森中航

日本代表は金2、銀6、銅4と合計12個のメダルを獲得。中でも山田は男子4×100mリレーで金、男子4×400mリレーと男子400mで銀、男子200mで銅とひとりで4つものメダルを勝ち取った。
「まだコロナ禍だった2022年、ブラジルで行われたデフリンピックは選手団の中で(新型コロナ)感染が広がってしまいチーム全体が途中棄権することになりました。仕方のないこととはいえ、僕の本命だった200mを走れなかったことが消化不良でした。やりきれない気持ちが大きくなって今までのようなモチベーションを維持できなくなり、昨年は陸上からちょっと距離を置いて役者の活動にウエートを置いていたんです」(山田)
しかし、日の丸ユニホームが再び山田の心に火をつけた。今年1月、本格的に競技に復帰すると、リレーチームで合宿を敢行。1走・坂田翔悟、2走・足立祥史、3走・山田真樹、4走・佐々木琢磨の4人で徹底的にバトンパスの技術を磨いた。
30mのテイクオーバーゾーンの手前に、前走者がここまで来たらスタートを切る目印の粘着テープを貼るのは健常者のリレーと一緒。だが、競技中は補聴器の使用が一切許されず前走の足音も声もまったく聞こえないままバトンを受け渡すところにとてつもない難しさがある。
「決勝当日は僕の調子が良かったので、(2走の)足立さんに『いつもより早めにバトンを受け取りたい』と提案しました。そうすれば僕が走る距離が10mくらい長くなります。ただ合宿でもやったことがない試みだからいちかばちかなところもあった。チームが僕の意見を受け入れてくれてうれしかったし、もうやるしかないって覚悟が決まりました」
デフの〝リレー侍〟は台北の地を渾身の力で激走し、山田からバトンを受け取ったアンカー・佐々木琢磨が先頭を譲らぬまま1位フィニッシュ。世界記録に0・05秒に迫る41・15秒の大会新記録だった。
「実は佐々木さんの飛び出しが半歩分くらい早かったんです(笑い)。『やばい、バトン渡すの間に合わないっ』と思ったくらいで、下手したら失格していたかもしれない。でも、あそこも完璧だったら世界新記録を出せるんじゃないかとチームのみんなで気づきました。来年、みなさんに歴史が変わる瞬間を見せたい!」
来年11月には「東京2025デフリンピック」が日本で初開催される。山田は最後にパリ五輪代表にエールを送った。
「東京五輪のバトン失敗は見ていてつらかったですし、僕たちも失敗することがあるので気持ちは痛いほどわかります。再びメダルを取ってもらって思いを晴らしてほしいなと思います。リレーが〝お家芸〟というのは五輪もデフも一緒。いい流れを作ってもらって僕たちがしっかり受け取って走ります」
パリ五輪代表から東京デフリンピックのリレー侍へ、華麗なるバトンがつながるか注目だ。
森中航
芸能企画班を経てデジタルメディア室。東スポnote編集長。
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