
■大学のダイバーシティ
障害のある人も、大学生活をみんなと同じように送りたい。障害がある学生が授業を受けやすくするためのサポートをすることで、支援をする学生も成長する。そのために講習会の開催や、仲間として支え合う「ピアサポーター」活動などに力を入れる大学が増えています。平等に「教育を受ける権利」を行使するために、大学ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。(写真=平成28(2016)年度香川大学「バリアフリー支援講習会」活動報告から。香川大学提供)
大学のバリアフリー
障害があっても同じように生活を送れる社会の実現を目指して、2024年4月から、障害のある人への「合理的配慮」の提供が民間事業者にも義務化されました。「合理的配慮」とは、障害者が社会の中で直面する困りごとや障壁を取り除くために、負担が重すぎない範囲で配慮し、対応することを指します。国公立大学では2016年に義務化されていますが、私立大学ではこれまで努力義務として各大学の判断に委ねられていました。
多くの大学では、障害のある学生が入学した場合、学びの機会を失うことなく、他の学生と同等に学べる環境を整備するための修学支援を行っています。しかし、障害といっても、どんな症状があるのか、症状の程度も人それぞれです。そのため、本人からの申し出を受けた後、面談を通じて、それぞれの困りごとや障壁に対応した支援内容を決めるのが一般的です。
障害のある学生のための専門窓口を設けている大学の数は、支援障害学生在籍大学638校のうち235校(令和4年度〈2022年度〉大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査 結果報告書)と、まだまだ決して多いとは言えませんが、独自の取り組みを行っているところもあります。
法政大学では、「障がい学生支援室」を設け、「障がいのある学生がその他の学生と同じレベルで授業を受講できるようにするための授業支援を中心に、障がいのある学生が社会へ出るための自立をサポートし、障がいのある学生と支援学生の双方が成長できるコミュニティ作りを目指して」いるとしています。
立命館大学でも「障害学生支援室」を設置、専門のコーディネーターが常駐し、多様な学生の支援ニーズを聞き取るなどして、修学しやすい環境をつくるべく調整しています。さらに、支援技術や関連情報(リソース)の提供などについて、教職員や学内支援関係者からの相談にも対応しています。
また、筑波大学や青山学院大学では、入試だけでなく、オープンキャンパスなど入学前の段階でサポートが必要な人の相談にも応じています。入学後のキャンパスライフでは自身の持つ症状についてどんな配慮がなされ、どういった支援が受けられるのかについてあらかじめ知りたい人は、事前予約をしたうえで、大学側の話を聞いてみることもできます。このように専門機関、窓口を設けてそれぞれ対応している大学も増えつつあります。
学生同士で授業を支援
香川大学では、2015年に「バリアフリー支援室」を開設し、翌年から本格的に活動を始めました。

とはいえ、支援室の開室当初は、学生サポーターによる支援を必要とする学生はいませんでした。しかしながら、いずれそのような支援を必要とする学生が在籍することを見越して、まずは学生サポーターである「ピア・サポーター」の養成に力を入れました。「ピア」とは、英語で「仲間」「同輩」の意味です。障害のある学生の支援は多岐にわたるため、学生サポーターの存在は欠かせません。実際のサポート場面では、ピア・サポーターの自主性や、サポーターと支援を受ける学生とのコミュニケーションが重要です。
同大バリアフリー支援室専任教員の大沼泰枝さんは、「いざサポートが必要な障害のある学生を迎えることになったときに備えて、常にピア・サポーターを募集し、2017年以降は30〜50人ほどに登録してもらっています。ピア・サポーターになるために特別な資格などは必要なく、希望者は登録後、講習を受けてもらいます。サポートを希望する学生がいない年であっても、手話や車椅子介助、要約筆記などの講習会を定期的に開催しています」と話します。

助けた学生の成長にもなる
2024年3月に教育学部を卒業した多田雅さんは、2年次に「聴覚の発達と障害」という授業を受講したことをきっかけに、ピア・サポーターに登録しました。
「ピア・サポーターの存在自体は知っていましたが、自分に務まるのかなという不安があり、登録するのを躊躇していました。でも、授業で次年度から聴覚に障害がある学生が編入学すると聞き、自分の空きコマを使ってだれかの役に立てるのならと思い、サポーターに参加することにしました」
多田さんが3年になった2022年度に、國富浩人さんが教育学部へ編入学してきました。國富さんは聴覚障害で授業が聞き取りづらいため、音声認識アプリ「UDトーク」を使った授業支援を希望しました。これは授業の内容を知るための「情報保障」に該当します。

多田さんらアプリの講習を受けたピア・サポーターたちは、國富さんが履修する10科目ほどの授業を手分けし、それぞれの授業の空き時間を使って受け持ちました。一緒に授業に出て、アプリを介して文字起こしされる内容の誤変換や不要な雑談部分などをパソコン上で修正・編集する作業を行いました。

多田さんは、「最初のうちはアプリやパソコンの設定に苦労し、急に音声の文字起こしができなくなったり、Wi-Fiがつながりにくい環境でパソコンがうまく作動しなかったりしてパニックになっていました。でも活動を続けていくうちに、トラブルが発生したときはノートと鉛筆に切り替えるなど、臨機応変に対応できるようになりました。自分自身の成長も感じることができ、自信がつきました」と振り返ります。
支援を受ける側の國富さんも、以前在籍していた大学とは支援体制が異なったことで、「周囲の認識や環境を変えるためにも、自分が何に困っていて、何を助けてほしいのかを周りに明確に伝える力が身につきました」と話します。
「参加の保障」を実現してほしい
今後、大学での修学支援にどんなことを期待するかを國富さんに尋ねると、次のような答えが返ってきました。
「すべての学生がリアルタイムに情報を得て、その場に参加できる『参加の保障』を実現してほしいです。例えば私の場合、音声認識でiPadに文字が反映されるまでにタイムラグがあり、画面を見ている間に講義は進んでしまいます。グループワークも同様で、画面を見ている間に話が進んでいて、今何の話をしているのかわからずに参加できないという状況がしばしばあります。情報保障があれば十分というわけではなく、学生に情報が伝わったうえで、その場に参加できるかどうかが重要です。情報保障のその先にある参加の保障に向けて、どんな合理的配慮を行うのがいいのか、お互いにしっかり話し合っていくことが大事だと思います」
どんなに想像力を働かせても当事者でないとわからないこともありますが、障害のある学生に接し関わり合うことで、理解が深まります。こうした他者理解は、さまざまな人たちが集まる大学だからこそ、学べることの一つです。多様性が求められる今の社会にあって、障害の有無にかかわらず、互いを認め合い、共に生きることを学生時代に体験すれば、共生社会を実現するための一歩になるのではないでしょうか。
>>【連載】大学のダイバーシティ
※学年は取材時のものです。
(文=岩本恵美)
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