2026.03.19
人生を楽しむ「アクティブ世代」のための大人の文化祭「朝日新聞Reライフフェスティバル2026」で、2月23日に専門家2人による講演「眼と耳のアンチエイジング! 今日からできるセルフケア」が行われました。その要旨をまとめました。
その1 「アイフレイル」自己チェックから早期発見・治療を 小沢洋子さん
講演の前半では、藤田医科大学東京先端医療研究センター臨床再生医学講座 羽田クリニックアイセンター教授の小沢洋子さんが「眼のアンチエイジング」と題し、早期発見・早期治療の大切さを強調しました。

藤田医科大学の小沢洋子教授
皆さん、「アイフレイル」を聞いたことはありますか。「アイ」は英語で眼のこと、「フレイル」は加齢で生じる脆弱性(もろさ)のことで、健康な状態から、高度な視機能障害に至る途中の段階をさします。眼が見えづらいと運動不足になり、筋肉が落ちます。人と話すのも面倒くさくなり、社会的に孤立します。心理的にもうつになりがちです。
こうしたアイフレイルに早く気づいて適切な治療や対処をすることが非常に重要です。日本眼科学会など関連団体でつくる日本眼科啓発会議が「アイフレイル啓発公式サイト」を作り、自分でできるチェックリストなどを公開しているので、ぜひウェブで検索してください。
サイトの中の「アイフレイルチェックリスト」をクリックすると、10項目の質問票が出てきます。「眼が疲れやすくなった」「夕方になると見えにくくなることが増えた」「段差や階段で危ないと感じたことがある」といったものです。1項目あてはまる人はちょっと怪しい。2項目以上の人はぜひ検査を受けてください。
そのほか、自己チェックができるツールも複数掲載されています。例えば、10秒間まばたきをせずにいられるかどうかを測るツール。10秒もたなかったらドライアイかもしれません。また、「見え方の質」を調べる視力表もあります。濃い黒で書かれた「C」なら見えても、薄いグレーで書かれた「C」が明らかに見づらい時には、病気の始まりの可能性があります。格子模様の見え方をチェックするものもあります。もし格子がゆがんで見えたら病気なので眼底検査を受けないといけません。
眼がゴロゴロ、不快感があるときはドライアイかも
眼の不調には大きく分けて2種類があります。ひとつは「眼がゴロゴロする/かゆみなどの不快感がある」ことです。もう一つは「見づらい」ことです。
まず、眼がゴロゴロして不快感があるときに多いのはドライアイです。眼の表面の角膜は涙で覆われていますが、この涙が少なかったり、すぐに乾いたりすると、アカギレのように眼の表面に傷ができてしまいます。
また、涙には水分のほかに油の成分もあります。まぶたの内側から油が出るところを「マイボーム腺」といい、これが詰まると油でべたべたしたり、眼の表面に油膜ができて見づらくなったりします。
ドライアイもマイボーム腺機能不全も目薬などの治療を受ければ多くは改善するので、迷わず眼科にかかってください。
「みづらい」は要注意 緑内障など失明に至る病気の可能性も
「見づらい」ときは要注意です。放っておくと、失明や日常生活が困難になる場合もあるからです。人は外部情報の80%を視覚から得ています。日本人の失明の原因の3分の1は眼底の病気です。
「見づらい」の原因には、まず老眼があります。遠くは見えるが近くは見づらい。眼の調節力が下がっているのです。眼鏡をかければ見えるはずです。最近は眼鏡だけでなくコンタクトレンズも遠近両用があるので、眼鏡に抵抗がある方にはよいかもしれません。
次に、白内障があります。眼のレンズが白く濁る病気です。手術で濁りを取って眼内レンズを入れれば通常、視界はクリアになります。少しお金はかかりますが、最近は多焦点レンズもできました。遠近両用レンズを眼に入れるようなもので、遠くも近くもわりとよく見えます。

緑内障になるとどうなるのか
「見づらい」がシビアな病気の場合、失明もあり得ます。そのひとつは緑内障です。はじめは視野に部分的に見えないところができ、それがだんだん広がっていきます。信号機があることに気づかないで交通事故を起こしてしまったというケースも少なくありません。
緑内障の原因は視神経の強度に比べて眼圧が高いことです。その圧力を受けて、眼底にある視神経が弱って死んでいきます。視神経の欠損が進行すると元には戻りません。治療方法は眼圧を下げることです。目薬や、場合によっては手術をします。早期発見・早期治療が非常に大切です。
孫の顔が見えなくなるかもしれない 加齢黄斑変性
「加齢黄斑変性」は、見ようと思ったところの真ん中が見づらくなるのが特徴です。例えば、かわいい孫の顔を見ようとすると、そこが見えないわけです。眼底の中心を黄斑といいますが、そこでの出血や萎縮が原因です。治療は眼に注射して行います。治療法は進化しており、2025年に初めて開始された新しい治療法もあります。
この加齢黄斑変性は私の専門なのですが、早く見つけることが非常に大事です。高齢で「最近、なんか見づらいんだよね」という方は眼科できちんと診てもらうことをおすすめします。リスクを高めるのは喫煙、肥満、高血圧、動脈硬化など。そのため、禁煙、メタボ解消、高脂肪食を控えることでリスクを減らせます。予防のためのサプリメントもあります。米国の研究で非常に良い結果が出ており、マルチビタミンにルテインと亜鉛をまぜたものを毎日継続して摂取するのがおすすめということになっています。
健康長寿には眼のアンチエイジングが非常に重要です。そのために自己チェックを強くおすすめします。自宅で「アイフレイル」で検索し、「アイフレイル啓発公式サイト」のチェックリストを試してもし異常があれば、すぐに眼科に行きましょう。
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その2 難聴は認知症リスクの「ナンバー1」 補聴器で生活の質維持 平野滋さん
講演の後半では、京都府立医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科教授の平野滋さんが「聞こえの健康」と題し、難聴と認知症が密接につながっていることや補聴器の有用性について解説しました。

京都府立医科大学の平野滋教授
日本はこれから超高齢化社会を迎えます。健康に長生きするために聴覚は非常に需要です。年をとると、皆さんも、程度の差こそあれ、必ず難聴になります。聴力検査で高い音から聞こえなくなってきます。日常生活ではあまり気づかないのですが、ある日突然、「聞こえにくいな」と思ったときは、すでにある程度聴覚が落ちていることが多いのです。
聞こえの仕組みですが、まず音の振動が鼓膜にぶつかり、鼓膜が太鼓のように振動します。この振動が、内耳にある聴覚神経に伝わり、電気信号に変わって脳に運ばれます。最終的には大脳皮質で感じます。加齢で悪くなるのは内耳の聴覚細胞です。本来1万2000本ある細胞が、年とともにどんどん抜け落ち、難聴を起こします。
難聴者は世界で15億人以上とされます。日本では、補聴器が必要な難聴者が約2000万人といわれています。70代で4人に1人、80代で2人に1人の割合です。難聴にともなう経済損失は世界で年間140兆円とされます。
もっとも大事なことは、難聴は認知症リスクの「ナンバー1」であることです。WHO(世界保健機関)も米ジョンズ・ホプキンス大学もそのように述べています。つまり、難聴と認知症は直結しているわけです。そうならないために今できることは補聴器しかありません。
「見た目」気にする日本 補聴器の普及率は15%と低迷
補聴器とは、かんたんに言えば、音を大きくする装置です。大きく分けて2種類あります。ひとつは「気導補聴器」、もうひとつは「骨導補聴器」です。
気導補聴器は増幅した音をイヤホン式で鼓膜に伝えるもので、現在の主流です。いっぽう、神経に直接伝えたほうが効率良いということで生まれたのが骨導補聴器です。ただ、こちらはある程度圧力をかけないといけないので、長時間装着していると痛くなるということもあり、あまり普及が進んでいません。

日本人と補聴器のありよう
日本の補聴器の普及率はたいへん悪く、15%にとどまっています。欧州では50%前後ですから、これは非常に大きな問題です。なぜ日本で普及しないのか。その理由としてあがるのは、まず「雑音や自分の声がうるさい」です。これは、補聴器をきちんと選んで調整すればかなり解決できます。
それよりも大きな問題は「恥ずかしい・見た目が気になる」が多いことです。このハードルが日本は特に高いといわれています。ほかに経済的な理由もあります。デジタル補聴器は片方で10万、20万円するのが当たり前とされます。ヨーロッパ先進国では国が9割を補助していますが、日本の助成率は8%。学会を挙げて厚労省に物申しているのですが、課題のままです。
最近の補聴器には、スタイリッシュで目立たないものが増えています。見た目が非常に良いものがたくさん出ているので、もう「補聴器はかっこ悪い」などといわず、積極的に使っていただきたいと思います。
「聴こえ8030運動」 難聴予防になる抗酸化物質
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会では「聴こえ8030運動」を数年前から進めています。これは、80歳で30dB(デシベル)の聴力を保とうというものです。補聴器をつけてでもいいので30dBを維持すれば、日常生活は楽ですし、認知症予防にもなります。
しかし、いま実際に80歳で30dBを達成している率は30%しかありません。まず聴力検査をして補聴器をつける。かんたんなことですが、それができていないのが現状です。そこで最近、歌手の近藤真彦さんに出演をお願いして「マッチ60歳、聴力検査デビューします!」というACジャパンCMを流しました。
加齢に伴う難聴について最近、いくつかのことがわかってきました。その一つが「酸化ストレス」です。たとえば、リンゴの切れ端を置いておくと、どんどん悪くなります。空気中の酸素に触れることによって活性酸素が生まれるからです。このような酸化ストレスは人間の場合「体のサビ」ともいわれます。
この活性酸素が、聞こえの神経細胞があるところにたくさん出ると、加齢性難聴を促進するということが世界中の研究でわかってきています。うちの医局員の研究なのですが、マウスを使った実験で、高齢のマウスは内耳に多量の活性酸素があることが判明しました。また、遺伝子改変によって活性酸素ができないようにしたマウスは難聴を起こさないこともわかりました。
活性酸素を中和する抗酸化物質を体外からとりいれることが予防につながると考えられます。具体的には、ビタミンC(レモン、キウイ、パプリカ、ブロッコリー)、ビタミンE(アーモンド、アボガド、オリーブ)、βカロテン(ニンジン)、ポリフェノール(カカオ、赤ワイン、ベリー類)、カテキン(緑茶)、カロテノイド(トマト)、セサミン(ごま)などです。抗酸化サプリメントも販売されています。
難聴を予防するためには日々の暮らしが大切です。ストレスをためないこと。激しい運動はあまりしないこと。規則正しい生活。規則正しくバランスのとれた食事。禁煙。そして「難聴になったな」と思ったら、すぐに聴力検査を受け、補聴器をつけることです。
(「高齢の父は耳が遠くなっているが、補聴器をつけるのが嫌な様子。つけるように勧めたほうがいいのか悩んでいる」との質問に答えて)
難聴は認知症をすすめます。ぜひ補聴器をつけていただきたい。その際に気をつけるのは、適切な補聴器を見つけることと、適切な調節です。耳鼻咽喉科で聴力検査を受け、補聴器専門店に行くことを私たちは推奨しています。専門店なら1週間くらい色々な補聴器を試させてくれます。さらに大事なのは、買ったあとの調整をしてくれることです。各周波数に合わせてどれくらい音量を上げるかといった調節は、専門店にしかできません。最近のデジタル補聴器は性能が良いので、ぜひつけるよう勧めてあげてください。
(構成/ライター・橋本聡、写真/長谷川明)
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