2025.10.22

「デフリンピック」という言葉を知っていますか? 「デフ(Deaf)」は英語で「耳が聞こえない」という意味。つまり、デフリンピックとは、耳が聞こえない人や聞こえにくい人たちのための、国際的なスポーツ大会のことです。オリンピックと同じく、4年に1度開催されています。そして来月15日から、日本で初めて、東京でデフリンピックが開催されるのです!
その正式種目の1つである「デフバドミントン」に魅了された、作家の舟崎泉美さんにお話を伺いました。
きっかけは自身の病から
――“デフスポーツ”に興味を持ったきっかけは何ですか?
舟崎:私は、数年前にメニエール病と診断されました。内耳の不調によって、難聴やめまいを繰り返す病気です。はじめは、急に左耳がつまったような感じがして、低音が聞き取りにくくなりました。そのときは、薬を飲んで2週間程で落ち着いたので、ストレス性の難聴だろうと思ったんです。
でも、低気圧の影響などで聞こえにくい状態を繰り返すようになり、メニエール病の診断が下りました。現時点で日常生活への支障はありませんが、将来に漠然とした不安を感じます。そんななか、デフスポーツやデフリンピックの存在を知り、興味を持ちました。
――それまでは、デフスポーツに強い関心があったわけではないのですね?
舟崎:正直、デフスポーツという言葉すら聞いたことがありませんでした。パラリンピックはテレビなどで見たことがありますが、デフリンピックという大会が別に開催されていることも、全く知りませんでした。
静かな世界でも、熱量はすごい!

――デフバドミントンの第一線で活躍されている方々の練習や試合を見学されたのですよね。いかがでしたか?
舟崎:プレーの迫力に圧倒されました! 音が聞こえないことで、特にダブルスはコート内を動き回りにくいなど、何かしらの影響があるのかなと思っていたのですが、全くそんな様子はありませんでした。みなさん、トップアスリートなので、スピード感もものすごくて……。
強いていうなら、選手同士の声でのやり取りがないことが、デフスポーツの特徴でしょうか。とはいえ、シャトルを打つバンッ!という音や、靴が床をこするキュッ!という音が絶えず鳴り響いています。会場全体がエネルギーにあふれている感じでした。
――舟崎さんのお言葉からも、熱気がうかがい知れます!
舟崎:見学前に、日本デフバドミントン協会の理事・中西朋実さんにお話を伺いました。「競技場は静かだけど、熱量はすごい」というお言葉が心に残ったのですが、練習や試合会場の雰囲気は、まさにその通りでした。
――プレー以外で、印象的だったことはありますか?
舟崎:馬場大地選手の練習を何度か見させていただいたのですが、聴者(聞こえる人)の大学生と身振り手振りを交えながら会話されていたのが印象的でした。
――事前のイメージとは違っていたのでしょうか?
舟崎:試合中は筆談をする時間もないですし、コミュニケーションは全て手話になるのかなと想像していたんです。でも、みなさんいろいろな方法を使い分けていらっしゃるようでした。
デフリンピック出場予定の沼倉千紘選手にもお話を伺いましたが、手話が苦手な選手とは、身振りやくちびるの動き、表情などで言いたいことを伝え合うそうです。固定観念にとらわれすぎていたと、ハッとしました。
――相手と信頼関係が築けて意思疎通ができれば、方法はなんでもよいということですね。
舟崎:その通りですね。特に顕著なのが、ダブルスの試合だと思います。聴者同士であれば、かけ声でどちらが打つかなどの合図を出します。でも、デフバドミントンは、声がなくてもパートナーとの阿吽の呼吸でプレーを続けていたのが格好良く、印象的でした!

――デフバドミントンの選手たちは、どうやってパートナーと連携を図るのでしょうか?
舟崎:沼倉選手に伺ったお話では、練習中にパートナーと、さまざまなケースごとにどちらがシャトル(羽根)を拾いにいくかなどのルールを決めているそうです。
パートナーと信頼関係が築けていれば、自分がやるべきことに集中できる。もし失敗しても、相手がケアしてくれると信じられる。逆に、信頼関係が築けていないと相手の動きが気になって、自分のプレーに集中できない、とおっしゃっていたのが印象に残っています。お互いの気持ちを声に頼らずに通わせ合えるのは、非常に魅力的だと感じました。
考え方ひとつで世界は変わる
――デフバドミントンの魅力を伝えようと、小説『聞こえない羽音』を書かれたのですね。
舟崎:はい。今までデフスポーツを見たことがなかった、知らなかった方たちに、興味を持つきっかけをお届けしたいと思って書きました。
主人公は、数年前まで聴者として生活していた中学生の女の子・花音です。身近な友だちに話を聞いてみる感覚で読んでいただけたら、と願っています。
――執筆を通して、舟崎さんご自身の病気のとらえ方にも変化があったと伺いました。
舟崎:先にもお話しした通り、私はメニエール病を患っています。もし将来、自分の耳の状況が悪化したらと想像したとき、これまでは目を背けたくなるのではと思っていました。でも、この作品を通して、逃げるだけでは何も始まらないと感じたんです。
――作中にも、そのお気持ちは表現されているのでしょうか?
舟崎:はい。主人公の花音も、はじめは自分の聴力が失われていくことを受け入れられずに悩みます。しかし、デフバドミントンと出合って、「耳が聞こえない人生」ではなく「自分の人生」を歩もうと一歩踏み出します。
誰しも、どうしようもない不安に襲われること、人生に悩むことはあるはず。でも、目を背け続けるだけでは不安は消えません。まずは、その不安に向き合うこと。その勇気を持てたら、人生は変わっていくと思います。読んでくださった方にも、そんな思いが芽生えてくれたら、これ以上うれしいことはありません。
――――ありがとうございました。

聞こえない羽音
舟崎泉美 小学生 1430円(税込)
耳が聞こえなくなって、もう笑えないんじゃないかと思ってた。
もう何もできないと思ってた。
でも――、あなたとバドミントンがしたい。
涼宮花音は中学2年生。授業や友だちとの会話が聞きとりにくくなるなか「感音性難聴」の診断が下り、大好きなバドミントンができなくなってしまう。絶望のふちに突きおとされた花音だったが、デフバドミントンと新たなダブルスのパートナーと出会って、人生が変わりはじめる。
一度はすべてを失った花音の、再生と挑戦の物語。
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構成・文/小学館児童創作編集部
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