
2024.11.28
ADHDがわかる⑤後編

榊原 洋一 お茶の水女子大学名誉教授
プロフィール
困った行動はなぜ? 誰に相談する? 治療すればよくなる? この先どうなる?
イラスト図解で基礎からわかるADHD入門書『ADHDがわかる本 正しく理解するための入門書』より、連載形式でADHDの「今」をご紹介します。
今回は、学校側がADHDの子どものためにできる配慮について解説。
前編<ADHDであることを、本人や学校にどのように伝えるか? 「あなたが悪いからではない」と伝えることの大切さ>
教室の環境、席順などへの配慮
ADHDの子どもの目線になると、教室の中には、気になる刺激があちこちにあるのがわかります。掲示物や席順に配慮するなど、集中しやすい環境に整えることが大切です。
園や学校でおこなえる支援として、まず取り組みやすいのが「環境の整備」です。教室には学用品や掲示物などたくさんの物があり、人もたくさんいます。視覚・聴覚が常に刺激されるので、ADHDの子どもが集中を保つのは非常に困難な環境だといえます。
目や耳から入る刺激は極力減らし、学習に取り組みやすい環境づくりを目指します。「掲示物を減らす」「座席は最前列の中央にする」など、ちょっとした工夫でも効果があります。多動や不注意が現れるきっかけは人それぞれなので、様子をみながら、環境の改善をはかっていきましょう。
■ADHDの子どもはこんなことが気にかかる
教室内で目や耳から入るさまざまな情報が、ADHDの子どもの集中を妨げます。

■集中できる教室づくりの工夫
座席の位置の変更や、掲示物の貼り方を変えるなどの工夫で、ADHDの子どもは集中しやすくなります。
(1)座席は最前列の中央がベスト
最前列の中央は、先生の正面になるので余計な刺激が入りにくい。窓際や出入り口付近はNG。トラブルを起こしやすい子どもとは離れた席にする
(2)掲示物はできるだけ後方へ。動かないように留める
掲示物はできる限り減らし、必要なものだけを教室の後方に移動させる。黒板まわりをスッキリさせるのがよい。また、掲示したものは、風でひらひらしないよう、しっかり留めておく
(3)音に対する配慮を
耳栓やイヤーマフをつけるほか、ヘッドフォンで小さくBGMを流す方法もある。机やいすの脚にゴムのカバーを被せることで、机やいすの音が気にならなくなる
(4)ついたてで集中できる場所を確保する
机の左右に簡単なついたてを置いて、視界に入る情報を減らす。壁のほうに向かって作業したほうが、集中できることもある
(5)棚やロッカーは布でカバーする
棚やロッカーには布で簡易的なカーテンを取り付け、中身が見えないようにする。色は緑や青など穏やかなものを選ぶとよい
困りごとを解決できる道具を使用する
ADHDの子どもはLD(学習障害)をあわせもつことも多く、文字を読んだり、書いたりするのが苦手なケースがよく見られます。このようなときは、教材の工夫や支援ツールを利用することで、負担を減らすことができます。
たとえば、音読補助シートを使えば、読むべき行がひと目でわかるので、そこだけに注意を向けやすくなります。また、文字を書くのが苦手な子どもには、大きいマス目で行も広いものを用意するとよいでしょう。苦手な部分を補うために、必要に応じて、学習用端末の使用範囲を広げるなどの支援も必要です。
■教材の工夫・支援ツールの導入
本人が苦手なことを無理にやらせるのではなく、困難を軽減するための教材や支援ツールを導入しましょう。

授業はわかりやすく、視覚化する工夫を
ADHDの子どもは同じ作業を長い時間集中しておこなうのは難しいので、授業は「スモールステップ」で進めるのがポイントです。
作業や課題を、一つずつ進めていきます。指示を出す際は、一度にあれこれ言わず、「〇ページを開きなさい」などのように、一つだけ指示するのがコツです。
このときに、ページを開いた教科書を見せるとよいでしょう。「聞く」だけよりも、「話す、書く、見る、触る」など、さまざまな感覚に訴えたほうが、関心を引くこ
とができるからです。
マグネット付きの絵カードや指導用ビデオ、ブロック教材、具体物(りんごやボールなど)を、積極的に活用してみてください。一つの課題に取り組めたら、その都度、ほめてあげると意欲と自信につながります。テストや宿題も、できることから段階的に進めていきましょう。
■授業中に必要な配慮
簡潔な指示を心掛けます。スモールステップで課題を区切りながら積み重ねていきましょう。途中に小休止があると、さらに集中力を保つことができます。
(1)指示は簡単に。1日の見通しを視覚化する
スケジュールを視覚化して、見通しをもたせておくのもよい

(2)クールダウンできる避難場所をつくる
がまんできなくなったときに逃げ込める避難場所をつくっておく。保健室なら、養護教諭と連携して対応できる
(3)個別に声をかける
課題に取り組むときは「あと5分だけ集中しよう」など声をかける。宿題は、状況に応じて難易度や量を調整する
(4)配布物を配るなど動ける時間をつくる
ずっと座っているのは苦痛になる。「配布物を配る、教材を持ってくる」などの仕事を与え、動ける時間を設けるとよい
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・どこに、だれに相談する?
・専門医のかかり方と治療法
・家庭でできるペアレンティング
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