初の日本開催「デフリンピック東京大会」で体感した“聴こえない世界”の奥深さ 「サインエール」の応援席では泣きそうに… 武内陶子

初の日本開催「デフリンピック東京大会」で体感した“聴こえない世界”の奥深さ 「サインエール」の応援席では泣きそうに… 武内陶子

2025/12/01/ 11:00
武内陶子

武内陶子

初の「デフリンピック」観戦!(本人提供)


 にぎやかな手の動き、静かだけれどカラダ全体で表現する力強い応援の海。会場の一角に集まった人たちが束になって同じ動きで選手たちにサインを送っている。見たことがない動きだ。なんだろう。コートに立つ選手たちと観客が一体となって作り出す熱狂に、わくわくする。私が初めて観戦したデフバレーボールの会場での光景だ。

【写真】金メダルも獲得した「バレー会場」の様子はこちら

 11月15日から12日間、日本で初めてデフリンピックが開かれた。デフリンピックは国際的な「きこえない・きこえにくい人のためのオリンピック」だ。歴史は意外にも古く、第1回は1924年。「国際ろう者競技大会」としてフランス・パリで開かれている。1924年といえば関東大震災の翌年、日本は大正時代だ。パラリンピックが始まったのが1960年だから、それよりも歴史が古い大会なのだ。しかも今大会が「100周年」の記念の大会だった。

 そんな大会がせっかく東京で開かれるのだもの、見に行かなくちゃ! と、私が最初に観戦したのはデフバレーボールの日本戦。私のふるさとである愛媛の選手がいると聞きつけ会場に駆けつけた。会場に入ってまず驚いたのは、当たり前だけれど、手話で会話する人たちの多さだ。視線を合わせ、まるでダンスを踊っているように、流れるような動きでコミュニケーションが交わされている。どの人も表情豊かで楽しそう。聴こえない人たちは視覚が頼りだから、お互いに目を見つめ合いながら心を交わす。手話はもちろん見たことはあるけれど、これだけたくさんの人が周りで手話を交わしている光景を目にするのは初めてだ。

 試合が始まった! 試合中、選手たちは補聴器や人工内耳などを外してプレーする。一般のバレーボール同様、主審は笛を鳴らすが、選手たちはその音ではなく、主審の動きやサイン、そして仲間との視覚的な意思疎通に集中してプレーする。ひたすらボールの行方を目で追い、ラリーをつなぐ。視覚でのタイミングを合わせやすくするために高めに上げる球が多いのもデフバレーの一つの特徴だと聞いた。しかし体を張ったブロックや息を合わせた速攻攻撃も見事で、その張り詰めた緊張感、一瞬のチャンスも見逃すまいとする真剣なまなざしは、とても迫力があった。

バレーボール会場の応援席にて(本人提供)

バレーボール会場の応援席にて(本人提供)


選手の気持ちに寄り添う「サインエール」

 デフの大会だからといって会場は静寂に包まれているわけではない。笛の音はするし、手話で会話する人たちの活気に満ちた手の動き、さらに人工内耳をつけている人たちの会話の声も聞こえる。聴こえる人と聴こえない人、それぞれが心地よい方法でコミュニケーションを取り応援する姿は、まさに多様性あふれるとてもすてきな現場だった。

 バレーボールでの感動を胸に、その後も私は何度も駒沢オリンピック公園総合運動場に足を運んだ。私のインスタの投稿を見てくれた作詞家でエッセイストの麻生圭子さんが「私も一緒に行きたい!」と連絡をくださり、滋賀の琵琶湖のほとりからわざわざやってきた。圭子さんとは20年来の友人である。実は圭子さんは重度の難聴で人工内耳をつけている。「私は当事者だから行きたい!」と熱い思いで会場入りし、一緒に観戦した。

 デフリンピック5日目の陸上競技。偶然「サインエール」の応援席に入れてもらうことができた。席に座って「あ!」と気づいた。バレーボール会場の応援席で、みんなで束になって応援していたグループはこれだったのか!! 今回の大会のために手話をもとにサインエールというものを開発したのだそうだ。先日は「むこう正面」から眺めているだけだったが、ラッキーにも2人でこの応援に参加することになった。見ているだけよりやるほうがなんでも楽しいに決まっている。

 驚いたのはその多彩な表現だ。私が知っていた「頑張れ!」「行けー」だけでなく、サインはさまざま。選手がアップしている時には「大丈夫!大丈夫!」「落ち着いて!」「勝てる!」の気持ちに寄り添うサインエール。声ではなく、みんなの心を合わせて繰り返し繰り返し、体全体で伝えるこの応援に、感激して涙が出そうになった。そしてこの日、私たちはデフリンピック東京大会最初の金メダルとなる、山田真樹選手の男子400メートルのレースを目撃したのである。日本デフ記録を更新するという、歴史的瞬間だった。


「あたしたち、もしかして勝利の女神?」

 圭子さんは中途失聴だから手話はできない。

 私も「ありがとう」「こんにちは」のあいさつぐらいしか知らない。周りで交わされる私たちの知らない会話を「見」ながら、改めて、聴こえる人と聴こえない人の共通言語が日常にはないことを突きつけられ、「手話、やりたいなあ」と2人で何度も話した。

 圭子さんは自分と同じ人工内耳をつけた人がたくさんいる現場を見て、「えー! 私と同じ人がたくさんいるんだー!」と有頂天になっていた。うれしすぎて、後日「もう一回行きたい!」とまたまた滋賀から上京してきたほどだ。仲間がいるということはかくも心強いものなのだ。

 おまけにこの時には、圭子さんの人工内耳がまさかのバッテリー切れとなり、「ごめん!ここからはまったく聴こえなくなりま〜す!」と、心細かっただろうに、大冒険にもひるまず突っ込む圭子さん。しかしすぐに筆談アプリをダウンロードして私たちはたくさん「会話」しながらまたまた大盛り上がりで観戦。なんとこの日も陸上男子リレー2種目の金メダルを目撃することとなった。

 この日は最後の表彰式まで見届け、「あたしたち、もしかして勝利の女神〜ズじゃない?」と筆談しながら笑い合った。そしてこの日、自身3つ目のメダル獲得に大喜びしてファンサービスしてくれた山田真樹選手にも大はしゃぎ。金メダルの表彰台から降り、観客席に向かってジャージーの胸元から何かを出すと思いきや、おちゃめに指ハートを出すその姿に、思わず大笑いしてしまった。この明るさが最高なのだ。

 デフリンピック観戦は、私にとって新しい世界との出会いとなった。視覚で伝え合うコミュニケーション、そして、心で通じ合う温かな現場に立ち会えたことが幸せだった。

「私の普通は、だれかの普通じゃない」

 そんな、気づきを与えてくれたこの大会に心からの感謝を伝えたい。

 頑張った世界中のデフの選手たち、おめでとう! ボランティアの皆さん、そしてその場に足を運んで応援してくれた皆さん、本当にありがとう!

 私は、またこの経験を力に、見えにくいけれどいろいろな困難を抱えた人たちの力にもなれるよう、前進していきたいと思います! 指ハート〜!!


リンク先はAERA DIGITALというサイトの記事になります。


 

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