ヨーロッパの街並み

「インクルーシブ教育=同じ教室で学ぶ」ではない。ベルギーのフランス語共同体の答えとは?【言語聴覚士 原先生が伝える世界のインクルーシブ教育】

2026.5.29

ヨーロッパの街並み

発達障害のある子どもの療育に長年携わってこられた言語聴覚士・社会福祉士の原 哲也先生が、2024年と2025年の2度にわたってベルギー・デンマーク・イタリアのインクルーシブ教育を見学。現地の教育の様子を数回に渡ってお届けするシリーズです。今回は、「専門性を伴う特別支援教育」を重視してきたベルギーのインクルーシブ教育についてお届けします。


民族や文化など、違いを前提に社会を作ってきたベルギー

ベルギーは、ヨーロッパの中心に位置する人口約1,100万人の小さな国です。ベルギーといえば、日本では「ベルギーワッフル」「チョコレート」「フライドポテト」が有名です。中でも、フライドポテトはベルギーでは国民食のような存在で、街角には「フリッツ」と呼ばれるポテト店が並び、人々は家族や友人と気軽に立ち寄ります。ビールも有名で、トラピストビールに代表されるベルギーの修道院ビール文化は世界的にも知られています。

ブリュッセル市内にフライ専門店が多くある

ブリュッセル市内にフライ専門店が多くある


また、ナポレオン最後の戦いの戦場であるワーテルローもベルギーにあります。ベルギーは歴史的に多くの国や民族、文化が交差してきた国であり、それゆえに「違いを前提に社会を作る」という感覚が今でも比較的強いのだと思います。

 

「言語共同体」 ごとに違う教育制度

ベルギーではフランス語【南部地域】、オランダ語(フラマン語)【北部地域】、ドイツ語【ドイツ国境地域】という3つの公用語ごとに「言語共同体」があります。教育行政は「言語共同体」が管轄・運営するので、教育制度は全国共通ではありません。

ですからインクルーシブ教育に対する考え方も制度も、言語共同体ごとにかなり異なります。今回は3つの言語共同体のうちの「フランス語共同体」のインクルーシブ教育についてお話したいと思います。

 

障害の種別ごとに特別支援学校が整備されてきた

ベルギーのインクルーシブ教育で興味深いのは「インクルーシブ教育=みんな同じ教室で」という考え方ではないことです。

特に「フランス語共同体(Fédération Wallonie-Bruxelles)」は、「通常学校で学ぶこと」を大切にしつつも、「通常学校だけで抱え込まない」ことをめざしています。そのために「通常学校に専門性を届ける」、すなわち専門職が関わることで通常学校が専門性を活用できるようにする方法を考えてきました。

その背景には、「言語共同体」が教育行政を担うようになるずっと前から、ベルギーが「専門性を伴う特別支援教育」を重視してきた歴史があります。

ベルギーでは1914年の義務教育法の頃から、通常教育だけでは対応できない子どもの教育が課題になっていました。1931年には知的障害や身体障害のある子どもにも義務教育が拡大されましたが、当時は「障害のある子どもには専門的な教育を」という考え方が強く、障害種別ごとの特別支援学校が整備されていきました(分離教育)。

ブリッセルには素晴らしいディスプレイのお菓子屋さんが沢山ある

ブリッセルには素晴らしいディスプレイのお菓子屋さんが沢山ある


「分離」は、その子にとって必要な支援を届けるため

分離教育にはどうしても障害のある子どもを通常教育の場から排除するというイメージがつきまといますが、ベルギーでは「分離」は「排除」ではなく「その子に必要な支援を届ける」ため、という文脈で行われました

これは日本の保護者や支援者にとっても考えさせられるものです。すなわちインクルーシブ教育=「通常学級にいること」ではなく、本当に大切なのは、

・子どもが安心して学べる
・特性が理解される
・必要な支援がなされる
・保護者が孤立しない

ことなのです。

これらを叶えるためにベルギーでは障害種別ごとの特別支援学校を整備し、そこで医療、心理、福祉、教育を結びつけて「必要な支援」を提供しようとしました。

ただ「障害のある子どもも通常学級でともに学ぶ」という意味でのインクルーシブ教育推進は世界的な流れであり、その中でベルギーでも通常学級か、分離して専門的支援かという問題についての議論が継続してなされてきました。

この点について、1970年の教育関連法の大規模な改正では、「児童・生徒は本来、通常教育に通うべきである」とした上で「特別教育は例外であり、十分な評価を経て判断されるべき」という原則が示されました。

しかし、この改正を受けてもフランス語共同体はすぐに「完全通常学校型」へは進みませんでした。フランス語共同体では障害のある子に対してはむしろ通常教育とは異なる「専門性」が必要という考え方が強く残っていたからです。

実際、ベルギーはヨーロッパの中でも「分離型特別支援教育」の割合が高い国(中等教育段階において約5.36%が分離型教育[segregated educatio]に在籍)の一つとして知られています。

参照:European Agency for Special Needs and Inclusive Education(EASIE 2021/2022)

しかし、それと同時にフランス語共同体では「専門性を通常学校へ届ける」ことも模索しました。その背景には、視覚障害や聴覚障害、知的障害といった、従来の障害類型とは異なる障害、すなわち、読み書き障害・学習障害・認知処理の困難などを持つ子どもの支援ニーズの増加がありました。

 

記事のポイント! 

インクルーシブ教育というと、すべての子どもが同じ教室で学ぶことを思い浮かべがちです。しかしこの記事では、ベルギーのフランス語共同体の取り組みを通じて、子どもに必要な支援を見極め、学校に専門性を届けることの大切さが紹介されています。合理的配慮や地域支援ネットワークの考え方から、学びやすい環境をどう整えるかを考えるきっかけになります。

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原文掲載元はこちら 

 https://hugkum.sho.jp/780493

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