にコミュニケーションを取り合うのも、この前頭葉に関係しています。そしてもう一つが言語機能。こちらも人を人たらしめているものですが、認知症予防に重要な役割を果たしているようです。

>>30代、40代から気をつけたほうがいいことはありますか。

福山 基本的に、働き盛りの人の認知症予防の方策はまだ見つかっていません。しかし、いわゆる生活習慣病がアルツハイマー病(最も一般的な認知症)の原因になるので、高血圧、高脂血症、糖尿病に注意し、難聴(突発性難聴など)にならないようストレスを回避することが重要です。50代以後では、重要なのは会話です。それに、うつにならないよう、趣味を持つことが重要です。友達を大切にして、よく話すことも重要です。


「早口ことば」のレッスン

ある年代になったらコミュニケーションと言語機能を磨くことが重要だという。とはいえ50代にかかると、滑舌が思ったように働かなくなるという人も……。プレゼンで噛んでしまった、聞き返されることが多くなった、自分でもなんだかもそもそ話している自覚がある、という人は少なくないだろう。

その「なんだかもそもそ」を解決してきたのが、早口ことばを含めたことばのレッスンを延べ5000人に行ってきた演技トレーナー佐藤正文氏だ。本業はプロの俳優の先生ではあるが、アマチュアの朗読や演技指導にも力を入れている。続いて、そんな佐藤氏に聞いた。

佐藤 正文

佐藤 正文プロフィール

演技トレーナー、演出家、俳優。1970年桐朋学園大学演劇専攻科卒業。劇団 俳優座、安部公房スタジオを経て日本大学芸術学部非常勤講師、尚美学園 大学客員教授。芸能プロダクションavex、スターダスト・プロモーションなどでも 演技レッスンを担当し、多数の俳優を育成する。アマチュア劇団や朗読サー クルを指導し、高齢者を含め延べ約5000人の受講者にトレーニングツールの 一つとして「早口ことば」を指導。マンツーマン、少人数での指導を基本とし、 正しい発語に導くきめ細かい指導は定評がある。


>>早口ことばは子どもの遊びのようにも思えますが、発語力の手助けになりますか。

佐藤 確実になります。話すということは「情報や感情という荷物を船に乗せて相手に届けること」というのが私のイメージです。高齢になっても蓄積された経験や、熱い思いは変わらないのですが、それらを乗せて相手に届けるための船が古くなって、荷物が、つまり情報や気持ちが「まだら」に届く、というのがシニアの発語事情でしょう。発語している本人はちゃんと伝わっていると思っているのに、何かが欠けた状態で届いているということはままあります。コミュニケーション不全は気づかないうちに始まっているのです。その、壊れ始めた船を修理したり、立て直したりする方法の一つが早口ことばです。

韻をふんだり内容が不条理だったり、早口ことばはとっかかりがスムーズ(とっかかりに興味を持たせることがミソ)です。子どもが遊ぶように面白い早口ことばを楽しくできると、なお良いと思います。

>>効果はすぐに出るのでしょうか。長続きしますか。

佐藤 私はたいてい生徒さん各々にあった宿題を出します。宿題をちゃんとやってきた人は目に見えて上達します。例えば、早口ことばの宿題を出された人は、毎日3〜5分、時間を割けば良いわけで、次のレッスンで発表すると、やってきたかサボったかはすぐにわかるんですよ。私だけでなく、クラスの皆にわかります。

また、一度獲得したら生涯忘れない。自転車に乗る技術と違って、滑舌のよさは休むとスルリとこぼれ落ちます。

例えばシニアの参加者ご自身の病気やご家族の介護などで数ヶ月、あるいは数年休まざるを得なくなることがあります。休み明けは、滑舌が悪くなっているのは当然ですが、本人曰く「全てに自信がなくなった」「周囲が怖くなった」、と言うのです。レッスンを開始し、またコツコツと宿題をやっていくと以前のように発語の滑らかさを取り戻し、自信が出て人として輝いてくるのがわかります。


早口ことば、継続すると副産物も手に入る

毎日数分、早口ことばのための時間を作るとはっきり話せるようになる。だったら散歩の時に鼻歌のように早口ことばを唱えるのはどうだろう。掃除しながら早口ことば、お風呂でも早口ことば。こうして何度も言うと九九のように早く滑らかに言えるようになるはずだ。

福山 記憶の話を少ししましょう。記憶は、対象物を記銘(coding)、保存(storing)、想起(retrieval)の3つのプロセスが関与すると言われています。そして、記憶を蓄える保存の機能は、左側頭葉の前方が主に担っていると考えられています。加齢とともに、左側頭葉前部が萎縮して(痩せて)記憶の保存が悪くなるということですね。そしてこのプロセスを強制的に使うと、ことばが出てくることをスムーズにすると推測されます。つまり、発語に伴い言語野の左前頭部を強制的に使う早口ことばは、この記憶プロセスも強制的に使われ、慣れるにしたがってスムーズな言語の想起ができるようになると推測されます。

訓練には前頭葉の参画が必要で、前頭葉の訓練にも役立つものと思われます。

佐藤 言いにくいことばにチャレンジする、長いことばを一息で言うなど、少しずつステップアップしていくと、より効果があると思います。ラジオ体操と同じように、早口ことばを朝のルーティンに取り入れるのも良いかもしれません。私の朗読教室では、蚊の鳴くような声で読んでいたご婦人が、百人のお客さんを前に自信を持って太宰 治を読み上げました。作品を選び、歴史背景を調べ、辞書を引き、現場に出かけ、精力的に準備した結果です。早口ことばを入り口に生き方が変わる人もいます。

努力しないとできない早口ことばをやることで、記憶のプロセスも磨かれる、物忘れの改善にも役立つと言うことだ。何度も繰り返して早口ことばを覚え、ただただ高速で唱えても期待する効果は表れない。少し難しいことをやるのが良さそうだ。

『「早口ことば」で認知症予防』(福山秀直・佐藤正文共著)

佐藤正文氏生出演
「Fm yokohama Futurescape(エフエム横浜・フューチャースケープ)」
毎週土曜日、朝9:00~11:00に放送している情報ワイド番組
12月7日(土)10:00~10:30 スタジオ生出演
MC の小山薫堂さん、柳井麻希さんと新刊 『「早口ことば」で認知症予防』について語ります。


リンク先は現代ビジネスというサイトの記事になります。
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